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【コラム】 日本近海の異常潮位

第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化
平成25年12月20日

通常、海面は1日にほぼ2回、規則的に昇降を繰り返す。その高さと時刻は過去の潮位データをもとにして地球と月、及び太陽の運行からあらかじめ推測することが可能で、「平常潮位」や「天文潮」と呼ばれる。しかし、実際に観測される潮位は、様々な原因で平常潮位と異なり、観測される潮位と平常潮位の差を潮位偏差と呼ぶ。潮位偏差を生ずる代表的なものには、台風などで起こる高潮や地震で引き起こされる津波がある。このほかに潮位偏差の高い(又は低い)状態が広範囲に数週間を越えて続く現象があり、異常潮位と呼ばれる。異常潮位は季節に関係なく発生しているが、平常潮位が年間でも高くなる夏から秋にかけて、正偏差の異常潮位が起こると低地では浸水害が発生することがある。
2011年9月に瀬戸内海の沿岸で起きた浸水害は異常潮位により発生した災害であり、海洋が沿岸に住んでいる人々に影響を与えた一例である。近年、日本沿岸では平均的な海面水位が高い状態が続いており、地球温暖化などによって海面水位が更に上昇すると浸水害の頻度が増し、災害規模も大きくなることが懸念されている。ここでは、異常潮位の特徴や発生原因などを解説する。
異常潮位の一例として2001年の夏に南西諸島で発生したものを示す。図1は那覇検潮所で観測された日最高潮位の変動である。那覇検潮所では7月に入ってから潮位偏差が徐々に大きくなり、16日には+20cmを超えた。その後、7月21日から23日及び8月19日から22日の2度の大潮期には潮位が大きく上昇し、那覇市内で満潮時刻前後の時間帯に道路冠水があったのをはじめ、沖縄本島とその周辺で漁港施設への浸水や道路の冠水が発生して市民生活に影響を及ぼした。また、農作物への被害も報告されている。

図1 那覇検潮所の日最高潮位の変動(2001年7月~9月)

図1 那覇検潮所の日最高潮位の変動(2001年7月~9月)


このときの異常潮位の原因は、沖縄本島へ中規模渦が接近したためと確認されている。一見水平にみえる海洋の表面に、実際は直径数百kmの渦に伴った凸凹が多数存在している。それらの渦を海洋学では「中規模渦」と呼んでいる。このうち、時計回りの流れを伴い凸レンズ状の海面の盛り上がりをもつ中規模渦は、周囲よりも水温が高く、暖水渦と呼ばれる。このような暖水渦の一つが、2001年1月から7月にかけて、潮岬の南方約1100kmの地点から、1か月に約150kmの速度で東から西に移動し、沖縄本島の南東に到達したことが確認された(図2)。渦の直径は約400kmと推定されている。渦を横切る海洋観測によって把握された渦の水温構造から、暖水渦の中心付近では周囲よりも海面水位が約18cm高いことがわかり、これは那覇検潮所の潮位偏差とおおむね一致している(野崎ほか,2003)。

図2 2001年6月中旬の海面高度解析をもとにした中規模渦の模式図

図2 2001年6月中旬の海面高度解析をもとにした中規模渦の模式図


南西諸島では、2008年にも石垣島を中心に暖水渦の影響による異常潮位が発生した。その際は、異常潮位が発生する約1年前から暖水渦が太平洋を西進する様子が、海洋観測データや衛星海面高度計データを用いた気象庁の数値海洋モデルにより捉えられていた(田中ほか,2010)。
異常潮位で潮位が高くなる原因としては、暖水渦の接近のほかに、これまでの調査から次のような海洋と気象の影響が挙げられている。
①黒潮の接岸により黒潮を挟んで海面水位の高い海域が沿岸に接近するために海面水位が上昇する。また、黒潮の流量が減少することにより、黒潮を挟んだ沿岸と沖合の海面水位差が減少するために沿岸の海面水位が上昇することがある。
②日本南岸に沿った西向きの海流(沿岸反流)の強化に伴い、地球の自転の影響で海水が岸方向に移動するために流れの右側(沿岸)の海面水位が上昇する。
③気圧の低い状態の継続に伴い周囲より海面を押し付ける力が弱まるために海面水位が上昇する。
④南岸に沿った東よりの風の継続に伴い西向きの流れが生じ、②と同様に沿岸の海面水位が上昇する。

図3に従来から異常潮位の被害が報告されている日本南岸、南西諸島、日本海の沿岸を代表して、串本、那覇、富山における異常潮位の発生回数の経年変動を示す。日本南岸の串本を除いて発生回数が増加する傾向はみられなかった。しかし、日本沿岸では1990年代後半以降海面水位が平年値に比べて高い状態が続いていることから、異常潮位とともに今後の海面水位の動向を注視する必要がある。

図3 各検潮所における異常潮位の年間発生回数(5年移動平均)の経年変動

図3 各検潮所における異常潮位の年間発生回数(5年移動平均)の経年変動


参考文献

  • 野崎太・檜垣将和・高野洋雄,2003:中規模渦による南西諸島の異常潮位.海と空,79,39-49.
  • 田中明夫・原口慶子・岡田良平・五十嵐陽子,2010:異常潮位に関する潮位情報等へのMOVE/MRI.COM の利用.測候時報,77,特別号,S83~S93


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