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第3章 北西太平洋の海洋汚染の状況

平成25年12月20日

海洋は、海流などの物理的過程とプランクトンによる物質の生成、分解などの生物地球化学的過程により、様々な物質を循環させている。この循環のなかで植物プランクトンによって合成される有機物は、海洋に生息する多様な生命を支えるエネルギー源となっている。海洋が汚染されることは、単に海岸や海水が汚れるだけの問題ではない。それが海洋の生態系、ひいては物質循環にまで影響を及ぼす重大な問題なのである。
海洋は、負荷された汚染物質を拡散・沈降させ、生物化学的なプロセスで分解する浄化作用を備えている。しかし、人間の社会経済活動が拡大するにつれて排出される汚染物質は増加の一途をたどってきた。内海・内湾などのいわゆる閉鎖海域では、浄化作用のレベルを超えた生活排水の流入によって富栄養化が進行し、しばしば赤潮・青潮が発生して養殖魚の大量死滅などの被害をもたらしている。また、タンカーの事故等に伴う原油の流出が、海岸付近の生態系に大打撃を与えた事例も少なくない。人為的に排出された有害化学物質のなかには、海洋生物の体内に取り込まれて濃縮され、生殖機能の障害や奇形個体を発生させるなど、生態系を破壊するものさえある。
特に、多くのプラスチック類は化学的に安定であり、時間とともに風化されて細かく砕けるものの、海洋の浄化作用では分解できない。プラスチック類が一旦海洋に排出されると、回収されない限り沿岸域や外洋域の環境中に残ることになる。釣り糸が体に絡まった海鳥、ポリ袋を誤食したウミガメなど、海洋生物に対する深刻な被害が数多く報告されている。また、プラスチック類の小片に海水中の有害物質が吸着して濃縮され、海水とともに輸送されることで汚染が拡大するメカニズムも明らかにされつつある。
このように、今日の海洋汚染はすべて人間活動が原因といっても過言ではない。汚染物質の大半は陸上起源であり、沿岸域から外洋域へと流出し、海流や風に乗って世界中に拡散する。また、海洋において排出・投棄・放棄されたものが汚染の原因物質となる事例も少なくない。したがって、海洋汚染の問題は一国のみの努力で解決できるものではなく、国際的な取り決めに基づく対策が不可欠である。1970年代前半には「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約(ロンドンダンピング条約:1972年採択)」や「船舶による汚染の防止のための国際条約(マルポール73/78条約:1973年採択)」が採択されている。また、大規模なタンカー事故による油汚染を契機とした議論から「1990年の油による汚染に関わる準備、対応及び協力に関する国際条約(OPRC条約)」が採択されるに至った。更に、1994年に発効した「国連海洋法条約」では、条約の締結国に海洋環境保全の努力が義務づけられている。
これらの国際条約の実効性を高めるため、国連環境計画(UNEP)は閉鎖性の高い国際海域について環境保全のための協力を呼びかけた。この取り組みが「地域海計画」で、地中海、広域カリブ海、紅海・アデン湾、南アジア海などで採択されてきた。日本海や黄海を中心とした海域については、1994年4月に日本、韓国、中国、ロシアによって「北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)」が採択され、各国は海洋環境保全に対する様々なプロジェクトを実施している。また、有害金属類による汚染の拡散等への国際的対応を行うための枠組みも作られつつあり、特に水銀に関しては、法的拘束力のある文書の制定を視野に入れた政府間交渉が進められている。
一方、日本国内では、ロンドンダンピング条約やマルポール73/78条約を巡る国際的な議論を背景として、1971年に「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律(海洋汚染防止法)」が施行された。気象庁は1972年、同法に基づき、海洋汚染の防止及び海洋環境の保全に資するために、日本近海及び北西太平洋の海洋バックグランド汚染観測を開始した。同年、海上保安庁も日本近海、主要湾などを対象として海洋汚染調査を開始した。また、環境省は「水質汚濁防止法」、「環境基本法」、「瀬戸内海環境保全特別措置法」などに基づいて沿岸域を中心とした海洋汚染の調査を実施しており、水産庁も漁場・海浜の美化・環境保全の観点から様々な取り組みを行っている。更には、環境問題に取り組む民間の非営利団体等も、国際海岸クリーンアップなどの環境浄化に向けた運動を展開している。
この章では、おもに気象庁の観測データに基づいて、外洋域における浮遊プラスチック類、浮遊タールボール・油分及び重金属による海洋汚染の状況を診断する。



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