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3.3 重金属

第3章 北西太平洋の海洋汚染の状況
3.3 重金属の要約はこちら
平成25年12月20日

診断概要

診断内容

 重金属の多くは生命を維持するために必須であるが、中には毒性があって生物の成長を阻害するなど有害なものもある。ここでは、北西太平洋の水銀及びカドミウム濃度についてその状況を診断する。

診断結果

 日本周辺海域及び東経137度線の北緯0~30度における水銀及びカドミウムの濃度は、自然界で通常観測される範囲にあると判断できる。

1 重金属による海洋汚染

重金属とは、金属のなかでも比重が4から5よりも大きいものをいい、その多くが生物にとって必須の元素である。例えば、鉄は血液のヘモグロビンの主要構成成分であり、亜鉛も様々な酵素を作るために欠かせない。しかし、必須元素も環境における濃度が高くなると有害になる場合があり、また水銀やカドミウムのように元々生物にとって有害なものもある。気象庁は、生体内に蓄積されやすく有害でもある、この二種類の重金属を観測項目としている。
水銀は化学工場(例えばアセトアルデヒド製造工程)や金の採掘・精錬に伴って排出されることが多く、我が国では水俣病の原因となった。また、イタイイタイ病を引き起こしたカドミウムについては、火山国である日本では地中からの放出もあるが、主に鉱山・精錬所、ニッケル・カドミウム電池製造工場、ゴミ焼却場、廃棄物埋め立て地などから、排煙や排水とともに環境中に排出されることが知られている。日本は世界有数のカドミウム消費国であり、大半はニッケル・カドミウム電池に使用されている。しかし、水銀やカドミウムについては、その毒性に対する意識から、最近使用が忌避される傾向が強まっている。また、国連環境計画(UNEP)により有害金属類による汚染の拡散等への国際的対応を行うための枠組みも作られつつあり、特に水銀に関しては、法的拘束力のある条約制定に向けた政府間交渉が進められている。
海洋における水銀、カドミウムは濃度が極めて低いうえ、共存する化学物質が分析を妨害するため、直接測定することは極めて困難である。このため、分析の最初に分離・濃縮操作を施してから原子吸光法によって測定している(Sagi et al., 1974; 気象庁, 1999)。しかし、水銀もカドミウムも自然の環境中に存在しており、採水から分離・濃縮に至るまでのあらゆる段階で周囲の環境からの混入を受ける可能性がある。気象庁においても1980年代まではこれを十分に防ぐことができなかった。したがって、海洋の重金属についての確かな分析値を得るようになったのは、専門の研究者の間でさえ1970年代後半以降と考えるべきであるとされる(坪田, 1991など)。
なお、海水中のカドミウム濃度はリン酸塩濃度と高い相関を示すことが知られており、その鉛直分布型も類似していることが知られている(坪田, 1987)。実際、リン酸塩などの栄養塩に富む親潮域の表面海水では、栄養塩に乏しい黒潮域に比べて高濃度のカドミウムが検出される。

2 重金属の監視

気象庁は1972年に海洋バックグランド汚染観測の一環として、水銀、カドミウムの観測を開始している。しかし、上述のように当時の分析値は環境からの混入を受けているとみられ、バラつきが大きかった。少なくとも、1990年代の初頭までは原因を特定できない異常な高濃度データが現れていたため、自然界の濃度レベルを評価する基礎資料としては不適切と思われる。ここでは、試料水の採取方法や分析手法が確立され、測定技術も定着して信頼できる分析値が得られていると考えられる1995年以降のデータを用いる。


図3.3-1 表3.3-1に示す日本周辺海域の区分

図3.3-1 表3.3-1に示す日本周辺海域の区分
赤丸は各海域の観測地点。

表3.3-1に、1995~2012年に観測された表面海水中の水銀及びカドミウムの濃度(平均値、標準偏差及び観測値の範囲)を海域ごとに示す(日本周辺海域の区分は図3.3-1のとおり)。外洋域における水銀及びカドミウムの自然界の濃度は、それぞれ0.4~2ng/kg及び 0.1~110ng/kg の範囲とされている(Bruland, 1983)ので、これを診断の基準とする。
水銀濃度の平均値は、いずれの海域も3~5ng/kgで、観測された最高の濃度は北海道南方の43ng/kgである。基準値を若干上回るものの、大半はほぼ同じ桁に収まる低い濃度レベルである。
一方、カドミウムについては、栄養塩の豊富な親潮が分布する北海道南方海域で最も濃度が高く、平均36ng/kgであった。また、観測された最高濃度も同海域における91ng/kgであり、観測された値は自然界の濃度レベルと判断できる。
なお、環境省(2009)は、日本周辺海域の重金属汚染に関して、大都市圏からの負荷が沿岸域の堆積物に影響を及ぼしているものの、沖合域においては人為的負荷が認められるレベルではないとする一方、近隣諸国の経済発展に伴う越境汚染の増大への懸念と、それに対応した調査の実施の必要性について述べている。


表3.3-1 1995~2012年に観測された表面海水中の水銀及びカドミウムの濃度(単位:ng/kg)
上段:平均値と標準偏差、下段:観測値の範囲(最小値と最大値)
海域水銀カドミウム
日本周辺海域北海道南方3.5±5.2
[0~43]
35.5±19.6
[2~91]
日本海3.7±3.7
[0~21]
18.9±6.1
[4~38]
房総半島沖3.3±4.1
[0~22]
7.8±6.6
[1~34]
本州南方3.8±5.2
[0~36]
7.0±8.2
[0~75]
東シナ海3.0±3.4
[0~19]
5.9±8.0
[0~63]
北西太平洋東経137度線(北緯20~30度)5.3±4.4
[0~17]
2.8±2.3
[0~9]
東経137度線(北緯 0~20度)5.0±4.7
[0~28]
2.4±2.8
[0~19]

3 診断

日本周辺海域及び東経137度線の北緯0~30度で観測された水銀及びカドミウムの濃度は、おおむね Bruland(1983)に示されている自然界の濃度の範囲にある。

参考文献

  • Bruland, K. W., 1983: Trace elements in sea-water. Chemical Oceanography, Vol.8., J. P. Riley and R. Chester ed., 2nd ed., Academic Press, New York, 157-220.
  • 環境省, 2009: 日本周辺海域における海洋汚染の現状 -主として海洋環境モニタリング調査結果(1998~2007年度)を踏まえて-.24pp.
  • 気象庁, 1999: 海洋観測指針(第1部).129pp.
  • Sagi, T., T. Yura and T. Akiyama, 1974: The Cadmium content in sea water in the adjacent regions of Japan and in the western North Pacific. Oceanogr. Mag., 25, 101-110.
  • 坪田博行, 1987: 重金属.海洋大事典.和達清夫監修,第18版,東京堂出版,241-244.
  • 坪田博行, 1991: 海水中の重金属は語る.海と地球環境-海洋学の最前線.日本海洋学会編,東京大学出版会,159-164.


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