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3.2 浮遊タールボール・油分

第3章 北西太平洋の海洋汚染の状況
3.2 浮遊タールボール・油分の要約はこちら
平成25年12月20日

診断概要

診断内容

 海洋に排出された油は、海面に広がった後、揮発成分を失い固化して漂ったり(浮遊タールボール)、海水中に溶け込んだり分散したり(油分)することにより、海洋生物の生長や食物連鎖に悪影響を与える。ここでは、北西太平洋の浮遊タールボール・油分について長期変化傾向を診断する。

診断結果

 日本周辺海域における浮遊タールボールは、船舶からの油類の排出規制が強化された1983年以降著しく減少しており、1996年以降は観測を実施しているすべての海域でほとんど採取されていない。
 海水中の油分は、1976年の観測開始以来減少傾向が続いており、排出規制の効果を反映していると考えられる。

1 浮遊タールボール・油分による海洋汚染

タールボールは、船舶から排出されたビルジ(船底にたまった海水・水あか)や海難事故などにより流出した重油が、風化作用で揮発成分を失って固まり、ボール状となって海面に浮遊したり、海岸に漂着したりするものである(Blumer et al., 1973; Zsolnay, 1978)。その大きさは、多くの場合直径1mmから数mm程度であるが、まれに数十cmに達することもある。
また、油分とは、表面海水中に溶存あるいは分散状態で存在している石油系炭化水素をいう。主な発生源は、タンカーの事故、移送時のミスオペレーション、家庭からの生活排水、工場からの排水とみられている(Spiro et al., 2011)。海洋に排出された油の量は、1970~79年の10年間では300万トンを超えていたが、2000~2009年には21万トンほどになっており、長期的には著しい減少傾向を示している(ITOPF, 2012)。
海洋に排出された油は広範囲にわたって海洋生物の生息域を汚染する。タンカーや油井の事故に伴う重油流出などの深刻な事例も後を絶たない。1997年1月には、日本海の隠岐諸島沖で船首を折損したナホトカ号から重油約6,200キロリットルが流出し、日本海沿岸の1府7県に漂着した。2007年12月には、韓国西岸沖で衝突事故を起こしたタンカーHebei Spirit号から1万キロリットルを超える原油が流出した。また、2010年4月に発生したメキシコ湾の海底油田の事故では、数10万キロリットルともされる大量の原油が数か月にわたって流出を続けた。このような原油流出事故は、漁業従事者や養殖場等に打撃を与えるだけでなく、周辺の海に生息する海藻類や魚介類、海鳥類にも大きな影響を及ぼす。多くの海洋生物が直接的には油にまみれて死滅し、間接的には残留原油による汚染の影響を受け続ける。生物・化学的な作用によって周辺の環境が原状に復帰するまでには、非常に長い時間を要する。
国際的な動きとしては、1989年にアラスカ沖で座礁事故を起こしたエクソンバルディーズ号からの原油流出事故を契機に、海洋環境の保護、保全に対する意識が世界的に高まった。翌1990年には、船舶の大規模な油流出事故に対する各国の準備、対応及び協力体制を整備することを目的として、国際海事機関(IMO)において「1990年の油による汚染に関わる準備、対応及び協力に関する国際条約(OPRC条約)」が採択され、2005年に発効した。更に、1992年にはマルポール条約が改正され、タンカーのダブルハル構造(船体を二重にすること)が国際的に定められた。

2 浮遊タールボール・油分の監視

気象庁は、浮遊タールボール及び油分の観測を、1976年、浮遊プラスチック類の観測と同時に開始した。タールボールは、観測船からロープで繰り出した水平曳きネット(ニューストンネット;開口部の幅: 75cm 又は 50cm 、網目:0.35mm)を1.5海里(約2.8km)曳航(えいこう)して採取し、その重量をネット開口部が通過した海面の面積で除してタールボール密度(単位:mg/m2)とし、観測を実施した位置、日時などとともに記録する。タールボールが採取されない場合は「なし」と記録する。観測は、海面状態が静穏で、ネットを安全に曳航できる場合に、原則として1日1回実施する。
油分の測定に用いる表面海水は、船体の影響を受けないよう、微速前進時に船首付近からロープの付いたネットに入れた採水ビンを投入して採取する。測定は溶媒抽出-蛍光光度法によるが、石油系炭化水素は蛍光スペクトルの形状がそれぞれ異なる様々な化合物が混合したものであり、蛍光の測定値を直接に化合物濃度と結びつけることは困難である。このため、油分の測定値は蛍光を発する性質をもつクリセンという物質を標準として、その当量(単位:ng/kg)で示すこととされている(UNESCO, 1976; Shigehara et al., 1979)。 外洋域の浮遊タールボール・油分を長期にわたって観測したデータは少なく、気象庁が日本周辺海域及び東経137度線を中心に集積した1976年以来の観測データが大半を占めている。したがって、ここでは気象庁のデータを外洋域における指標とする。
海域別にみた浮遊タールボール密度の経年変動を 図3.2-1に示す。東経137度線の北緯0~20度では、1970年代からタールボールはほとんど採取されていない。一方、日本周辺海域及び東経137度線の北緯20~30度では、1980年代の初めまでタールボールが多く採取され、1979年には海域平均で0.6mg/m2を上回っていた。しかし、マルポール条約の附属書Ⅰに基づいて船舶からの油類の排出が規制された1983年以降、タールボール密度は大幅に減少した。日本周辺海域では、1978年から1982年の5年平均が0.29mg/m2であったのに対し、規制措置後の1984年から1988年の5年平均は0.08mg/m2になっている。東経137度線の北緯20~30度では、1984年以降タールボールはまれにしか採取されていない。1996年以降は、観測を実施しているすべての海域で、タールボールがほとんど採取されない状況が続いている。
海域別にみた油分の経年変動を 図3.2-2に示す。年々変動が大きいものの、観測開始以来の低下傾向が明瞭に認められる。特に、2005年以降はいずれの海域においても50ng/kgクリセン換算量程度を下回る状態で経過している。これもマルポール条約の附属書Ⅰに基づく油類の排出規制の効果と考えられる(Takatani et al., 1986; 高谷ほか, 1999)。しかし、沿岸域では年間数百件発生する海洋汚染のうち約6割が油汚染であり、図3.2-3に示すように、海域別にみると瀬戸内海で最も多く発生している(海上保安庁, 2011)。

図3.2-1 日本周辺海域及び東経137度線におけるタールボール密度の経年変動(1978~2012年)

図3.2-1 日本周辺海域及び東経137度線におけるタールボール密度の経年変動(1978~2012年)

海域区分は図3.1-2と同じ。


図3.2-2  日本周辺海域及び東経137度線における表面海水中の油分の経年変動(1977~2012年)

図3.2-2 日本周辺海域及び東経137度線における表面海水中の油分の経年変動(1977~2012年)

海域区分は図3.1-2と同じ。

3 診断

1980年代の初めまでは、日本周辺海域及び東経137度線の北緯20~30度で浮遊タールボールが多く採取されていた。しかし、日本周辺海域では、船舶からの油類の排出規制が強化された1983年以降、著しく減少した。東経137度線の北緯20~30度では、1984年以降タールボールが採取されることがまれになった。1996年以降は、気象庁が観測を行っているすべての海域でこうした状況が続いている。油分についても、年々変動は大きいものの、1976年の観測開始以来、長期的な低下傾向が明瞭で、特に2005年以降はいずれの海域でも低濃度で推移している。これらの結果は海洋に排出される油が長期的に減少している傾向を反映しており、国際的な油類排出規制の効果の現れと考えられる。しかし、最近になっても、我が国の沿岸域では依然として年間数百件の海洋汚染の発生が確認されており、そのうち約6割が油汚染である。

図3.2-3 2010年の海域別海洋汚染発生確認件数(左)と海域区分(右)

図3.2-3 2010年の海域別海洋汚染発生確認件数(左)と海域区分(右)

参考文献

  • Blumer, M., M. Ehrhard and J. H. Jones, 1973: The environmental fate of stranded crude oil. Deep-Sea Res., 20, 239-259.
  • International Tanker Owners Pollution Federation (ITOPF), 2012: Data & Statistics. < http://www.itopf.com/information-services/data-and-statistics/ > June 2012.
  • 海上保安庁, 2011: 海洋汚染の現状(平成22年1月~12月).
  • Shigehara, K., K. Kimura, J. Ohyama and N. Kubo, 1979: Fluorescing materials in marine environment and petroleum pollution. Oceanogr. Mag., 30, 61-74.
  • Spiro, T. G., K. L. Purvis-Roberts and W. M. Stigliani, 1996 : Chemistry of the Environment (3rd Revised edition). University Science Books . 638pp.
  • Takatani, S., T. Sagi and M. Imai, 1986: Distributions of floating tars and petroleum hydrocarbons at the surface in the western North Pacific. Oceanogr. Mag., 36, 33-42.
  • 高谷祐吉・及川幸四郎・小川 完, 1999: 海洋汚染(油汚染)の長期モニタリング.測候時報,66,特別号,S89-S96.
  • UNESCO, 1976: GUIDE TO OPERATIONAL PROCEDURES FOR THE IGOSS PILOT PROJECT ON MARINE POLLUTION (PETROLEUM) MONITORING. 50pp.
  • Zsolnay, A., 1978: The weathering of tar on Bermuda. Deep-Sea Res., 25, 1245-1252.


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