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3.1 浮遊プラスチック類

第3章 北西太平洋の海洋汚染の状況
3.1 浮遊プラスチック類の要約はこちら
平成25年12月20日

診断概要

診断内容

 海面浮遊汚染物質の大半を占めるプラスチック類は、化学的に安定であるため長期にわたって海洋中に残存するうえ、海洋生物にも悪影響を及ぼすことが知られている。ここでは、北西太平洋の浮遊プラスチック類について平均的な分布と長期変化傾向を診断する。

診断結果

 浮遊プラスチック類は、北緯5度から20度以南の海域で少なく、日本周辺海域で多い。また、黒潮続流を含む北緯30~35度で特に多くなっており、その分布に風系や海流系による移動・集積の効果が影響していると考えられる。
 日本周辺海域における浮遊プラスチック類は、船舶からの排出規制が強化された1980年代後半以降減少傾向にあったが、2000年代にはいってからは増加傾向にあり、特に、2011年には1990年のピーク時とほぼ同じ発見数(100kmあたり16個)となっている 。一方、東経137度線でははっきりした増減傾向はみられない。

1 浮遊プラスチック類による海洋汚染

人類の社会・経済活動の活発化に伴い、様々な廃棄物も増加の一途をたどってきた。なかでもプラスチックなどの石油化学合成製品は、利便性に富むことから大量に生産され、同時に大量に廃棄されている。しかし、プラスチック類は化学的に安定であるため、ひとたび海洋に排出されると回収されない限り存在し続ける。しかも、時間が経つにつれ、細かく砕けて小片となり、回収は困難になる(Lytle, 2009; Moore, 2012)。
浮遊プラスチック類は、海域により密度は異なるものの、世界中の海洋で発見されている。その存在は単に美観を損ねるだけではない。船舶のスクリューに絡まったり、冷却水の配管を詰まらせたりして、船舶の航行を妨げることがある。また、海獣や海鳥が廃棄された漁網に絡まったり、プラスチック片やポリ袋を誤食したりして死んだ事例も、数多く報告されている(Lytle, 2009)。
浮遊プラスチック類が海岸に漂着する問題も深刻化している。我が国の海岸には、日本国内だけではなく中国、韓国、北朝鮮などを起源とするプラスチックゴミが大量に漂着する(JEAN,2012など)。これらを回収する経費は莫大であるし、海水により変質した廃棄物を無害な形で処理する技術も未熟である。一方、これらを放置すれば、やがて風化して回収が一層困難な小片となり、海へと拡散してしまう。今後、浮遊汚染物質(及び漂着ゴミ)の回収・処理の努力や、それを排出しない社会的システムの構築など、総合的な対策が望まれる。

2 浮遊プラスチック類の監視

図3.1-1 航走100 kmあたりの発見個数で示した浮遊プラスチック類の平均的な分布(1981~2000年の20年平均)

図3.1-1 航走100 kmあたりの発見個数で示した浮遊プラスチック類の平均的な分布(1981~2010年の30年平均)

我が国における浮遊プラスチック類の観測は、UNESCO/IOC(ユネスコ政府間海洋学委員会)の提唱した石油類による海洋汚染を観測するパイロットプロジェクト(UNESCO, 1976)に対応して1976年に開始された。気象庁は外洋域において主要な観測定線に沿った観測を、海上保安庁は巡視船により主として沿岸域の観測を行っている。また、水産庁も漁船や取締船によって広範囲の浮遊汚染物質の調査を実施している。
気象庁による浮遊プラスチック類の観測は、航海中毎日、日の出から日の入りまでの間、観測船の船橋から目視によって行う。浮遊プラスチック類を発見するたびに日時、位置、種類、形状、大きさ、個数などを記録し、発見されない場合は「なし」と記録する。発見した浮遊プラスチック類は、発泡スチロール、漁具(浮きなど)、薄膜状プラスチック(ポリ袋など、フィルム状のもの)、その他に分類し、それぞれの発見個数を航走100kmあたりの数に換算してデータを整理している。
北西太平洋の浮遊プラスチック類を長期にわたって広範囲で観測したデータは乏しく、気象庁が日本周辺海域及び東経137度線を中心に集積した1976年以来の観測データが大半を占めている。ここでは気象庁及び他機関のデータに最近の文献からの情報も加えて、北西太平洋の浮遊プラスチック類の状況について記述する。

図3.1-1に気象庁の観測による北西太平洋における浮遊プラスチック類の平均的な分布(100kmあたりの発見個数を緯度経度5度の格子について1981~2010年の30年平均したもの)を示す。浮遊プラスチック類は北緯5度から20度の海域では少ないが、日本周辺海域では全般に多く発見されている。特に、黒潮続流を含む北緯30~35度の範囲に、発見数が100kmあたり10個前後と比較的多い海域が東西に広がっている。Yamashita and Tanimura (2007) は紀伊半島南方の黒潮周辺海域の北緯32~33度にプラスチックが多く存在し、1km2あたり10万個にも及ぶと述べており、水産庁の実施した漂流物目視観測調査の結果(三宅・竹濱, 1988)でも、ハワイ北東沖などにプラスチック類が多く発見されている。こうした分布の特徴は、1980年代後半にアラスカ大学が中心となって行われた北太平洋全域にわたる浮遊プラスチックの観測結果(Day et al., 1990)ともほぼ一致している。
このように、日本の東方やハワイ諸島から北米大陸にかけての海域には浮遊汚染物質が集中しやすく、「太平洋ゴミベルト(the Great Pacific Garbage Patch)」とよばれている(Lytle, 2009; Dautel, 2010; Pan et al., 2012)。こうした海域は洋上の風系や海流系の影響によって作られることが数値モデルによるシミュレーションで確かめられており(Kubota, 1994; 宇野木・久保田, 1996; Martinez et al., 2009)、浮遊汚染物質の分布は気候的な風系や海流系の影響を受けていることを示している。
海域別にみた浮遊プラスチック類発見個数の経年変動を図3.1-2に示す。日本周辺海域では、1988年から1990年をピークとしてその後漸減傾向となっている。1988年は、マルポール条約の附属書Ⅴにより船舶からのプラスチック類の排出規制処置が定められ、海洋汚染防止法が改正された年にあたっており、この海域における規制の効果が認められる。ただし、2000年代に入ってからは増加傾向にあり、特に、2011年には1990年のピーク時とほぼ同じ発見数(100kmあたり16個)となっている。一方、東経137度線でははっきりした増減傾向はなく、100kmあたり10個を超える年が単発的にみられる。また、環境省の海洋環境モニタリング調査の結果(図3.1-3)によると、浮遊プラスチック類は1km2あたり数千個から数百万個(気象庁のデータと異なる単位であることに注意)存在している。沿岸域の方が沖合よりも浮遊プラスチック類が多い傾向は不明瞭で、時空間的に不均一性が大きく、同じ観測点でも調査年により分布個数が異なるとされている(環境省, 2009)。

図3.1-2 海域別にみた浮遊プラスチック類発見個数の経年変動(1985~2012年)(上)、および日本周辺海域の範囲と東経137度線の位置(下) 図3.1-2 海域別にみた浮遊プラスチック類発見個数の経年変動(1985~2005年)(上)、および日本周辺海域の範囲と東経137度線の位置(下)

図3.1-2 海域別にみた浮遊プラスチック類発見個数の経年変動(1985~2005年)(上)、および日本周辺海域の範囲と東経137度線の位置(下)

図3.1-4に2012年に気象庁が観測した浮遊プラスチック類の発見個数を海域別・種類別に示す。外洋域において発見される人為起源の浮遊汚染物質の多くは石油化学製品であり、なかでも発泡スチロールの占める割合がどの海域でも最も高い。また、廃棄されるか流失したとみられる漁具も多く発見される。海岸で発見される汚染物質でも発泡スチロールの割合が高く、硬質プラスチックの破片、プラスチック製のシート・袋の破片、タバコの吸殻・フィルターなどがこれに次いでいる(JEAN, 2012)。

3 診断

北西太平洋における浮遊プラスチック類の平均的な分布をみると、亜寒帯域や北緯5度から20度の海域で少なく、日本周辺海域で多い。黒潮続流域を含む北緯30~35度の範囲では特に多く、「太平洋ゴミベルト」の一部をとらえているとも考えられる。浮遊プラスチック類はハワイ北東沖でも多く発見されており、浮遊プラスチック類が特定海域に集中するのは、風系や海流系による移動・集積の効果の影響であると考えられている。
日本周辺海域における浮遊プラスチック類は、船舶からの排出規制が強化された1980年代後半以降、減少傾向にあったが、2000年代に入ってからは増加傾向に転じている。一方、東経137度線でははっきりした増減傾向はなく、100kmあたり10個を超える年が単発的にみられる。沿岸域の方が沖合よりも浮遊プラスチック類が多い傾向は不明瞭である。
目視によって発見される浮遊プラスチック類のなかでは、海域によらず発泡スチロールの占める割合が最も高く、海岸で発見される汚染物質についても同様の傾向がみられる。

図3.1-3 環境省の海洋環境モニタリング調査による2004~2006 年度のプラスチック類の分布

図3.1-3 環境省の海洋環境モニタリング調査による2004~2006 年度のプラスチック類の分布 (千個/km2

図3.1-4 2012年に観測された浮遊プラスチック類の種類別の密度

図3.1-4 2012年に観測された浮遊プラスチック類の種類別の密度

海域区分は図3.1-2と同じ。

参考文献

  • Dautel, S. L., 2009: Transoceanic Trash - International and United States Strategies For the Great Pacific Garbage Patch. Golden Gate University Environ-mental Law Journal, 3, 181-208.
  • JEAN,2012: 2011年のクリーンアップキャンペーンの結果. JEAN ANNUAL REPORT & Cleanup Campaign Report, 14-25.
  • 環境省, 2009: 日本周辺海域における海洋汚染の現状 -主として海洋環境モニタリング調査結果(1998~2007年度)を踏まえて-.24pp.
  • Kubota, M., 1994: A Mechanism for the Accumulation of Floating Marine Debris North of Hawaii. Journal of Physical Oceanography, 24, 1059-1064.
  • Lytle, C. L. G., 2009: Plastic Pollution - When The Mermaids Cry: The Great Plastic Tide. May 2012.
  • 三宅眞一・竹濱秀一, 1988: 1987年の目視調査に基づく北太平洋の海洋漂流物の分布および密度の推定.33pp.第35回INPFC定例年次会議提出文書(1988年10月).水産庁・遠洋水産研究所.
  • Martinez, E., K. Maamaatuaiahutapu and V. Taillandier, 2009: Floating marine debris surface drift: Convergence and accumulation towardthe South Pacific subtropical gyre. Marine Pollution Bulletin, 58, 1347-1355.
  • Moore, C., 2012: Update on plastic pollution in our ocean. 国際シンポジウム「プラスチックによる海洋汚染:有害化学物質とその生物影響」.講演要旨集, 5.
  • Pan, Y. M., Y. B. Zhang, Z. Zhang, Q. L. Zhang and Q. L. Cao, 2012: The Proliferation and Bioconcentration Effect of Marine debris in the Pacific Garbage Patch. Journal of Convergence Information Technology, 7, 152-159.
  • UNESCO, 1976: Guide To Operational Procedures For The IGOSS Pilot Project On Marine Pollution (Petroleum) Monitoring. 50pp.
  • 宇野木早苗・久保田雅久, 1996: 海洋の波と流れの科学.東海大学出版会,202-204.
  • Yamashita, R. and A. Tanimura, 2007: Floating plastic in the Kuroshio Current area, western North Pacific Ocean. Baseline, Marine Pollution Bulletin, 54, 485-488.


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