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2.3 エルニーニョ現象

第2章 気候に関連する海洋の変動
2.3 エルニーニョ現象の要約はこちら
平成25年12月20日

診断概要

診断内容

エルニーニョ現象は、数年に一度、中部太平洋赤道域から南米沿岸までの広い海域で海面水温が平年に比べて高くなる現象で、日本を含む世界各地の天候に大きな影響を及ぼす。ラニーニャ現象は、エルニーニョ現象とは逆に、同海域で海面水温が平年に比べて低くなる現象である。ここでは、2007年以降の最近約6年の概況および2009/10エルニーニョ現象と2010/11ラニーニャ現象について診断する。また、日本を含む世界の天候との関係についても診断する。

診断結果

2006年秋から2006/07年冬には、エルニーニョ監視海域の海面水温の基準値との差(「基準値との差」と略す)の5か月移動平均値(「NINO.3監視指数」と略す)が5か月間+0.5℃以上となったが、気象庁の定義するエルニーニョ現象の発生には至らなかった。2007年春から2008年春にはラニーニャ現象が発生した。2009年1月と2月にも「NINO.3監視指数」が-0.5℃以下になったがラニーニャ現象の発生には至らなかった。
2009年夏から2010年春にかけてはエルニーニョ現象が発生した(2009/10エルニーニョ現象)。発生期間の4季節は平均よりやや短く、「基準値との差」の最大値(+1.4℃)は、特に大きかった3回のエルニーニョ現象(1972/73年、1982/83年、1997/98年)を除く過去10回の平均と同じ値だった。
2010年夏から2011年春にかけてはラニーニャ現象が発生した(2010/11ラニーニャ現象)。発生期間の4季節は平均よりやや短く、「基準値との差」の最大値(-1.6℃)は、1949年以降の14回のラニーニャ現象のなかでは5番目に大きかった。発生期間中の2010年12月には南方振動指数が1973年11月に次ぐ大きな値になるなど、大気の監視指数にラニーニャ現象時の傾向を強く示す値がみられた。
その後は2011年秋から2011/12年冬にかけて「NINO.3監視指数」が5か月連続して-0.5℃以下となったがラニーニャ現象の発生には至らず、2012年の夏には「NINO.3監視指数」が2か月連続して+0.5℃以上となったがエルニーニョ現象の発生には至らなかった。
日本の天候との関係では、九州北部地方から東海地方にかけての梅雨明けが記録的に遅れた2009年夏および冬型の気圧配置が弱く全国的に高温となった2009/10年冬の特徴に2009/10エルニーニョ現象の影響が現れていると考えられる。また、統計を開始した1898年以降の第1位の高い記録になった2010年夏の日本の平均気温の一因には、春まで発生していたエルニーニョ現象と、この夏に発生したラニーニャ現象の合わさった影響の可能性が考えられ、2010年8月から9月の全国的な高温および2011年1月の西日本を中心とした全国的な低温の一因に2010/11ラニーニャ現象の影響が考えられる。

1 エルニーニョ現象の基礎知識

(1)エルニーニョ現象

ア 「エルニーニョ」とは

図2.3-1 エルニーニョ/ラニーニャ現象時の冬の海面水温

図2.3-1 エルニーニョ/ラニーニャ現象時の冬の海面水温

(上)はエルニーニョ現象時、(下)はラニーニャ現象時の様子。色彩は水温をあらわし、黒実(点)線は平年値からの正(負)偏差をあらわす。単位は℃。

「エルニーニョ」は、スペイン語で「男の子-神の子-」という意味である。元来は、ペルー北部の漁民が毎年クリスマスのころに現れる沿岸の小規模な暖流のことを「エルニーニョ」と呼んでいた。ところが、数年に一度、ペルー沖の広い海域で海水温が上昇し、その状態が1年程度続くことがあることが分かり、「エルニーニョ」は、この大規模な現象を指す言葉としても使われるようになった。現在では、ペルー沿岸の季節的な現象ではなく、数年に一度、中部太平洋赤道域から南米沿岸までの広い海域で海面水温が平年に比べて高くなる現象(図2.3-1上)を意味することが多い。気象庁では季節的・局所的な「エルニーニョ」と区別するため「エルニーニョ現象」と呼んでいる。これとは逆に、中・東部太平洋赤道域の海面水温が平年に比べて低くなる現象(図2.3-1下)を「ラニーニャ現象」と呼んでいる(Philander,1985)。「ラニーニャ」はスペイン語で「女の子」の意味である。

イ エルニーニョ現象のしくみ

図2.3-2 エルニーニョ/ラニーニャ現象の模式図

図2.3-2 エルニーニョ/ラニーニャ現象の模式図

(1)平常の状態
(2)エルニーニョ現象の状態
(3)ラニーニャ現象の状態

エルニーニョ/ラニーニャ現象は、海面のみではなく深さ500m程度までの海洋表層の水温や流れの変化をともなっている。また、大気の変動とも密接に関連している。図2.3-2(1)は、エルニーニョ現象あるいはラニーニャ現象のいずれも発生していない、平常時の太平洋赤道域の大気と海洋の状態を模式的にあらわしたものである。
海洋では一般に密度の大きい冷たい水が深い層を占め、その上に密度の小さい暖かい水が分布している。また、太平洋熱帯域の海面気圧は、東部で高く、西部のインドネシア付近で低くなっている。この東西の気圧差に応じて、太平洋の赤道域の海面付近では、貿易風と呼ばれる東風が吹く。この東風によって、海面付近の暖かい水が太平洋の西側に吹き寄せられ、インドネシア近海の西部赤道域では海洋表層の暖かい水の層が厚くなり、東部赤道域では暖かい水の層が薄く、下層の冷たい水が海面近くにまで達している。さらに、赤道付近の東風は、地球の自転の効果により下層の冷たい水を海面まで湧き上がらせるため、東部赤道域の海面水温は低くなる。このため、太平洋赤道域の海面水温は西部で高く、東部で低い分布となっている。海面水温の高いインドネシア近海では、海面からの蒸発が活発で、大気中に大量の水蒸気が供給され、上空で積乱雲が盛んに発生している。
上述した東風と、太平洋赤道域の西部と東部の海面水温の差は互いに強め合う(弱め合う)という関係があり、エルニーニョ現象(ラニーニャ現象)が発生する。
エルニーニョ現象発生時には、図2.3-2(2)に示すように、東風が平常時よりも弱くなり、西部に蓄積されていた暖かい水が東方へ広がるとともに、東部では下層からの冷たい水の湧き上がりが弱まる。このため、太平洋赤道域の中部から東部で海面水温が平常時よりも高くなり、積乱雲が盛んに発生する海域も平常時より東へ移動する。一方、図2.3-2(3)に示したラニーニャ現象発生時には、東風が平常時よりも強まり、西部の暖かい水の層が厚くなる一方、東部では下層からの冷たい水の湧き上がりが強まり、海面水温が平常時よりも低くなった結果、東西の海面水温の差が平常時より大きくなる。また、インドネシア近海の海上では積乱雲の発生が平常時より活発となる。
太平洋熱帯域の海面気圧には、東部で平年よりも高く(低く)なるとインドネシア付近では平年に比べて低く(高く)なるという、シーソーのような変動があり、南方振動(Southern Oscillation)として20世紀初頭から知られている。1970年代以降は、南太平洋のタヒチ(南緯17度、西経150度)とオーストラリア北部のダーウィン(南緯12度、東経131度)との地上気圧の差が、その強さの指標として使われるようになった。南方振動にともなう気圧の変化は、エルニーニョ/ラニーニャ現象発生時に起こる太平洋赤道域の東風の変化によく対応している。現在では、南方振動とエルニーニョ現象は、大気と海洋が密接に結びついて発生する同一の現象を、大気側と海洋側から捉えた側面であるとして認識されている。このため両者をあわせたエルニーニョ・南方振動(El Nino-Southern Oscillation)や、これを略したENSO(エンソ)という言葉がしばしば使われる。
エルニーニョ現象の発生時には、東部太平洋赤道域の海面水温の変化に先駆けて、西部で増加した海洋上層の暖水層の厚さの変化という海洋内部のシグナルが、赤道に沿って西から東へ伝わることが多い。このシグナルの伝播は赤道付近にみられる海洋の波動と解釈されるもので、西部赤道域で西風成分の強い状態が半月から1か月にわたって持続した場合に励起されることが多い。シグナルの東進によって東部太平洋赤道域の上層の暖水層が厚くなると、冷水の湧き上がりによる冷却の効果が弱まって海面水温が昇温する。これを機に貿易風が弱まると、さらに東部の海面水温が昇温してエルニーニョ現象の発生に至る。
この海洋の波動を励起する西風成分の強まりは、Madden-Julian Oscillation(MJO;Madden and Julian,1971)と呼ばれる熱帯大気の振動により発生することが多い。MJOは赤道上で東西に広がった大規模な大気の循環の変動で、対流活動の活発な領域が東進しながら30~60日かけて地球を1周するという現象である。MJOにおける対流活動の活発な領域の対流圏の下層では、進行方向前方からは東風が、後方からは西風が吹き込むため、前方では東風成分の、後方では西風成分の強まりが生ずる。MJOにおける対流活動の活発な領域は、インド洋からインドネシア近海、西部太平洋にかけてはゆっくり進み、東部太平洋に向かうにつれて対流活動が弱まり、速く進む。

(2)エルニーニョ現象の影響

ア エルニーニョ現象と世界/日本の天候

エルニーニョ現象発生時には、熱帯の対流活動が平常とは異なる場所で活発となるため、熱帯域の大気の東西循環が変化する。このため、熱帯域の天候はエルニーニョ現象の直接的な影響を受ける。また、平常と異なる場所で対流活動が活発となった変化は、「ロスビー波」と呼ばれる波動として中・高緯度まで伝播し、対流活動の変化の要因となった海面水温の高い領域の位置の変化に応じた大気循環パターンを形成する。代表的な大気循環パターンには、図2.3-3で示した、太平洋赤道域から北太平洋、北米大陸にかけて500hPa高度の正負の偏差域が並ぶPNA(Pacific North American)パターンと、太平洋西部で北緯45度付近を境に500hPaの高度偏差の符号が逆になるWP(Western Pacific)パターンがあり、その出現にENSOが関係していることが以前から知られている(Horel and Wallace,1981)。PNAパターンおよびWPパターンは、どちらも統計的にエルニーニョ現象時の冬季に現れやすい傾向にある。しかし中・高緯度の大気の変動は複雑で、熱帯からの影響だけで決まるものではない。そのため、エルニーニョ現象発生時の冬季でも、実際に出現する大気循環の様子にはかなりのばらつきがある(Kodera,1998)。エルニーニョ現象が直接的に影響する熱帯域の場合と異なり、中・高緯度では特定の天候が必ず出現するわけではない。
次に、統計的に調査したエルニーニョ/ラニーニャ現象時の天候の特徴を示す。

図2.3-3 北半球の代表的な大気循環パターンである(a)PNAパターンと(b)WPパターン

図2.3-3 北半球の代表的な大気循環パターンである(a)PNAパターンと(b)WPパターン

等値線はWallace and Gutzler(1981)による各パターンの指標と12~2月の冬季平均500hPa高度偏差との回帰係数(等値線間隔10m)、色彩は相関係数。

エルニーニョ現象と世界の天候
図2.3-4は、1979~2008年の30年間のデータを用いて統計的な手法により抽出した世界の天候の特徴である。
エルニーニョ現象時の冬(12~2月)には、西日本~インド南部、南アフリカ周辺、北米中部、ブラジル北部、オーストラリア西部で高温傾向がみられる。ロシア西部周辺で低温傾向がみられる。また、熱帯域の高温傾向はエルニーニョ現象による熱帯対流圏の昇温に対応するものであると考えられる。降水量は、米国北西部、南部周辺で多雨傾向がみられる。東シベリア南部~アラスカ西部、ベンガル湾周辺で少雨傾向がみられる。
エルニーニョ現象時の夏(6~8月)には、フィリピン北部~パキスタン南部、アフリカ中部、南米北部、オーストラリア南西部で高温傾向がみられる。オホーツク海周辺、中国南部周辺、カザフスタン東部~ロシア北西部、トルコ周辺、カナダ東部周辺、米国南西部で低温傾向がみられる。降水量は、トルコ周辺、スペイン周辺、米国西部で多雨傾向がみられる。東シベリア~アラスカ西部、北米東部、南米北部周辺、ブラジル、オーストラリア中部で少雨傾向がみられる。
エルニーニョ現象時には亜熱帯ジェットが平年に比べて南下し、低気圧の経路や前線帯の位置も平年に比べて南下する傾向がある。北半球中緯度にみられる低温・多雨傾向は、この影響が現れていると考えられる。
ラニーニャ現象時は平常の太平洋赤道域の西高東低の海面水温パターンが強まった状態であり、エルニーニョ現象時と比べて太平洋熱帯域の対流活動活発域の位置の変化は小さいが、地域によってはエルニーニョ現象時と反対の天候特性を示す。例えば冬(12~2月)はインドシナ半島周辺でエルニーニョ現象発生時とは逆に低温傾向がみられる。ラニーニャ現象時の夏(6~8月)には、マレーシア~インド東部で低温傾向がみられる。

図2.3-4 エルニーニョ(左)、ラニーニャ(右)現象時における世界の天候の季節ごとの特徴

図2.3-4 エルニーニョ(左)、ラニーニャ(右)現象時における世界の天候の季節ごとの特徴

上から冬(12~2月)、春(3~5月)、夏(6~8月)、秋(9~11月)。統計期間は1979~2008年。冬については1979/80~2008/09年の冬。気温については、長期的なトレンドの影響を除いて統計をとっている。灰色は観測データのない領域、薄い灰色は気温もしくは降水量のいずれかの観測データのない領域をあらわす。

エルニーニョ現象と日本の天候
図2.3-5は、1979~2008年の30年間の日本の天候の各気象要素の3か月平均の階級別(気温は「低い」「平年並」「高い」、降水量・日照時間は「少ない」「平年並」「多い」)の出現率に現れた傾向をまとめたものである。
エルニーニョ現象時の日本の平均気温は、冬には東日本、西日本および沖縄・奄美で高い傾向があり、春には全国で高い傾向がある。夏には北日本、東日本および西日本で低い傾向があり、秋には北日本と東日本で高い傾向、沖縄・奄美では低い傾向がある。
各月を中心とした3か月平均の気温の特徴をみると、エルニーニョ現象時には、10月から翌年の5月を中心とする3か月平均では高温の傾向が現れる地域が多く、7月から9月を中心とする3か月平均では低温の傾向が現れる地域が多い。ラニーニャ現象時には、エルニーニョ現象時とは逆の傾向が現れやすいが、春にはエルニーニョ現象時のような明瞭な傾向はない。また、秋も沖縄・奄美地方で高温の傾向がみられる以外は明瞭な傾向がない。
エルニーニョ現象時の日本の降水量は、冬には北日本と東日本日本海側で少ない傾向があり、沖縄・奄美では多い傾向がある。春には西日本で多い傾向、北日本太平洋側では少ない傾向がある。夏には北日本太平洋側と西日本日本海側で多い傾向がある。秋には西日本で少ない傾向、北日本太平洋側では多い傾向がある。
各月を中心とした3か月平均の降水量の特徴をみると、エルニーニョ現象時には、11月から翌年の2月を中心とする3か月平均では北日本と東日本の日本海側で少雨の傾向で、沖縄を中心に多雨の傾向が現れる地域が多い。ラニーニャ現象時には、9月から翌年の12月を中心とする3か月平均では、北日本~西日本の太平洋側で少雨の傾向が現れる。
エルニーニョ/ラニーニャ現象時の降水量と日照について多雨・寡照(日照時間が少ない)と少雨・多照の特徴に注目すると以下のようになる。
エルニーニョ現象時の多雨・寡照
12月中心の西日本太平洋側
2月中心の東日本太平洋側と西日本
4月中心の西日本
7月中心の北日本太平洋側
8月中心の北日本太平洋側と西日本日本海側
エルニーニョ現象時の少雨・多照
1月中心の北日本と東日本の日本海側
2月中心の北日本日本海側
4月中心の北日本太平洋側
9月中心の西日本太平洋側
10月中心の西日本日本海側
ラニーニャ現象時の多雨・寡照
3月中心の北日本太平洋側と東日本日本海側
6月中心の東日本日本海側と西日本
ラニーニャ現象時の少雨・多照
12月中心の北日本~西日本の太平洋側
4月中心の西日本日本海側
6月中心の北日本日本海側
9月中心の東日本太平洋側と西日本
11月中心の北日本太平洋側

気象庁ホームページのエルニーニョ/ラニーニャ現象に関する知識のページには各天候の出現率の特徴の他、梅雨の入り明け時期の特徴についても掲載している。

図2.3-5 エルニーニョ/ラニーニャ現象に伴う日本の天候(3か月平均)の傾向 

図2.3-5 エルニーニョ/ラニーニャ現象に伴う日本の天候(3か月平均)の傾向 

エルニーニョ現象(ラニーニャ現象)時に現れやすい3か月平均の天候(気温・降水量・日照)の傾向を各地域について上図(下図)に示した。各地域の区分は、右下の図を参照のこと。NDJ、DJF、JFM、FMA、MAM、AMJ、MJJ、JJA、JAS、ASO、SON、ONDは、それぞれ12月、1月、2月、3月、4月、5月、6月、7月、8月、9月、10月、11月の各月を中心とする3か月平均の季節を表す。図中の略語は地域を表す(北日:北日本日本海側、北太:北日本太平洋側、東日:東日本日本海側、東太:東日本太平洋側、西日:西日本日本海側、西太:西日本太平洋側)。統計期間は1979~2008年。冬については1979/80~2008/09年の冬。気温については、長期的なトレンドの影響を除いて統計をとっている。各天候要素の各階級の出現率については、気象庁ホームページのエルニーニョ/ラニーニャ現象に関する知識のページに掲載している。

イ 西太平洋およびインド洋熱帯域の海面水温変動を介した日本の天候への影響

図2.3-6 日本の夏の天候に影響を与える大気循環パターン(PJパターン)の模式図(Nitta,1987より引用)

図2.3-6 日本の夏の天候に影響を与える大気循環パターン(PJパターン)の模式図(Nitta,1987より引用)

西太平洋熱帯域の海面水温と対流活動および大気の高低気圧による波列の関係を示す。


図2.3-7 夏にインド洋の海面水温が高い場合の大気下層の循環パターン

図2.3-7 夏にインド洋の海面水温が高い場合の大気下層の循環パターン

図中の文字「H」は高気圧性の、「L」は低気圧性の循環をあらわす。

エルニーニョ/ラニーニャ現象が発生すると、大気や海洋の循環の変化を通じて、西太平洋熱帯域やインド洋熱帯域の海面水温が変化し、それが世界の天候に影響していることが考えられる。次に、これら熱帯域の海洋変動の影響について調査された例を紹介する。
西太平洋熱帯域の海面水温は、エルニーニョ(ラニーニャ)現象時には平年に比べて低く(高く)なる傾向がある。1980年代後半にNitta(1987)は、日本の夏の天候とフィリピン付近の大気の対流活動との関係が深く、その対流活動は西太平洋熱帯域の海面水温の高低とも深い関係にあることを指摘している。図2.3-6は、西太平洋熱帯域の海面水温が平常よりも高い時にフィリピン付近での対流活動が活発になり、大気を伝播する高低気圧の波列が生じて日本付近が高気圧に覆われる夏の様子を示したものである。この波列パターンは、PJ(Pacific-Japan)パターンと呼ばれ、この状況が現れると日本域では晴天が続き、気温が高くなる。
インド洋熱帯域の海面水温は、エルニーニョ現象の発生から2~3か月遅れて平常よりも高くなり始め、エルニーニョ現象の終息後もしばらく高い状態が維持される傾向がある。そのため、エルニーニョ現象が発生した翌年などで、インド洋熱帯域の海面水温が平常より高い夏の場合には、西太平洋熱帯域からインド洋に向かって流れ込む下層の東風の影響でフィリピン付近の対流活動が抑制される傾向がある(Xie et al.,2009)。図2.3-7は、インド洋の海面水温が平常よりも高い場合の大気下層の高低気圧の平年からの偏りで、夏の日本付近の気圧が低くなることを示している。このような夏、北日本では低温になる傾向があり、北日本~東日本および西日本日本海側では雨が多く、日照が少なくなる傾向がある。
また、冬に関してWang et al.(2000)やWatanabe and Jin(2003)は、エルニーニョ現象時に西太平洋熱帯域の海面水温が平年よりも低くなることによりできた大気下層の高気圧性循環偏差が、東アジアの冬季モンスーンを弱めることで、日本が暖冬傾向になることを示している。さらに、Watanabe and Jin(2003)は、エルニーニョ現象時にやや遅れて昇温するインド洋の影響が、冬季の西太平洋熱帯域付近の大気下層の高気圧性循環偏差の急発達に寄与していることを示唆している。
以上のように、エルニーニョ/ラニーニャ現象は、西太平洋熱帯域やインド洋熱帯域の海面水温変動を介しても天候に影響を及ぼしていることが近年の研究により分かってきた。これらの海域の海面水温変動と世界および日本の天候との関係の詳細については、気象庁ホームページのエルニーニョ/ラニーニャ現象に関する知識のページに掲載している。

ウ エルニーニョ現象の社会・経済的影響

エルニーニョ現象は太平洋赤道域の中部から東部にかけての海面水温が平年より高くなる現象であるが、熱帯域の大気への直接的な影響のほか、中・高緯度に対しても異常気象の発生などをもたらす。海洋変動の影響としては、ペルー沖での海水温の上昇によるアンチョビ(カタクチイワシ)の不漁、太平洋西部における暖水の移動にともなうカツオ漁場の移動などが知られている。大気の循環の変化による影響としては、干ばつによる農作物の不作、森林火災、多雨による洪水、高温によるマラリアなどの疾病の増加などが挙げられる。
世界気象機関(WMO)の報告によれば、1997/98エルニーニョ現象による直接的な経済的損失は、全世界で340億米ドルに達したとされている。自然災害の防止および被害軽減の対策や有益な経済活動のためには、エルニーニョ/ラニーニャ現象に関する情報を適切かつ有効に活用する必要がある。

2 エルニーニョ現象の監視体制

(1)国際的な取り組み

世界気象機関(WMO)が国際科学会議(ICSU)およびユネスコの政府間海洋学委員会(IOC)と連携して進めている世界気候研究計画(WCRP)の一環として、1985~1994年にエルニーニョ現象をターゲットとした熱帯海洋・全球大気研究(TOGA)計画が実施された。TOGA計画では、太平洋熱帯域で集中して大気・海洋の観測が実施された。この計画のなかで米国海洋大気庁(NOAA)は太平洋の熱帯域に風向・風速、気圧、気温などの気象要素と深さ500mまでの表層水温などをリアルタイムで観測・通報する定置ブイを展開した。このブイ観測網はTAOアレイと呼ばれ、TOGA計画終了後もエルニーニョ現象にともなう大気と海洋の変動を監視する有力な観測手段となっている。1999年からは日本の海洋科学技術センター(現在の海洋研究開発機構)が太平洋西部でTRITONブイと呼ばれるブイを運用し、現在では両者をあわせてTAO/TRITONアレイと呼ばれている。
エルニーニョ現象の監視には、TAO/TRITONアレイのほか、観測船や一般船舶、漂流ブイによる海上気象・海洋の観測データやArgo計画で展開したプロファイリングフロートによる海洋内部の観測データ、沿岸や島々の検潮所による海面水位の観測データが使われている。また、人工衛星による観測では、海面水温、海面高度などの海洋の観測データとともに、大気の対流活動の強さの指標となる外向き長波放射量(OLR)の観測データもエルニーニョ現象の監視に欠かせないものとなっている。

(2)気象庁における監視および予測

気象庁では、上記の観測データを全球気象通信システム(GTS)やインターネットなどにより収集し、エルニーニョ現象の監視と予測を行っている。

ア 海洋の監視

気象庁ではエルニーニョ現象を監視するため、船舶、ブイなどの現場観測データの客観解析により全球海面水温解析値を作成し、この値に基づくエルニーニョ現象の定義を定めている。
この海面水温解析は、世界中の海面水温の観測データを用いて、1891年以降の全世界の海面水温を緯度経度1度ごとに決定している(Ishii et al.,2005)。エルニーニョ現象に関連する太平洋赤道域の海面水温の変動を監視するために太平洋赤道域に設定している監視海域としては、国際的に広く使われているNINO.1+2、NINO.3、NINO.4海域、および気象庁独自の西太平洋熱帯域(NINO.WEST)を設定している。また、2009年7月からは、日本の天候に影響を及ぼす熱帯域の海洋変動情報を拡充することを目的とし、インド洋熱帯域(IOBW: Indian Ocean basin-wide)を監視海域として追加した(図2.3-8)。これら監視海域の海面水温の平年値からの差を図2.3-9に示した。

図2.3-8 エルニーニョ現象などの監視海域の位置

図2.3-8 エルニーニョ現象などの監視海域の位置

エルニーニョ監視海域1+2(NINO.1+2: 10ºS-Eq, 90ºW-80ºW)、エルニーニョ監視海域3(NINO.3: 5ºS-5ºN, 150ºW-90ºW)、エルニーニョ監視海域4(NINO.4: 5ºS-5ºN, 160ºE-150ºW)、西太平洋熱帯域(NINO.WEST: Eq-15ºN, 130ºE-150ºE)、インド洋熱帯域(IOBW: 20ºS-20ºN, 40ºE-100ºE)


図2.3-9 エルニーニョ現象などの監視海域の海面水温偏差(1950年1月~2011年12月)

図2.3-9 エルニーニョ現象などの監視海域の海面水温偏差(1950年1月~2011年12月)

折れ線は月平均値、滑らかな曲線は5か月移動平均値。赤(青)の陰影は、各監視海域でエルニーニョ現象(ラニーニャ現象)時に現れやすい偏差の符号を示す。縦軸の単位は℃。平年値は1981~2010年の平均。

前述の海面水温解析値を用いた分析によれば、熱帯海洋の海面水温には長期的な上昇傾向があり、1990年代以降は高温傾向が続いている(図2.3-9)。そのため、平年値(1981~2010年の30年間の平均)を基準として海面水温の変動を評価すると、1990年以前の低温傾向と1990年代以降の高温傾向によりエルニーニョ/ラニーニャ現象の発生頻度や期間に偏りが生じ、長期間にわたる(1949年以降)エルニーニョ現象の発生期間を適切に評価できないという問題がある。この問題を解決するため、NINO.3海域については、対象とする年月の前年までの30年間の各月の平均値を基準値とし、海面水温の基準値との差の変動を評価することにより、長期的な海面水温の上昇傾向の影響を軽減することとした。
気象庁では、NINO.3海域の海面水温の基準値との差の5か月移動平均値が、6か月以上続けて+0.5℃以上となった場合をエルニーニョ現象、-0.5℃以下となった場合をラニーニャ現象と定義している。このため、単に「エルニーニョ監視海域」という場合は、NINO.3海域のことを指す。
NINO.WEST海域およびIOBW海域については、海面水温の長期的な上昇傾向が年々の変動の大きさに比べて無視できない程度になる(図2.3-9)ため、対象とする年月の前年までの30年間の各月の上昇傾向を直線で近似し、その直線を対象とする月に延長した値を基準値とし、海面水温の基準値との差の変動を評価している。
このNINO.3海域、NINO.WEST海域、IOBW海域の海面水温の基準値との差、および次の項で述べる南方振動指数を「エルニーニョ監視指数」とし、エルニーニョ現象の発生・終息の判断や日本の天候への影響などを考える指標に用いている(図2.3-10)。
一方、海洋内部については、海洋の水温、塩分などの観測データと海洋の数値モデルを組合せて、観測データの少ない海域でも海洋の物理法則に基づいて海洋内部の状態を把握できる「海洋データ同化システム」(Usui et al.,2006;石崎ほか,2009)により、太平洋赤道域の海洋表層の水温や貯熱量の監視を行っている。エルニーニョ/ラニーニャ現象の発達や衰退にかかわる赤道域を伝播する海洋の波動は、水温躍層の上下動による海洋表層の貯熱量(OHC: Ocean Heat Content)の変動として捉えられる。図2.3-11は、その様子を示したもので、海面水温(SST: Sea Surface Temperature)が平年に比べて高く(低く)なるのに先立って、平年より水温躍層が深い(浅い)ことをあらわす正(負)の貯熱量変動が西から東へ伝播している。

図2.3-10 エルニーニョ監視指数の経年変動(上から順にNINO.3海域の海面水温の基準値との差(℃)、南方振動指数(SOI)、NINO.WEST海域の海面水温の基準値との差(℃)、IOBW海域の海面水温の基準値との差(℃))(2001年1月~2011年12月))

図2.3-10 エルニーニョ監視指数の経年変動(上から順にNINO.3海域の海面水温の基準値との差(℃)、南方振動指数(SOI)、NINO.WEST海域の海面水温の基準値との差(℃)、IOBW海域の海面水温の基準値との差(℃))(2001年1月~2011年12月))

折れ線は月平均値、滑らかな曲線は5か月移動平均値。基準値については本文参照。SOIの平年値は1981~2010年の平均。赤(青)の陰影は、エルニーニョ現象(ラニーニャ現象)の発生期間を示す。


図2.3-11 2008年1月から2011年12月までの太平洋の赤道に沿った貯熱量(海面から深さ300mまでの平均水温)の偏差(左)および海面水温偏差(右)の経度‐時間断面図

図2.3-11 2008年1月から2011年12月までの太平洋の赤道に沿った貯熱量(海面から深さ300mまでの平均水温)の偏差(左)および海面水温偏差(右)の経度‐時間断面図

平年値は1981~2010年の30年平均。単位は℃。

イ 大気の監視

太平洋赤道域の大気の状況を把握するためには、大気の客観解析を行い、赤道域の貿易風の強さの指標となる対流圏下層(850hPa)の東西風や対流圏上層(200hPa)の風の収束・発散をあらわす速度ポテンシャルなどを用いている。対流活動の指標としては、極軌道気象衛星により観測された地表面や雲頂から放射される外向き長波放射量(OLR:Outgoing Long wave Radiation、米国NOAA作成資料)を用いている。
特に、エルニーニョ/ラニーニャ現象と関係の深い要素を大気の指数とし、次のものを用いている。
南方振動指数(SOI):南太平洋のタヒチ(南緯17度、西経150度)と オーストラリア北部のダーウィン(南緯12度、東経131度)の地上気圧の差を指数化したもので、貿易風の強さの目安となる。正(負)の値は貿易風が強い(弱い)ことを示す。
OLR指数:上層雲量の指標で、日付変更線付近(北緯5度~南緯5度、東経170度~西経170度)で領域平均したOLRの平年差を標準偏差で割って規格化し、符号を逆にしたものである(指数名はOLR-DL)。正(負)の値は対流活動が平年よりも活発(不活発)な状態を示す。
赤道東西風指数:赤道域の大気の東西循環の指標で、中部太平洋赤道域で領域平均した対流圏上層(200hPa、北緯5度~南緯5度、日付変更線~西経125度の平均)と下層(850hPa、北緯5度~南緯5度、西経170度~西経135度の平均)、およびインド洋東部の上層(200hPa、北緯5度~南緯5度、東経80度~東経100度の平均)の風の東西成分の平年差を標準偏差で割って規格化したものである(指数名はそれぞれ、U200-CP、U850-CP、U200-IN)。正(負)の値は西風(東風)偏差であることを示す。

図2.3-12 太平洋赤道域の大気の状態をあらわす指数の経年変動(2001年1月~2011年12月)

図2.3-12 太平洋赤道域の大気の状態をあらわす指数の経年変動(2001年1月~2011年12月)

上から日付変更線付近のOLR指数(OLR-DL)、太平洋の対流圏上層(200hPa)の赤道東西風指数(U200-CP)、太平洋の対流圏下層(850hPa)の赤道東西風指数(U850-CP)、インド洋の対流圏上層(200hPa)の赤道東西風指数(U200-IN)。折れ線は月平均値、滑らかな曲線は5か月移動平均値。平年値は1981~2010年の平均。赤(青)の陰影は、エルニーニョ現象(ラニーニャ現象)の発生期間を示す。

ウ エルニーニョ現象の予測

大気と海洋の数値モデルを結合させたエルニーニョ予測モデルによりエルニーニョ監視海域(NINO.3海域)や西太平洋熱帯域(NINO.WEST海域)およびインド洋熱帯域(IOBW海域)の海面水温の予測を行っている。この予測に基づき、毎月10日ごろ、エルニーニョ/ラニーニャ現象の発生や終息、西太平洋熱帯域およびインド洋熱帯域の海面水温の高・低温状態の予測情報を発表している。

3 エルニーニョ/ラニーニャ現象の状況

本項では、過去のものを含むエルニーニョ/ラニーニャ現象の期間や規模をみる場合にはNINO.3海域の海面水温の基準値との差を用いる。海面水温、表層水温およびOLRの変動状況を述べる場合は、1981~2010年の30年平均値を「平年値」とし、この平年値からの差(偏差)を用いる。

(1)過去の発生状況

表2.3-1に前節で解説した定義に基づく1949年以降のエルニーニョ/ラニーニャ現象の発生期間と、各発生期間におけるNINO.3海域の月平均海面水温の基準値(その年の前年までの30年平均値)との差の最大値を示す。
1949年から2012年までの64年間で14回ずつのエルニーニョ現象およびラニーニャ現象が発生した。平均するとそれぞれの現象が4~5年に1回の割合で発生していることになる。
基準値との差が+3.0℃を超えるエルニーニョ現象は1982/83年および1997/98年の2回、+2℃台が1972/73年の1回、+1.0℃に満たないものが1953年の1回、他の10回は+1.0℃以上+2.0℃未満で、そのうち5回が+1.5℃以上である。表には示していないが、14回のエルニーニョ現象のうち9回は11~12月に基準値との差が最大になっており、逆に1~4月、8月の最大はない。
ラニーニャ現象では基準値との差が-2.0℃以下だった1988/89年以外の13回は-1.8℃から-1.0℃の範囲でその内-1.5℃以下が6回である。14回のラニーニャ現象のうち10回は12~2月の冬に基準値との差が最大になり、3~4月、7~9月の最大はない。
エルニーニョ現象の発生期間の最長は6季節(4回)で、4季節(4回)とともに最多であるが、5季節(3回)、3季節(3回)と大きな差はない。
ラニーニャ現象の発生期間の最長は8季節(3回)で、最近では1998年夏~2000年春に発生した。ラニーニャ現象の発生期間の最多は5季節(4回)である。
エルニーニョ現象の開始は、春が8回、夏が4回、秋が2回で、春が圧倒的に多い。終息は、冬が6回、春が5回、夏が2回、秋が1回で、冬から春にかけて多い。
ラニーニャ現象の開始は、春が6回、夏が6回、秋が2回で、春から夏にかけて多い。終息は、冬が4回、春が8回、夏が1回、秋が1回で、春が圧倒的に多い。
これらのことから、エルニーニョ現象は、春に発生して11~12月にピークになり、冬から春に終息し、ラニーニャ現象は、春から夏に発生して12月~2月にピークになり、春に終息するという平均像が得られる。

表2.3-1 1949年以降のエルニーニョ/ラニーニャ現象の発生期間(季節単位)と各発生期間におけるNINO.3海域の海面水温の基準値(その年の前年までの30年間の平均値)からの差の月平均最大値(単位は℃)
エルニーニョ現象ラニーニャ現象
発生期間季節数差の最大値発生期間季節数差の最大値
 1949年夏~1950年夏5-1.4
1951年春~1951/52年冬4+1.2 
1953年春~1953年秋3+0.81954年春~1955/56年冬8-1.7
1957年春~1958年春5+1.6 
1963年夏~1963/64年冬3+1.21964年春~1964/65年冬4-1.2
1965年春~1965/66年冬4+1.71967年秋~1968年春3-1.3
1968年秋~1969/70年冬6+1.31970年春~1971/72年冬8-1.5
1972年春~1973年春5+2.71973年夏~1974年春4-1.5
 1975年春~1976年春5-1.3
1976年夏~1977年春4+1.5 
1982年春~1983年夏6+3.31984年夏~1985年秋6-1.1
1986年秋~1987/88年冬6+1.71988年春~1989年春5-2.0
1991年春~1992年夏6+1.61995年夏~1995/96年冬3-1.0
1997年春~1998年春5+3.61998年夏~2000年春8-1.8
2002年夏~2002/03年冬3+1.42005年秋~2006年春3-1.2
 2007年春~2008年春5-1.7
2009年夏~2010年春4+1.42010年夏~2011年春4-1.6

(2)2007年以降の最近約6年の状況

2007年以降の約6年の熱帯の海面水温の状況をNINO.3海域の海面水温の基準値との差の5か月移動平均値(以後NINO.3監視指数という)の推移(図2.3-10)を参照しながら以下に記述する。
2006年秋に+0.5℃以上となったNINO.3監視指数は11月には+0.9℃に達したが、2007年になって急速に下降し、2月には平常時の状態を示す+0.5℃を下回る値となった。この2006年秋から2006/2007年冬(2006年12月~2007年2月)にかけてのNINO.3監視指数の上昇は、+0.5℃以上の期間が5か月だったために表2.3-1にはないが、日本では記録的な高温や少雪というエルニーニョ現象時に現れやすい冬の天候となった。
NINO.3監視指数は、その後も下降して2007年4月には-0.5℃となり、2007年春からラニーニャ現象の発生となった。ラニーニャ現象が夏から秋にかけて徐々強まり、11~12月にはNINO.3監視指数がピークの-1.5℃となった。その後は春にかけてNINO.3監視数は上昇し、2008年5月に-0.1℃となってラニーニャ現象は終息した。このラニーニャ現象発生期間中の2007年8月から9月にかけては日本全国で高温となった。
2008年の夏と秋の間、NINO.3監視指数は平常時の状態を示す±0.5℃未満の値で推移し、2009年1月と2月には一時的に-0.5℃となったが、3月には±0.5℃未満の-0.3℃になった。
2009年春の間、NINO.3監視指数は平常時の状態を示す±0.5℃未満の値で推移したが、2009年6月には上昇して+0.5℃に達し、2009年夏からエルニーニョ現象の発生となった。その後エルニーニョ現象が強まり、NINO.3監視指数は、2009年12月と2010年1月にピークの+1.1℃となった後、2010年3月まで+0.5℃以上の値が10か月持続した。しかし、2010年4月にはNINO.3監視指数が+0.3℃となりエルニーニョ現象は2010年春に終息した。このエルニーニョ現象発生期間中の2009年夏は、北日本から西日本にかけて日照不足となり、九州北部地方から東海地方にかけての梅雨明けが記録的に遅れた。
エルニーニョ現象終息後の2010年春から夏にかけてもNINO.3監視指数は下降し続け、7月には-0.8℃となり、2010年夏にはラニーニャ現象が発生した。その後秋にかけてラニーニャ現象が強まり、NINO.3監視指数は11月にはピークの-1.5℃になった。
2010/11年冬(2010年12月~2011年2月)から2011年春にかけてはラニーニャ現象が徐々に弱まり、2011年4月にNINO.3監視指数は-0.4℃となって2011年春にはラニーニャ現象が終息した。このラニーニャ現象発生期間中の2010年8月から9月にかけては、日本全国で高温となり、2011年1月には西日本を中心に全国的な低温となった。
その後、NINO.3監視指数は、2011年の夏まで平常時の状態を示す±0.5℃未満の値で推移した。
2011年秋になってNINO.3監視指数は再び下降し、2011年9月から2012年1月までラニーニャ現象時の傾向を示す-0.5℃以下の値が5か月間続いたが、2012年2月には平常時の状態を示す-0.3℃となり、気象庁の定義を満たすラニーニャ現象の発生には至らなかった。
しかしながら、この冬(2011年12月~2012年2月)には北日本から西日本にかけて低温、日本海側中心に記録的な積雪があり、ラニーニャ現象時に現れやすい冬の天候となった。
2012年春にはNINO.3監視指数は平常時の状態を示す±0.5℃未満の値で推移した。2012年の7月と8月には+0.5℃に上昇したが、9月以降は平常時の状態を示す±0.5℃未満の値で推移した。

(3)2009/10エルニーニョ現象

ア 太平洋赤道域の海洋と大気の状況

図2.3-13 エルニーニョ現象発生前後のNINO.3海域(図2.3-8参照)の月平均海面水温の基準値(その年の前年までの30年間の平均)からの差の推移

図2.3-13 エルニーニョ現象発生前後のNINO.3海域(図2.3-8参照)の月平均海面水温の基準値(その年の前年までの30年間の平均)からの差の推移

2009年夏に発生したエルニーニョ現象(黒線)と1949年以降のほかのエルニーニョ現象発生年とを比較している。year0はエルニーニョ現象発生年(1951、1953、1957、1963、1965、1968、1972、1976、1982、1986、1991、1997、2002、2009年)を、またyear-1、year+1は、それぞれ発生年の前年と翌年を示す。縦軸の単位は℃。

1949年以降に発生した14回のエルニーニョ現象について、発生前年から発生翌年に至る3年間の推移を、エルニーニョ監視海域(図2.3-8のNINO.3海域)の海面水温の基準値との差の月々の値の変化で図2.3-13に示した。図では発生前年をYear-1、発生年をYear0、発生翌年をYear+1としている。2009年夏に発生した2009/10エルニーニョ現象(図中の黒線)では、2009年がYear0に対応している。
2009年夏に発生した2009/10エルニーニョ現象では、発生年の2009年3月にエルニーニョ監視海域の海面水温の基準値との差が-0.6℃だったが、4月から5月にかけて急速に上昇して6月に+0.7℃、7月には+0.9℃となった。その後8月から10月にかけてやや下降したが、11月には上昇に転じて2009年12月には2回目のピークの+1.4℃となった。1949年以降に発生した14回のエルニーニョ現象のうち8回は春に発生しており、2009年夏の発生は、開始時期としてやや遅い。海面水温の基準値との差の最大値は+1.4℃で、1949年以降に発生した14回のエルニーニョ現象のなかでは高い方から9番目である。しかしながら、+2.0℃を超える最大値をもつ3回のエルニーニョ現象(1972/73年、1982/83年、1997/98年)は、他に比べて際立って大きく(図2.3-13)、これらを別にすると2009/10エルニーニョ現象の最大値は平均的な値である。エルニーニョ現象には春~夏および秋~冬の2回のピークをもつ現象(1957/58年、1972/73年、1991/92年)や、秋に発生して2度目の秋~冬に最大のピークを迎えた後に終息した現象(1968/69/70年、1986/87/88年)がある。2009/10エルニーニョ現象は、夏と冬の2回の明瞭なピークを持ち、発生翌年の2010年春に終息した。発生期間は4季節で平均(4.6季節)よりやや短い。
2009/10エルニーニョ現象時におけるインド洋から太平洋にかけての海面水温とその偏差および太平洋の赤道に沿った深さ300mまでの表層の水温とその偏差を図2.3-14に季節ごとに示し、インド洋から太平洋にかけてのOLRとその偏差を図2.3-15に季節ごとに示した。OLRの負偏差域は、そこでの大気の対流活動が平年よりも活発であることを示している。
エルニーニョ現象発生前の冬(2008年12月~2009年2月)、太平洋赤道域の海面水温は中部で顕著な負偏差、西部で顕著な正偏差となり、ラニーニャ現象時にみられるようなパターンを示していた(図2.3-14a左)。赤道域における大気の対流活動はインドネシア付近で平年より活発(図2.3-15a)、海洋表層の水温は西部で正偏差、中部から東部にかけて負偏差というラニーニャ現象時に現れる特徴を示していた(図2.3-14a右)。
2009年春には、西部太平洋赤道域の海洋表層の暖水域(水温の正偏差域)が東進し、南米沖を除く太平洋赤道域の海洋表層の大部分の水温が正偏差になるとともに、中部から東部にかけての海面水温の負偏差もほぼ解消された(図2.3-11図2.3-14b)。一方、大気の対流活動活発域は依然としてインドネシア付近にとどまっていた(図2.3-15b)。
2009年夏には、海洋表層の暖水域が南米沿岸に達して太平洋赤道域の全域の海面水温が正偏差に転じ、東部では+1.5℃以上の顕著な偏差となった(図2.3-14c)。また、大気においても、インドネシア付近の対流活動の活発域が解消され、その東の西部太平洋の対流活動が平年よりやや活発になった(図2.3-15c)が、貿易風の強さの指標となるSOIの値は平年並を示すゼロに近い値が持続した(図2.3-10)。
2009年秋には、インドネシア付近で平年より不活発、西部太平洋赤道域で平年より活発という対流活動のコントラストが明瞭となった(図2.3-15d)。海洋表層では中部太平洋の水温の正偏差が顕著で、海面水温においても中部を中心とした正偏差が顕著となった(図2.3-14d)。
2009/10年冬には、エルニーニョ現象が最盛期に達し、太平洋赤道域の海洋表層では中部から東部にかけて正偏差、西部で負偏差という水温の東西コントラストが明瞭になった(図2.3-14e右)。海洋表層の水温正偏差に対応して、日付変更線の西側から東部にかけて海面水温が顕著な正偏差となるとともに、インド洋の熱帯域全域で顕著な正偏差となり、エルニーニョ現象時の特徴が明瞭となった(図2.3-14e左)。大気においても、日付変更線付近を中心として対流活動が平年より活発になり(図2.3-15e)、貿易風が平年に比べて弱いことを示すSOIの負値が持続し(図2.3-10)、エルニーニョ現象時の特徴が明瞭となった。
2010年春には、太平洋赤道域の海洋表層の西部にあった水温負偏差域が東進し、中部から東部にかけての海面水温正偏差が弱まることにより、エルニーニョ現象が終息した(図2.3-10図2.3-11図2.3-14f)。インド洋の熱帯域では、エルニーニョ現象終息後も海面水温の顕著な正偏差が持続した(図2.3-14f)。大気においては、平年より活発な太平洋赤道域の対流活動域が縮小した(図2.3-15f)。
2009/10エルニーニョ現象にともなう大気の監視指数の推移は以下のとおり。
南方振動指数(SOI)(図2.3-10)は、エルニーニョ現象が発生した夏にはゼロに近く、エルニーニョ現象時の傾向を示していないが、秋から冬にかけては負の値となり、エルニーニョ現象時の傾向を示していた。春には上昇して正の値となり、エルニーニョ現象終息の特徴を示していた。
OLR-DL指数(図2.3-12)は、夏に正の値に転じて、秋から冬にかけてはさらに上昇するというエルニーニョ現象時の傾向を示した。春には下降し、エルニーニョ現象終息の特徴を示していた。
U200-CP指数(図2.3-12)は、夏から秋にかけて月ごとに正と負の間を大きく上下に変動するが、冬にかけてはしだいに下降して負になり、エルニーニョ現象時の傾向を示した。春には上昇しエルニーニョ現象時の傾向が解消した。
U850-CP指数(図2.3-12)も、夏から秋にかけては月ごとに正と負の間を大きく上下に変動するが、冬にかけてはしだいに上昇して正になり、エルニーニョ現象の傾向を示していた。春には下降しエルニーニョ現象時の傾向が解消した。
U200-IN指数(図2.3-12)は、夏から冬にかけて月ごとに大きく上下に変動するが、おおむね負の値で推移しており、エルニーニョ現象時の傾向とは符合していない。

図2.3-14 2008/09年冬~2010年春の季節平均海面水温およびその偏差(左)と太平洋の赤道に沿った深さ300mまでの季節平均表層水温およびその偏差(右) 図2.3-15 2008/09年冬~2010年春の季節平均OLRおよびその偏差

図2.3-14 2008/09年冬~2010年春の季節平均海面水温およびその偏差(左)と太平洋の赤道に沿った深さ300mまでの季節平均表層水温およびその偏差(右)

黒の等値線および色付きの陰影はそれぞれの偏差(℃)をあらわし、緑の等値線は実際の値(℃)をあらわす。平年値は1981~2010年の30年間の平均。

図2.3-15 2008/09年冬~2010年春の季節平均OLRおよびその偏差

黒の等値線および色付きの陰影は偏差(Wm-2)をあらわし、緑の等値線は実際の値(Wm-2)をあらわす。平年値は1981~2010年の30年間の平均。

イ 世界および日本の天候への影響

世界の天候への影響

2009年夏(2009年6月~8月)
7月には南米北部で高温、オーストラリアで少雨、8月にはインドとパキスタンで高温、メキシコ~南米北部で高温・少雨となった。
夏平均では南米北部で高温・少雨、トルコ周辺で多雨だった。
2009年秋(2009年9月~11月)
9月には南米北部で高温、10月にはギリシャ周辺とサヘル周辺で多雨、11月にはヨーロッパ西部で高温・多雨となった。
2009/10年冬(2009年12月~2010年2月)
12月にはインドシナ半島~インドネシアで高温、米国南部で多雨、1月には米国北西部と南米東部で高温、2月には南米の北部と東部、アフリカのサヘル西部で高温、インドネシア付近で少雨となった。また、エルニーニョ現象時に現れやすいインド洋熱帯域の海面水温の高温が顕著で、2月にはインド南部、インドシナ半島~インドネシアで高温となった。
冬平均では南米東部で高温、米国南東部で多雨だった。
2010年春(2010年3月~5月)
3月には南アフリカ~マダガスカル、南米北部で高温となった。また、エルニーニョ現象時に現れやすいインド洋熱帯域の海面水温の高温が顕著で、4月にはインドシナ半島、インド、マダガスカルで高温、5月にはインドシナ半島周辺、インド西部で高温となった。
以上の天候は、エルニーニョ現象時の特徴またはインド洋熱帯域の海面水温が高温時の特徴と一致していた。
2010年3月の世界の月平均気温(陸域における地表付近の気温と海面水温の平均)の平年差(1981~2010年の30年平均値からの差)は+0.28℃で、3月の気温としては統計を開始した1891年以降で最も高い値となり、2010年3~5月の世界の平均気温の平年差は+0.25℃で、この時期としては1998年と並んで最も高い値となった。
世界の年平均気温の平年差は2009年に+0.16℃、2010年には+0.19℃となり、統計を開始した1891年以降では2010年が1998年についで2番目に高い値、2009年が2005年についで4番目に高い値(2006年、2003年、2002年とともに第4位タイ)となった。エルニーニョ現象がこれらの要因の一つであると考えられる。

日本の天候への影響

2009年夏
7月は、沖縄・奄美を除く各地で多雨、寡照となった。日照時間は日本海側で記録的に少なく、降水量は北日本で記録的に多かった。また、「平成21年7月中国・九州北部豪雨」が発生した。
九州南部と関東甲信を除く各地で梅雨明けが平年よりも遅く、九州北部地方から東海地方にかけては、梅雨明けが記録的に遅かった。
8月は、北日本と東日本で平均気温が低く、日照時間が少なかった。
夏としては、北日本と西日本日本海側で多雨、北日本から西日本にかけて日照時間が少なかった。
これらの要因の一つとしてエルニーニョ現象の影響があったと考えられる。
2009年秋
日本の天候への影響は明瞭ではなかった。
2009/10年冬
冬平均では冬型の気圧配置が平年より弱く、全国的に高温となった。この一因として、エルニーニョ現象の影響でアリューシャン低気圧が南東偏し、日本から離れたことや南海上で高気圧が強かったことが挙げられる。
また、2月の日本の天候では、西日本の高温、東日本太平洋側と西日本および沖縄・奄美の多雨、東日本太平洋側と西日本太平洋側の寡照がエルニーニョ現象時の傾向と一致していた。
2010春
日本列島は、3月から4月にかけて北側の寒気と南側の暖気がともに平年と比べて強く、発達した低気圧が頻繁に通過しやすい状態となったため、日照時間が少なく、気温変動の大きい状態が続いた。この南側の暖気が平年より強い状況にはエルニーニョ現象が影響していたと考えられる。
また、3月の沖縄・奄美での高温、4月の西日本の多雨と寡照がエルニーニョ現象時の傾向と一致していた。
2010夏
エルニーニョ現象終息後の2010年夏の日本の平均気温は、統計を開始した1898年以降の第1位の高い記録になった。春まで継続していたエルニーニョ現象の影響で北半球中緯度の対流圏全体で気温が上昇したことが一つの要因となったと考えられる。

(4)2010/11ラニーニャ現象

ア 太平洋赤道域の海洋と大気の状況

図2.3-16 ラニーニャ現象発生前後のNINO.3海域(図2.3-8参照)の月平均海面水温の基準値(その年の前年までの30年間の平均)からの差の推移

図2.3-16 ラニーニャ現象発生前後のNINO.3海域(図2.3-8参照)の月平均海面水温の基準値(その年の前年までの30年間の平均)からの差の推移

2007/08ラニーニャ現象(黒線)と1949年以降のほかのラニーニャ現象発生年とを比較している。year0はラニーニャ現象発生年(1949、1954、1964、1967、1970、1973、1975、1984、1988、1995、1998、2005年)を、またyear-1、year+1は、発生年の前年と翌年を示す。縦軸の単位は℃。

1949年以降に発生した14回のラニーニャ現象について、発生前年から発生翌年に至る3年間の推移を、エルニーニョ監視海域(図2.3-8のNINO.3海域)の海面水温の基準値との差の月々の値の変化で図2.3-16に示した。図では発生前年をYear-1、発生年をYear0、発生翌年をYear+1としている。2010年夏に発生した2010/11ラニーニャ現象(図中の黒線)では、2010年がYear0に対応している。
2010/11ラニーニャ現象は、2010年春にエルニーニョ現象が終息した直後の2010年夏に発生した。エルニーニョ現象の終息後すぐにラニーニャ現象が発生することはまれではなく、過去14回のラニーニャ現象のうち6回はエルニーニョ現象終息の年に発生している。ラニーニャ現象は春から夏にかけて発生することが多く、2010年夏の発生は平均的な開始時期である。
エルニーニョ監視海域の海面水温の基準値との差は、2010年4月の+0.6℃から急速に減少し、6月には負に転じて-0.7℃になり、その後も秋にかけて下降した。海面水温の基準値との差は、最盛期の10月と11月に-1.6℃で、1949年以降に発生したラニーニャ現象のなかでは5番目の記録だった。ラニーニャ現象には、春~夏および秋~冬の2回のピークを持つ現象(1964/65年、1967/68年、1970/71年、1988/89年)や、春あるいは夏に発生して2度目の秋~冬に最小のピークを迎えた後終息した現象(1954/55/56年、1998/99/00年)があるが、2010/11ラニーニャ現象は、秋にピークとなり発生翌年の2011年春に終息した。発生期間は4季節で平均(5.1季節)よりやや短い(表2.3-1)。
2010/11ラニーニャ現象時におけるインド洋から太平洋にかけての海面水温とその偏差および太平洋の赤道に沿った深さ300mまでの表層の水温とその偏差を図2.3-17に季節ごとに示し、インド洋から太平洋にかけてのOLRとその偏差を図2.3-18に季節ごとに示した。OLRの負偏差域は、そこでの大気の対流活動が平年よりも活発であることを示している。
ラニーニャ現象発生の直前の2010年春、太平洋赤道域やインド洋熱帯域では海面水温の正偏差が広がり(図2.3-17a左)、太平洋赤道域の中部から東部およびインド洋熱帯域の西部では対流活動が平年よりも活発(図2.3-18a)で、エルニーニョ現象時の特徴がみられた。一方、海洋表層では、エルニーニョ現象の終息とその後のラニーニャ現象の発生の引き金となる冷水域(水温の負偏差域)の東進がみられた(図2.3-11左図2.3-17a右)。
2010年夏には、海洋表層の冷水域が南米沿岸に到達したことにともない、太平洋赤道域では日付変更線の西側から南米沿岸にかけての海面水温が負偏差となり、ラニーニャ現象が発生した(図2.3-17b)。大気においても、太平洋赤道域の西部から日付変更線付近にかけての対流活動が平年より弱くなり、インドネシア付近の対流活動が平年より活発になるというラニーニャ現象時の特徴が現れる(図2.3-12のOLR-DL、図2.3-18b)。
2010年秋から2010/11年冬には、太平洋赤道域の西部から日付変更線付近にかけて対流不活発で、インドネシア付近で対流活発という東西のコントラストがいっそう明瞭になった(図2.3-18c、d)。SOI(図2.3-10)は、2010年春に正の値に転じた後、2010年夏から2010/11年冬にかけては+2.0前後のかなり大きい値となり、貿易風(東風)が平年よりもかなり強かったことを示している。
太平洋赤道域の海洋表層においては、西部の正偏差と中部から東部にかけての負偏差という水温の東西コントラストが2010年秋から2010/11年冬にいっそう明瞭になる(図2.3-17c、d右)。そして海面水温は、日付変更線の西側から南米沿岸にかけての赤道域で顕著な負偏差、インドネシアからフィリピンにかけては顕著な正偏差となり(図2.3-17c、d左)、ラニーニャ現象の最盛期となった。また、インド洋も冬には海面水温の負偏差域が広がり、ラニーニャ現象時の特徴を示すようになった。
2011年春になると、平年よりも対流活動の弱い領域が日付変更線付近の赤道域からやや南の南緯10度近くに移動したが、インドネシア付近を中心とした対流活動は活発で(図2.3-18e)、SOIは4月まで+2.0付近が続き、貿易風が平年よりも強いことを示していた。
一方、海洋の表層では、太平洋赤道域の西部にあった暖水が、冬の後半から春にかけて東進し、南米沿岸に達する(図2.3-11左図2.3-17e右)。この暖水の東進にともない、海面では東部の水温負偏差が解消して4月にはNINO.3監視指数が-0.5℃を上回り、2011年春にラニーニャ現象は終息した(図2.3-10図2.3-17e左)。
ラニーニャ現象の終息後の2011年夏には、太平洋赤道域の東部で海面水温の正偏差がみられたが、赤道域の中部と赤道域を挟む熱帯域の中部から東部にかけては顕著な負偏差が持続した(図2.3-17f左)。また、西太平洋では平年より対流活発な状態が持続し、SOIも+1.0程度で推移し、貿易風が平年よりも強い状態が持続していることを示していた(図2.3-10)。
2010/11ラニーニャ現象にともなう大気の監視指数の変動の推移は以下のとおり。

SOI(図2.3-10)は、2009/10エルニーニョ現象が終息した2010年春には正の値に転じ、ラニーニャ現象が発生した2010年夏から終息する2011年春まで+2.0前後の大きな値で推移した。2010年12月の値(+2.5)は、統計のある1946年以降では1973年11月の+2.7に次ぐ値だった。
OLR-DL(図2.3-12)も、エルニーニョ現象が終息した2010年春に正から負の値に転じ、ラニーニャ現象の発生した2010年夏から終息する2011年春まで-1.5前後の明瞭なラニーニャ現象時の傾向(太平洋赤道域の日付変更線付近で対流が不活発)を示した。この指数の2010年9月の値(-1.7)は、統計のある1979年以降の最低記録だった。
U200-CP(図2.3-12)は2010年の春から夏にかけて負から正の値に転じ、ラニーニャ現象の終息する2011年春まで上昇傾向を示した。2011年の5月と6月には、統計のある1979年以降初めて+2.8を超える値を記録した。
U850-CP(図2.3-12)は、エルニーニョ現象が終息した春に正から負の値に転じ、ラニーニャ現象が始まる夏以降は-1.0前後の値で推移し、終息後の2011年夏までラニーニャ現象時の傾向(平年より貿易風が強いこと)を示す負の値が持続した。
U200-IN(図2.3-12)は、2010年春まで平年並の値を示していたが、ラニーニャ現象の発生した2010年夏以降は-2.0前後で推移し、終息する2011年春まで顕著なラニーニャ現象時の傾向を示した。2010年12月には、統計のある1979年以降で最も低い値(-3.4)を記録した。

図2.3-17 2010年春~2011年夏の季節平均海面水温およびその偏差(左)と太平洋の赤道に沿った深さ300mまでの季節平均表層水温およびその偏差(右) 図2.3-18 2010年春~2011年夏の季節平均OLRおよびその偏差

図2.3-17 2010年春~2011年夏の季節平均海面水温およびその偏差(左)と太平洋の赤道に沿った深さ300mまでの季節平均表層水温およびその偏差(右)

黒の等値線および色付きの陰影はそれぞれの偏差(℃)をあらわし、緑の等値線は実際の値(℃)をあらわす。平年値は1981~2010年の30年間の平均。

図2.3-18 2010年春~2011年夏の季節平均OLRおよびその偏差

黒の等値線および色付きの陰影は偏差(Wm-2)をあらわし、緑の等値線は実際の値(Wm-2)をあらわす。平年値は1981~2010年の平均。

イ 世界および日本の天候への影響

世界の天候への影響

2010年夏(2010年6月~8月)
7月には南米南部で低温、8月にはロシア西部で高温・少雨、モーリシャス付近で高温となった。
夏平均ではロシア西部周辺で高温・少雨、メラネシア南部で高温だった。
2010年秋(2010年9月~11月)
9月には東アジアとオーストラリア東方で高温、10月にはオーストラリア北部で多雨となった。
秋平均ではオーストラリア東部、インドネシア西部~オーストラリア北西部で多雨だった。
2010/11年冬(2010年12月~2011年2月)
12月にはインド西部で低温、オーストラリア東部で多雨、1月にはマレー半島付近で低温、南アフリカ、オーストラリア西部、フィリピン付近、南米北部で多雨、2月には南米北部で多雨となった。
冬平均では米国南部~メキシコ北部で少雨だった。
2011年春(2011年3~5月)
3月にはメキシコ北部付近で高温、インドシナ半島付近と中米から南米北部にかけて低温、米国南部からメキシコにかけて少雨となった。
4月にはラニーニャ現象はほぼ終息していたが、ラニーニャ現象時に現れやすい特徴である西太平洋熱帯域の海面水温の高温が持続し、インドシナ半島付近とオーストラリア北部で低温となった。
以上の天候は、ラニーニャ現象時の特徴または西太平洋熱帯域の海面水温が高温時の特徴と一致していた。

日本の天候への影響

2010年夏~秋
8月の日本の平均気温は統計を開始した1898年以降の113年間で第1位の高い記録となった。この要因の一つに北半球中緯度対流圏が高温であったことが挙げられ、これにラニーニャ現象が一部関係していた。
9月には全国的に高温となり、北日本日本海側では多雨、西日本太平洋側では少雨、北日本と東日本の太平洋側および西日本で多照となり、ラニーニャ現象時の傾向と一致していた。
10月には西日本と沖縄・奄美の寡照がラニーニャ現象時の傾向と一致していた。
2010/11年冬
1月には東日本と西日本および沖縄・奄美の低温がラニーニャ現象時の傾向に一致していた。
2011年春
4月まで持続した西太平洋熱帯域の海面水温の高温は、ラニーニャ現象時に現れやすい特徴で、2011年春に終息したラニーニャ現象と関係していると考えられる。
3月から4月にかけて東日本と西日本および沖縄・奄美で低温や少雨、多照がみられ、北日本では4月に多雨となり、これらが西太平洋熱帯域の海面水温の高温時の傾向に一致していた。

4 診断

2006年秋から2006/07年冬には、エルニーニョ監視海域の海面水温の基準値との差(「基準値との差」と略す)の5か月移動平均値(「NINO.3監視指数」と略す)が5か月間+0.5℃以上となったが、気象庁の定義するエルニーニョ現象の発生には至らなかった。2007年春から2008年春にはラニーニャ現象が発生した。2009年1月と2月にも「NINO.3監視指数」が-0.5℃以下になったがラニーニャ現象の発生には至らなかった。
2009年夏から2010年春にかけてはエルニーニョ現象が発生した(2009/10エルニーニョ現象)。発生期間の4季節は平均よりやや短く、「基準値との差」の最大値(+1.4℃)は、特に大きかった3回のエルニーニョ現象(1972/73年、1982/83年、1997/98年)を除く過去10回の平均と同じ値だった。
2010年夏から2011年春にかけてはラニーニャ現象が発生した(2010/11ラニーニャ現象)。発生期間の4季節は平均よりやや短く、「基準値との差」の最大値(-1.6℃)は、1949年以降の14回のラニーニャ現象のなかでは5番目に大きかった。発生期間中の2010年12月には南方振動指数が1973年11月に次ぐ大きな値になるなど、大気の監視指数にラニーニャ現象時の傾向を強く示す値がみられた。
その後は2011年秋から2011/12年冬にかけて「NINO.3監視指数」が5か月連続して-0.5℃以下となったがラニーニャ現象の発生には至らず、2012年の夏には「NINO.3監視指数」が2か月連続して+0.5℃以上となったがエルニーニョ現象の発生には至らなかった。
日本の天候との関係では、九州北部地方から東海地方にかけての梅雨明けが記録的に遅れた2009年夏および冬型の気圧配置が弱く全国的に高温となった2009/10年冬の特徴に2009/10エルニーニョ現象の影響が現れていると考えられる。また、統計を開始した1898年以降の第1位の高い記録になった2010年夏の日本の平均気温の一因には、春まで発生していたエルニーニョ現象と、この夏に発生したラニーニャ現象の合わさった影響の可能性が考えられ、2010年8月から9月の全国的な高温および2011年1月の西日本を中心とした全国的な低温の一因に2010/11ラニーニャ現象の影響が考えられる。

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