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2.2.4 対馬暖流

第2章 気候に関連する海洋の変動
2.2.4 対馬暖流の要約はこちら
平成25年12月20日

診断概要

診断内容

 日本海の表層には、南部を中心に対馬海峡から流入する高温の対馬暖流が、北部を中心に対馬暖流系の暖水より低温の海水が広がっている。ここでは、冬季の日本海側に大量の降水をもたらす要因の一つとされる対馬暖流の長期変動について診断する。

診断結果

 対馬暖流の勢力(100m深の水温が10℃以上の海域の面積)は、1985~2010年の26年間では、1986年が最も弱く、それ以降は増大し、1990年代以降はおおむね平年(1985~2010年の平均値)より強い状態が続いている。

1 日本海の基礎知識

(1)日本海の海底地形

図2.2.4-1 日本海の海底地形

図2.2.4-1 日本海の海底地形

水深は、米国海洋大気庁地球物理データセンター作成のETOPO5(緯度経度5分格子の標高・水深データ)による。

日本海は、アジア大陸と日本列島に囲まれた縁海で、平均水深は1667m(Menard and Smith, 1966)であるのに対し、隣接する海洋とは浅く狭い海峡でつながっている(図2.2.4-1)。海盆は、中央の大和堆と呼ばれる浅瀬によって、その北側の日本海盆と南東側の大和海盆に分かれている。また、大和堆から南には浅い隠岐海脚が連なっており、その西には対馬海盆がある。

(2)日本海の海洋構造の特徴

日本海の海洋構造は、約300m深を境に表層とそれ以深で分けることができる。更に表層は、北緯40度付近を境に南部と北部に分けることができる。
南部の表層には、東シナ海の大陸棚斜面を流れる黒潮水を主な起源とし、対馬海峡を通って流入する高温・高塩分水(以下、暖水)が広がっている。その大部分は津軽海峡を通って太平洋に、一部は宗谷海峡を通ってオホーツク海に流出する。この暖水の流れが対馬暖流であり、南部の表層を高水温・高塩分の状態に維持している。北部の表層には、対馬暖流よりも低温・低塩分な海水(以下、冷水)が広がっている。暖水と冷水の境界となる北緯40度付近には、東西に延びる極前線と呼ばれる水温・塩分の不連続線が形成されている(図2.2.4-2)。

図2.2.4-2 100m深の水温の平年分布図(単位:℃)と極前線の平年の位置

図2.2.4-2 100m深の水温の平年分布図(単位:℃)と極前線の平年の位置

左上:2月、右上:5月、左下:8月、右下:11月。海洋大循環モデルとデータ同化の解析結果による。平年値は1985~2010年の26年平均値。白線は極前線の平年の位置で、100m深における月ごとの極前線の指標水温(重岡, 2010)を用いて位置を決定した。

図2.2.4-3 定期的に観測を行っているPM線及び大和海盆南西部(PM-5)、大和海盆北東部、日本海盆東部及び日本海盆北東部の観測点の位置

図2.2.4-3 定期的に観測を行っているPM線及び大和海盆南西部(PM-5)、大和海盆北東部、日本海盆東部及び日本海盆北東部の観測点の位置

PM線の北側は、1996年から青の実線に変更している。

一方、日本海の約300m以深は、日本海固有水と呼ばれる水温0~1℃程度、塩分34.1程度のほぼ均質な海水で占められている。日本海は、その地形のため、周辺の海との海水交換が行われるのは表層に限られており、日本海固有水は外洋から孤立している。
図2.2.4-4は、越前岬から北西に延びる観測定線(PM線;図2.2.4-3)における冬季と夏季の平均水温、及び平均塩分の断面図である。北緯40度に近いPM-10付近の表層に水温・塩分の等値線が混み合う極前線が存在し、その南側に対馬暖流がもたらす暖水が、その北側に冷水が分布している。約300m以深には、水温が1℃以下の日本海固有水が分布している。
日本海では、春季から夏季には暖水側、冷水側ともに海面から昇温し、海面から数十mの深さまで明瞭な水温躍層(以下、季節躍層)が形成される。この季節躍層より浅い層では、水温の南北差が小さくなるため極前線は不明瞭となる。また、日本海固有水が占める約300m以深では、表層にみられる明確な水温・塩分の南北差がなく、極前線はみられない。海面付近に形成される季節躍層より深く日本海固有水よりも浅い表層であれば極前線は年間を通じてみることができ、北日本や朝鮮半島の近海を除くとおおむね北緯40度付近に位置し、対馬暖流が岸に沿って流れている北日本の近海ではおおむね岸と平行に位置している(図2.2.4-2)。

図2.2.4-4 PM線における冬季と夏季の水温(単位:℃)と塩分の平均分布

図2.2.4-4 PM線における冬季と夏季の水温(単位:℃)と塩分の平均分布

左上:冬季の水温、右上:冬季の塩分、左下:夏季の水温、右下:夏季の塩分。1972~1988年の冬季及び夏季の水温・塩分を平均した(舞鶴海洋気象台, 1990)。図中赤い点線で囲った等値線の混み合う箇所が、極前線を示している。

(3)対馬暖流

ア 流路

対馬暖流の流路は不連続で複雑な形状を示すことが多いが、対馬海峡や津軽海峡に近い海域では比較的安定した流路をとっている。 水温の分布において、水温の水平勾配が大きく等温線の間隔が狭くなっているところには、等温線に沿って水温が高い側を右にみる方向の流れが存在する。この流れは、等温線の間隔が狭いほど強い。対馬海峡から隠岐諸島に至る海域には等温線の間隔が狭くなっているところがあり、これとは別に、朝鮮半島の東側にも等温線の間隔が狭くなっているところがみられ、いずれも対馬暖流の流路に相当すると考えられる(図2.2.4-2)。対馬暖流の流路に相当する部分の水温の水平勾配を季節ごとに比べてみると、8月及び11月は2月及び5月に比べて大きく明瞭なことからわかるように、対馬暖流の流れは、冬季から春季に弱く、夏季から秋季に強いという季節変動をしている。

イ 流量

対馬海峡から日本海に流入する流量とその季節・経年変動については、海峡を挟む水位差や海底ケーブルの電圧差からの推定や、係留した流速計や船舶搭載の海流計によって直接測定するなど、様々な方法で見積もられている(Teague et al.,2002など)。Chang et al.(2004)は、これらの観測結果をまとめ、対馬海峡を通過する流量には季節変動があり、夏季から秋季にかけて大きいことを示した。Fukudome et al.(2010)は、船舶に搭載した超音波式ドップラー多層流速計による1997年2月~2007年2月の観測結果から、対馬海峡を通過する流量は、平均すると2.65×106m3/sで、月平均の最大値は10月で3.10×106m3/s、最小値は1月で2.01×106m3/sであったとしている。日本海中央部での対馬暖流の流量については、PM線での観測データから地衡流量を求めることができる。この海域には、直径数十~百数十km程度の渦がしばしば存在することから、対馬暖流の流量は、日本側から極前線までの正味の北東向き流量(北東向きの全流量から、南西向きの全流量を差し引いたもの)となる。この流量にも、対馬海峡での通過流量と同様に夏季から秋季にかけて大きいという季節変動があり、1972~2008年までの夏季から秋季の平均値は3.0±0.7×106m3/s(±の後の数値は標準偏差)で、冬季から春季の平均値2.5±0.6×106m3/sより大きくなっている。欠測を含む年を除いた、1972~2008年までの年平均値は2.8±0.7×106m3/sである。

ウ 気候への影響

対馬暖流によって供給された表層の暖水は、冬季に大気海洋間での熱と水の交換を経て大気に大量の水蒸気を供給しており、日本列島の日本海側に大量の降水をもたらしている。Hirose and Fukudome(2006)は、日本海側の冬季降水量とその直前の秋季における対馬暖流流量との間に、強い正の相関があるとしている。
また、日本海は、秋季から冬季にかけて大気に熱を供給し、我が国の気候を温和なものにしているが、対馬暖流は日本海に暖水を供給することで、日本海から大気に奪われる熱を補い海水温の低下を和らげている。

2 対馬暖流の診断

(1)診断に用いるデータ

対馬暖流の勢力の指標として、海洋大循環モデルとデータ同化の解析結果による、日本海全域における100m深の水温が10℃以上の海域の面積を診断に用いた。また、対馬暖流の流量の指標については、舞鶴海洋気象台(現 日本海海洋気象センター)が1972年冬季から2009年冬季まで各季節に観測していたPM線(図2.2.4-3)の水温・塩分から求めた地衡流量を用いた。

(2)対馬暖流の変動状況

1985年以降の対馬暖流の勢力の時系列を図2.2.4-5に示す。期間内の対馬暖流の勢力は1986年に最も弱く、その後1980年代末にかけて勢力を大きく増した。1990年以降は1996年や2006年に極小値を示したもののおおむね勢力の強い状態が継続している。
PM線を横切る対馬暖流の地衡流量の経年変動を図2.2.4-6に示す。流量は、1970年代半ばから1980年代半ばにかけて減少傾向にあり、最小値を記録した1985年の年平均値は平年(1985~2010年の平均値)より1.3×106m3/s少なかった。その後、流量は平年並まで増加し、1990年以降は2009年までおおむね平年並あるいは平年より多い状態が続いた。

図2.2.4-5 対馬暖流の勢力の経年変動(1985~2012年)

図2.2.4-5 対馬暖流の勢力の経年変動(1985~2012年)

海洋大循環モデルとデータ同化の解析結果による、100m深の水温が10℃以上の海域の面積の平年差の時系列。図中の赤線が月の実況の平年差を、黒丸(●)が実況の平年差の年平均値を示している。平年値は1985~2010年の過去26年間の平均値である。濃い青は1985~2010年の26年間に出現した月ごとの対馬暖流の勢力の上位1/3及び下位1/3の事例を除いた範囲を、薄い青は1985~2010年の26年間に出現した上位1/10及び下位1/10を除いた範囲を示している。 診断では、濃い青の範囲を「平年並」、薄い青の範囲を「平年より強い(弱い)」、それ以外の範囲を「平年よりかなり強い(弱い)」としている。

図2.2.4-6  PM線を横切る対馬暖流の地衡流量の経年変動(1972年冬季~2009年冬季)

図2.2.4-6  PM線を横切る対馬暖流の地衡流量の経年変動(1972年冬季~2009年冬季)

黒線は観測値、赤線は年平均値。青線は年平均値の平年値(1981~2008年の平均値)。

3 診断

対馬暖流の勢力は、1985~2012年の28年間では、1986年が最も弱く、それ以降は増大し、1990年代以降はおおむね平年より強い状態が続いている。また、日本海中央部での対馬暖流の流量からも、同様の変動が確認されている。

参考文献

  • Chang, K.-I., W.J. Teague, S.J. Lyu, H.T. Perkins, D.-K. Lee, D.R. Watts, Y.-B. Kim, D.A. Mitchell, C.M. Lee and K. Kim, 2004: Prog. Oceanogr., 61, 105-156.
  • Fukudome, K., J.-H. Yoon, A. Ostrovskii, T. Takikawa and I.-S. Han, 2010: J. Oceanogr., 66, 539-551.
  • Hirose, N. and K. Fukudome, 2006: SOLA, 2, 061-063.
  • 舞鶴海洋気象台,1990:日本海海洋観測25年報.
  • Menard, H.W. and S.M. Smith, 1966: J. Geophys. Res., 71, 18, 4305-4325.
  • 重岡裕海,2010:測候時報,第77巻特別号,S109-S118.
  • Teague, W.J., G.A. Jacobs, H.T. Perkins, J.W. Book, K.-I. Chang and M.-S. Suk, 2002: J. Phys. Oceanogr., 32, 1621-1641.


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