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2.2.3 親潮

第2章 気候に関連する海洋の変動
2.2.3 親潮の要約はこちら
平成25年12月20日

診断概要

診断内容

 親潮は日本東方海域の海水温分布を大きく左右する要因の一つであり、その変動は漁場の形成にも関係する。ここでは、親潮の分布(占有面積、南限緯度)と親潮の水温・化学成分について、十分にデータがある1970年代以降の変動状況を診断する。

診断結果

 1981年から1986年にかけて、1992年から1994年にかけて、及び2003年から2005年にかけて、春季に親潮の沿岸寄りの分枝が北緯37度を超えて南下する現象が断続的にみられた。1980年代にしばしば発生した親潮の顕著な南下は、1986年を最後に発生していない。
 親潮の沿岸寄りの分枝の北海道南東沖での水温と塩分は、2001年以降低温・低塩分傾向にある。この低温・低塩分傾向は、親潮の起源水であるオホーツク海水と北太平洋西部亜寒帯水のうち、より低温・低塩分なオホーツク海水の親潮に占める割合が1990年代後半に低下していたが、2001年以降平均的な状態に回復しているためである。また、親潮の沿岸寄りの分枝の溶存酸素量とリン酸塩濃度の変動はおおむね逆相関を示しており、1990年代後半に溶存酸素量の極小、リン酸塩濃度の極大がみられるが、2001年以降はほぼ一定の値で経過している。

1 親潮の基礎知識

(1)親潮とその起源

千島列島沿いを南下する親潮は、黒潮と並ぶ日本近海の代表的な海流である。また、北海道の東方や南東沖及び三陸沖に存在する低温・低塩分水を指して親潮と呼ぶことも多い。ここでは両者を区別せずに「親潮」という言葉を用いることとする。
「親潮」という名は、栄養塩に富んでいて、魚介類や海藻類を養い育てる親にあたるところに由来するといわれている(西山,1987)。
親潮は、北太平洋北部を反時計回りに流れている北太平洋亜寒帯循環の一部をなしている。北太平洋西部亜寒帯水は、ベーリング海を出てから千島列島沿いを南西に流れ、その際にオホーツク海から流出した水(オホーツク海水)と混合し、親潮として北海道南東沖に達する(図2.2.3-1)。オホーツク海水は表層の鉛直混合と大陸の河川からの淡水の流入により低温・低塩分・豊酸素・貧栄養塩であるのに対し、北太平洋西部亜寒帯水は深層からの湧昇により相対的に高温・高塩分・貧酸素・富栄養塩となっている。北海道南東沖の親潮はこれら二つの起源水が混合して形成されるため(大谷,1989,1991)、その水温や化学成分の変動は主に、これら起源水自体の変動と起源水の混合比の変動によって生ずる。北海道の南東沖を通過した親潮は、本州東方海域で二つに枝分かれして舌状に南方に張り出すことが多い(図2.2.3-1)。この枝分かれした親潮を、本州の沿岸側から、親潮の沿岸寄りの分枝(親潮第一分枝)、沖合の分枝(親潮第二分枝)と呼ぶ。親潮は三陸沖に達した後、大部分は亜寒帯循環として東に向かうが、一部は黒潮とともに北太平洋中層水の源となり、亜熱帯循環の中層に広がると考えられている(Talley,1993;Yasuda et al.,1996;Yasuda,1997など)。親潮域の南側には、津軽暖流や黒潮を起源とする暖水と、親潮を起源とする冷水が複雑に入り乱れて分布する「混合域」が広がっている。親潮域と混合域の間には、水温・塩分が大きく異なる境界がみられ、これを親潮前線という。

図2.2.3-1  日本の東方海域における流れの模式図および年4回定期的に海洋観測を実施していたPH線

図2.2.3-1 日本の東方海域における流れの模式図および年4回定期的に海洋観測を実施していたPH線

(A)、(B)は親潮の起源水の水温・化学成分を調べた海域と観測点の分布を示す。背景は海底地形(深さ)を表す。

(2)親潮の分布

ア 親潮の平均分布と季節変動

ここでは、日々の気象変化の影響を受けにくいと考えられる深さ100mの水温が5℃以下の領域を親潮と定義する。また、親潮の占有面積は、北緯43度以南、東経148度以西の海域で計算する。親潮の平均的な分布をみるために、1961年から2010年の50年間の月ごとの親潮の分布から求めた親潮の出現頻度分布を図2.2.3-2左に示す。襟裳岬沖から北緯40度、東経143度付近にかけてと、北緯41度、東経147度から北緯40度、東経146度付近にかけて、出現頻度が周辺に比べて高くなっており、それぞれが沿岸寄りの分枝及び沖合の分枝に対応している。このような親潮の分布パターンは、人工衛星による海面水温画像(図2.2.3-2右)からも認めることができる。
親潮は、春先に最も南下し、夏から秋にかけて北へ後退する季節変動を示す。3月及び12月の出現頻度分布(図2.2.3-3)をみると、沿岸寄りの分枝が3月にはしばしば金華山沖(北緯38度)まで達することがある一方、12月には襟裳岬沖まで退いている。親潮の季節変動は日本東方海域における占有面積の変動にも明瞭に現れている。図2.2.3-4は、1961年から2010年の50年間の親潮の占有面積を月ごとに平均したものである。親潮の占有面積は3~4月に最大、11~12月に最小となっており、1月から3月にかけて急激に増加し、4月以降緩やかに減少していく。また、Kono and Kawasaki (1997)及び川崎と日下 (2003)によれば、北海道南東沖で観測される親潮の南下流量にも、春に最大、秋に最小となる季節変動がみられる。このことから、春先は日本東方海域へ南下する親潮の流量が増えて、親潮の占有面積が急増するのに対し、夏から秋にかけては、南下する親潮の流量が減り、親潮が周囲の水との混合によって徐々に親潮の性質を失って、親潮の占有面積が緩やかに減少すると考えられる。

図2.2.3-2 親潮の出現頻度分布(左:1961~2010年の50年間、単位:%)と、海面水温画像にみられる親潮分布の実例(右:2005年4月19日のNOAA衛星による海面水温画像、単位:℃)

図2.2.3-2 親潮の出現頻度分布(左:1961~2010年の50年間、単位:%)と、海面水温画像にみられる親潮分布の実例(右:2005年4月19日のNOAA衛星による海面水温画像、単位:℃)

図2.2.3-2 親潮の出現頻度分布(左:1961~2010年の50年間、単位:%)と、海面水温画像にみられる親潮分布の実例(右:2005年4月19日のNOAA衛星による海面水温画像、単位:℃)

図2.2.3-3 3月(左)及び12月(右)の親潮の出現頻度分布(1961~2010年の50年間、単位:%)

図2.2.3-4 日本東方海域(北緯43度以南、東経148度以西)の親潮の占有面積の季節変動

図2.2.3-4 日本東方海域(北緯43度以南、東経148度以西)の親潮の占有面積の季節変動

各月の親潮の占有面積を月ごとに50年分(1961~2010年)平均したもの。各月の50年間平均値(黒丸)に標準偏差を合わせて示す。

イ 親潮の影響

親潮の沿岸寄りの分枝、沖合の分枝、及びそれらから切り離された冷水は、黒潮続流から切り離されて北上する暖水や津軽暖流がもたらす暖水との境界に顕著な潮境(異なる水塊の境界)を形成する。潮境は一般に浮魚類の漁場となりやすいことに加え、親潮は栄養塩が豊富であるため、親潮の分布は日本東方海域のマサバなどの漁場形成に影響を及ぼす。また、親潮の南限緯度(親潮の沿岸寄りの分枝に相当する冷水の南への張り出し位置)の変動は沿岸漁業にも影響する。例えば、1981年及び1984年には親潮の南限緯度が北緯36度(犬吠埼付近)に達するほどの南下が起こり、海水温の著しい低下のため青森県や岩手県の太平洋沿岸部でアワビの大量死が報告されたほか、イワシやサバなど暖流系の回遊魚の不漁やオキアミの漁場の変化が発生し、異常冷水現象として社会の注目を集めた。
なお、三陸沖で親潮が占める海域の大小が、夏に東北地方の太平洋沿岸を中心に吹く東よりの低温の風(やませ)の強弱に影響を及ぼしているのではないかと古くから考えられ、様々な調査が行われてきたが、現在では、海面水温が低いとやませが強まるのではなく、やませをもたらす寒冷な気団が海面を冷却することが明らかにされている(力石,1995)。

ウ 親潮の南限緯度の変動要因

先に述べたように、親潮は亜寒帯循環の一部をなしており、移流によって分枝が日本東方海域に張り出すことから、亜寒帯循環を駆動する北太平洋の大気場(アリューシャン低気圧の位置や強さにより代表される)と、親潮の南限緯度との統計的な関係について、研究が行われている。Sekine (1988)は、春季に親潮が顕著に南下する年には、それに先駆けた冬季にアリューシャン低気圧が通常より南の位置で強まっていることを示した。また、Yamada and Sekine (1997)は、親潮の南限緯度の変動が、アリューシャン低気圧が通常より南偏して強まるような変動に対して、3か月遅れでよく対応していることを示した。更に、Hanawa (1995)は、親潮の第一分枝の年平均南限緯度の変動と、風の場から推定される冬季の北太平洋亜寒帯循環の流量(スベルドラップ輸送量)の変動が、よい対応関係にあることを示した。
なお、親潮の南限緯度の変動については、数値モデルを利用して再現実験を行うなど、北太平洋の大気場との物理的な因果関係の解明が試みられてはいるものの、未解明な点が残っており、さらなる解明が期待される。

(3)親潮の水温と化学成分

図2.2.3-5に北海道南方での親潮の水温、塩分、溶存酸素量、及び栄養塩(リン酸塩)濃度の各季節における鉛直分布を示す。比較のため黒潮域における各要素の夏・冬の鉛直分布も合わせて示している。
親潮の海面付近の水温は、黒潮に比べると夏で10℃以上、冬は15℃以上低い。また、黒潮の水温は海面から深くなるにつれて単調に低下するのに対し、親潮の水温は深さ100~200m付近で極小となり、深さ500~600m付近で極大となる。一方、黒潮の塩分は深さ200m付近に極大、深さ800m付近に極小をもつのに対し、親潮の塩分は海面付近で低く、深さとともに単調に高くなる。親潮の溶存酸素は表層で豊富であり、100m以浅で比べると、その濃度は黒潮の約1.5倍となっている。また、親潮のリン酸塩は表層から深層まで豊富であり、特に100m以浅においては、黒潮はリン酸塩がほとんど枯渇しているのに対し、親潮は黒潮の深さ600mに匹敵するリン酸塩がある。
各要素の季節変動は、深さ200m付近までの表層で顕著だが、それ以深では小さい。海面から深さ100mまでの季節変動をみると、水温は夏・秋に高く、塩分・リン酸塩濃度は冬に高い。溶存酸素量は春に多くなるが、これは植物プランクトンの大増殖の結果、光合成によって酸素が生成されることが主な要因である。このプランクトンにより表層の栄養塩が消費されるため、リン酸塩濃度は夏にかけて低下する。また、各要素とも冬に表層における鉛直変化が小さくなるが、これは海面からの冷却による対流の発達と、海上の強風による攪拌作用で表層の水が鉛直方向に混合されて一様になるためである。夏には海面が加熱されて安定した成層が形成され、溶存酸素量以外の要素は鉛直方向の変化が大きくなる。

図2.2.3-5  親潮(PH線上の北緯41度30分、東経144~145度)及び黒潮(北緯30度、東経137度)における水温(左上)、塩分(右上)、溶存酸素量(左下)及びリン酸塩濃度(右下)の季節ごとの平均的な鉛直分布(1972~2009年の平均)

図2.2.3-5 親潮(PH線上の北緯41度30分、東経144~145度)及び黒潮(北緯30度、東経137度)における水温(左上)、塩分(右上)、溶存酸素量(左下)及びリン酸塩濃度(右下)の季節ごとの平均的な鉛直分布(1972~2009年の平均)

縦軸(深さ)は200mを境にスケールが異なっていることに注意。 。
親潮:-冬、:-春、:-夏、、:-秋、 黒潮:、:―― 夏、、:――

2 親潮の分布の監視

(1)診断に用いるデータ

気象庁では、気象庁を含む国内関係機関所属の観測船及び一般船舶、漂流ブイ・中層フロートなどの自動観測装置、並びに人工衛星による観測データを収集し、それらをもとに日本東方海域の親潮の分布を監視している。
この診断では、1971年から1984年までの期間については観測データに基づき客観的手法により解析した水温格子点値、1985年から2011年までの期間について観測データに加え海洋大循環モデルを用いて客観的に解析した水温格子点値をそれぞれ使用している。1985年の前後で使用する水温格子点値が異なっているが、親潮の広がりの程度を診断するうえでは、二つのデータ間における親潮の占有面積の差は十分に小さい。
親潮の南限緯度については、前述の水温格子点値による深さ100mの水温分布の他に、人工衛星による海面水温画像等を用いて、親潮の沿岸寄りの分枝に相当する冷水の南への張り出し位置を、総合的に判断して求めている。

図2.2.3-6 日本東方海域(北緯43度以南、東経148度以西)における月ごとの親潮の南限緯度(上)と占有面積(下)の経年変動(1971~2012年)

図2.2.3-6 日本東方海域(北緯43度以南、東経148度以西)における月ごとの親潮の南限緯度(上)と占有面積(下)の経年変動(1971~2012年)

図2.2.3-7 日本東方海域(北緯43度以南、東経148度以西)における春季(3~5月)平均した親潮の占有面積(青線)及び沿岸寄りの分枝の南限緯度(赤線)の経年変動(1971~2012年)

図2.2.3-7 日本東方海域(北緯43度以南、東経148度以西)における春季(3~5月)平均した親潮の占有面積(青線)及び沿岸寄りの分枝の南限緯度(赤線)の経年変動(1971~2012年)

図2.2.3-8 親潮の著しい南下がみられた1984年4月(左)と南下の程度が小さかった1990年4月(右)の100m深水温分布図(単位:℃)

図2.2.3-8 親潮の著しい南下がみられた1984年4月(左)と南下の程度が小さかった1990年4月(右)の100m深水温分布図(単位:℃)

(2)親潮の分布の変動状況

図2.2.3-6は、日本東方海域の親潮の占有面積と南限緯度の月ごとの変動である。3~4月に最大(最南)、11~12月に最小(最北)となる季節変動が卓越しているものの、3~4月の南下が小さくその状態が年の終わりまで継続したもの(例えば、1980年、1990年、2002年)や、11~12月に占有面積が減少する程度が小さいもの(1991年)など、年による違いもみられる。親潮の南限緯度が北緯37度を越える南下現象は、1981年から1986年にかけて、1992年から1994年にかけて、及び2003年から2005年にかけて断続的にみられた。
親潮の年々変動については、その特徴が顕著に現れる春季(3~5月)に着目し、顕著な南下の発生状況を調べる。ここで顕著な南下とは、単に春季平均した親潮南限緯度が著しく南に位置する(北緯38度以南を目安)だけでなく、春季平均した親潮の占有面積がある程度の大きさをもち、漁業等社会的影響が大きい場合をいう。図2.2.3-7に春季平均した親潮の占有面積と南限緯度の経年変動を示す。1984年は、占有面積及び南限緯度のいずれも1971年から2011年までの期間において最大(最南)であり、最も南下の著しかった年である。この南下の最盛期である1984年4月の親潮の分布は、南下の程度が小さかった1990年4月とは大きく異なっている(図2.2.3-8)。1980年代には、この1984年のほか、1981年と1986年にも顕著な南下があった。
春季平均の占有面積と南限緯度には、占有面積が大きいと南限緯度もより南になるという相関関係がある。しかし、南限付近での親潮の分布は暖水の位置や津軽暖流が沖合に張り出す位置に左右されるため、沿岸寄りの分枝が細長く分布する場合や幅広く分布する場合があり、先端がより南に達した年に占有面積が大きいとは限らない。この例は2004年で、この年は春季平均の南限緯度が北緯38度に達する大きな南下であったが、沿岸寄りの分枝が細長く分布したため春季平均の占有面積は大きくない。
1987年以降の春季平均した南限緯度をみると、1989年、1993年、2004年、及び2005年に北緯38度を超える南下となっているが、いずれも占有面積は特に大きいものではない。1986年を最後に親潮の顕著な南下は起こっていない。

3 親潮の水温と化学成分の監視

(1)診断に用いるデータ

気象庁では北海道南方の北緯41度30分線(以下、PH線と記す;図2.2.3-1)において、1972年から2009年までにわたり、季節ごとに年4回の定期的な海洋観測を実施し、親潮の水温・塩分、化学成分の変動などを監視してきた。水温と塩分は海水の性質を表わす基本的な物理量であり、化学成分の溶存酸素量とリン酸塩濃度は、海面や深層との海水交換や生物過程を把握するうえで重要な要素である。親潮の沿岸寄りの分枝は、このPH線の東経144度付近を南下することが多い。そこで、PH線の東経144度付近において、深さ100mの水温が5℃以下で、南向きの流れが最も強い観測点を、PH線における親潮の沿岸寄りの分枝の中心点と考え、この点での水温・塩分・溶存酸素量・リン酸塩濃度を監視の対象要素とした。
また、親潮の二つの起源域であるオホーツク海と千島列島の南東方海域では水温と化学成分の濃度が明確に異なっていることを利用して、親潮の沿岸寄りの分枝の中心点における両起源水の混合の割合を求め、親潮の水温と化学成分の変動要因の推定に用いる(髙谷ほか, 2007)。これらの起源域での水温と化学成分については、1963年以降に気象庁が観測した資料を用いる。
海洋中における水の混合は主に等密度面上で起こる。また、表層付近では季節変動が大きくて、長期的な変動が不明瞭となる場合が多いので、長期的な変動を監視するには季節変動の小さいある程度の深さの層に着目することが必要である。そこでオホーツク海水と北太平洋西部亜寒帯水の性質の違いが明瞭で(Yasuda,1997など)、北太平洋中層水の特徴を示す塩分極小層が形成されると考えられている、ポテンシャル密度(海面規準;記号はσθ)が26.8kg/m3の層(以下、密度26.8σθの層。PH線では深さ270m付近にあたる;Talley,1993)に着目した。

(2)親潮の水温と化学成分の変動状況

ア 沿岸寄りの分枝の水温と化学成分

PH線における親潮の沿岸寄りの分枝の中心点での水温・塩分・溶存酸素量・リン酸塩濃度の変動を図2.2.3-9に示す。水温は2~3℃、塩分33.5~33.7の範囲で連動して上下している。2000年頃までは年々の変動が顕著であるものの、5~6年程度の周期の変動もみられるが、2001年以降は低温・低塩分の状態が続いている。
一方、溶存酸素量とリン酸塩濃度はおおむね逆相関を示して変動している。1990年代後半に溶存酸素量の極小、リン酸塩濃度の極大がみられるが、2001年以降はほぼ一定の値で経過している。

図2.2.3-9  PH線上の親潮の沿岸寄りの分枝の中心点での密度26.8σθの層における各要素(上から水温、塩分、溶存酸素量、リン酸塩)の経年変動(1972年~2009年)

図2.2.3-9 PH線上の親潮の沿岸寄りの分枝の中心点での密度26.8σθの層における各要素(上から水温、塩分、溶存酸素量、リン酸塩)の経年変動(1972年~2009年)

は観測ごとの値、は5季節移動平均値を示す。

イ 起源水の混合比

図2.2.3-10にオホーツク海と北太平洋西部亜寒帯域における密度26.8σθの層(オホーツク海では250~300m深、北太平洋西部亜寒帯域では約200m深)での水温・溶存酸素量・リン酸塩濃度の経年変動を示す。観測が行われなかった期間もあり、長期的な変動については不明だが、両海域で観測が行われた期間で比較すると、いずれの要素もほぼ同位相で変動しており、年々の変動があっても両海域の水質の差は明瞭である。
各要素の観測値から、親潮の密度26.8σθの層におけるオホーツク海水と北太平洋西部亜寒帯水の混合比(Rw)を計算した。Rwを推定する際の起源水の指標値には、オホーツク海(A)及び北太平洋西部亜寒帯域(B)において1963年以降に実施された全観測(図2.2.3-1)の平均値を使用した。図2.2.3-11にPH線における親潮の沿岸寄りの分枝の中心点でのRwの変動を示す。Rwは親潮に占める北太平洋西部亜寒帯水の割合で示してあり、純粋なオホーツク海水のみのとき0、北太平洋西部亜寒帯水のみのとき1となる。なお、Rwは、水温、溶存酸素量、リン酸塩濃度それぞれから算出した混合比を平均したものである。Rwは平均的には0.4‐0.5の範囲にあるが、十数年程度の時間スケールの変動がみられる。1980年代後半に0.3を割り込む極小を示してから増大に転じ、1990年代後半には0.6を超える極大となった後、2001年以降平均的な値で推移している。これは親潮に占めるオホーツク海水の割合が1980年代後半に一時増大し、1990年代後半にかけて減少した後、2001年以降平均的な状態になっていることを意味している。
オホーツク海から流出する水は密度26.8σθ付近の渦位(密度がほぼ均一な層の厚さを表現する指標)が小さいという性質があり、この特徴は日本東方を南下する間も保持される(Yasuda,1997)。このことから親潮の渦位からもオホーツク海水の影響の度合いを推定できる。PH線における親潮の沿岸寄りの分枝の中心点での渦位の変動をみると(図2.2.3-12)、Rwのような十数年程度の時間スケールの変動は明瞭ではないが、1990年代前半から2000年にかけて渦位の高い状態が続き、2000年頃からは低下傾向にあるという長期的な変動がみられる。こうしたことから、親潮中のオホーツク海水が占める割合が2000年頃から増加したことが示唆される。

図2.2.3-10  親潮の起源域での密度26.8σθの層における各要素(上から水温、塩分、溶存酸素量、リン酸塩)の経年変動(1963~2006年)

図2.2.3-10 親潮の起源域での密度26.8σθの層における各要素(上から水温、塩分、溶存酸素量、リン酸塩)の経年変動(1963~2006年)

はオホーツク海(図2.2.3-1中の(A))、は北太平洋西部亜寒帯域(図2.2.3-1中の(B))における観測値の年ごとの平均を示す。

図2.2.3-11  PH線における親潮の沿岸寄りの分枝の中心点での水温・塩分・溶存酸素量・リン酸塩濃度から推定した混合比の経年変動(1972年冬~2009年秋)

図2.2.3-11 PH線における親潮の沿岸寄りの分枝の中心点での水温・塩分・溶存酸素量・リン酸塩濃度から推定した混合比の経年変動(1972年冬~2009年秋)

は観測ごとの値、は5季節移動平均値を示す。

図2.2.3-12  PH線における親潮の沿岸寄りの分枝の中心点での渦位の経年変動(1972年冬~2009年秋)

図2.2.3-12 PH線における親潮の沿岸寄りの分枝の中心点での渦位の経年変動(1972年冬~2009年秋)

は観測ごとの値、は5季節移動平均値を示す。

4 診断

(1)親潮の分布

1981年から1986年にかけて、1992年から1994年にかけて、及び2003年から2005年にかけて、春季に親潮の沿岸寄りの分枝が北緯37度を超えて南下する現象が断続的にみられた。2(2)で述べたような親潮の沿岸寄りの分枝の顕著な南下は、1981年、1984年、1986年と1980年代にしばしば発生したが、このような事例は1986年を最後に発生していない。2004年及び2005年には3~5月平均の南限緯度が北緯38度に達したが、親潮の分布は細長く、親潮の占有面積としては特に広いものではなかった。

(2)親潮の水温・塩分と化学成分

PH線における親潮の沿岸寄りの分枝の中心点では、2001年以降、低温・低塩分の傾向がみられる。オホーツク海水と北太平洋西部亜寒帯水の混合比及び渦位の状況は、親潮に占めるオホーツク海水の割合が1990年代後半に低下していたが、2001年以降平均的な状態に回復していることを示しており、PH線における親潮の低温・低塩分傾向は、オホーツク海水の占める割合の影響を反映したものと考えられる。
溶存酸素量とリン酸塩濃度の変動はおおむね逆相関を示し、1990年代後半にそれぞれ極小・極大となったが、2001年以降はほぼ一定の値で経過している。

参考文献



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