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2.2.1 日本近海の海面水温

第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化
2.2.1 日本近海の海面水温の要約はこちら
平成25年12月20日

診断概要

診断内容

 海面水温は、年々から数年といった短い時間スケールでは年々の天候の影響を強く受けている。ここでは、日本近海の海面水温について、年々の天候との関連に着目し、1982年以降の変動を診断する。

診断結果

 日本近海の海面水温は、1993年夏の寡照、1994年夏の多照の影響を受けて、1993年の夏に平年より低く、1994年の夏に平年より高かった。しかし、2003年夏の寡照が及ぼした海面水温への影響は小さく一時的であった。日本近海の海面水温が夏に平年より高くなる傾向が、1999年から2001年まで続き、その後、2010年の夏にも日本近海の海面水温が高くなった。 

1 日本近海の海面水温の基礎知識

(1)海面水温の平均分布と季節的な特徴

海洋は、大気との間での熱や水蒸気、運動量のやり取りを通じて、長期的な気候変動から短期的な気象現象まで、様々な時間スケールの大気の変動に影響を及ぼしている。  
一般的に海面水温は、海面における加熱・冷却(海水の蒸発により奪われる潜熱、大気との間の熱伝導による顕熱、日射による短波放射、海面からの長波放射(柳,2002;長坂,1987))のほかに、温度の異なる上層と下層の海水の混合、海流による熱の輸送、海水の上下方向の動きなどによって変化する。このなかで、海面水温を高くする主な要素は日射であり、逆に低くする主な要素は潜熱と混合となっている。
全球における海面水温の平均分布の特徴については1.1で、北太平洋における海面水温の平均分布の特徴については2.1.1で述べたとおりであるが、ここでは、日本近海における海面水温の平均分布に現れる特徴について解説する。
図2.2.1-1に日本近海における2月、5月、8月及び11月における月平均海面水温の平年値(1981~2010年の30年平均値)及び標準偏差を示す。
日本近海における海面水温の季節変動の振幅は、日本の東の海域及びオホーツク海、日本海、黄海、東シナ海などの縁辺海で大きく、日本の南の海域では小さい(2.1.1参照:図2.1.1-2)。黄海と東シナ海西部で海面水温の季節変動の振幅が大きい要因は、水深が浅くて貯熱量も少ないため、加熱・冷却の効果が海面水温に反映されやすいためである(朝岡,1987)。千島列島付近では、8月の海面水温が周辺と比べて極端に低くなっている。これは、潮汐に励起される強い水平の流れが千島列島付近の海底地形の影響を受けて強い鉛直流を引き起こし(潮汐混合と呼ばれるメカニズム)、下層の冷たい水の影響を受けるためと考えられている(Nakamura et al.,2004)。
また、季節変動の位相としては、南西諸島近海を除くと、海面水温が季節的に最も高くなるのは8月後半から9月前半となっており、日本の地上気温が季節的に最も高くなる時期に比べて、半月以上遅れて現れる。一方、海面水温が季節的に最も低くなるのは、2月から3月頃となっており、日本の地上気温の季節変動に比べて、1か月以上遅れている。
季節変動の位相が地上気温に比べて遅れて現れる主な原因は、海洋が大気と比べて熱容量が大きいことにある。具体的には、大気と同様に季節的に周期変化する太陽放射を受けつつも、熱しにくく冷めにくい物理的性質を持っていることから、太陽放射の季節変動に対して遅れを生じることとなる。特に冬季には、海面からの冷却の影響を混合層全体で受け止める鉛直構造が現れ冷めにくくなり、位相の遅れが顕著となる。
一方、南西諸島近海では、海面水温の季節変動の位相の遅れは比較的、小さくて、地上気温と同様な季節変動を示している。これは低緯度海域で強い太陽放射を受けて暖められた表層水(暖水)が黒潮によって供給されることなどが原因と考えられる(2.1.1参照:図2.1.1-2(b)赤枠)。
冬の代表例として、日本近海の2月の海面水温の分布をみると、同じ緯度で比較した場合には、日本海の海面水温と太平洋側の三陸沖の海面水温には、さほど大きな違いはみられない(図2.2.1-1(a))。
しかし、夏の代表例として8月の海面水温の分布をみた場合、日本海の海面水温は三陸沖の海面水温より5℃以上も高くなっている(図2.2.1-1(c))。これは、本州の日本海沿岸では対馬暖流が1年を通して流れているのに対し、三陸沖では春から夏にかけて親潮の冷水の南下が著しいためと考えられる。
他方、日本海における8月の標準偏差は1.5℃前後と、太平洋側に比べて大きい。このことは、夏の日本海では風やうねりが弱く、海面付近の季節躍層が発達して海面水温が上昇しやすい環境にあり、天候に恵まれた場合には同じ緯度の太平洋側に比べると海面水温が高くなる傾向にある一方、低気圧等の影響で混合が起きれば海面水温がさほど高くならないこともあることを示している。
また、5月の標準偏差をみると、三陸沖から常磐沿岸にかけて1.5℃以上の大きな値の海域がみられる。これは冬から春にかけて南下する親潮の張り出しや、黒潮系暖水の北上の強弱が年によって大きく異なることが原因となっている。
一方、8月の海面水温をみると沖縄周辺や日本の南の父島近海では月平均で28℃~29℃に達しており、標準偏差は0.5℃前後となっている。太平洋高気圧に覆われ海面付近の季節躍層が発達すると、これらの海域では海面水温が30℃近い状態が、しばしばみられることを示している。

図2.2.1-1 (a)2月、(b)5月、(c)8月、(d)11月における日本近海の海面水温の平年値(左)と標準偏差(右)

図2.2.1-1 (a)2月、(b)5月、(c)8月、(d)11月における日本近海の海面水温の平年値(左)と標準偏差(右)

平年値は1981~2010年の30年平均値。単位:℃

(2)海面水温の変動による影響

日本が海に囲まれていることは、日本における安定した気候形成にとって重要な要素である。一方で、日本周辺における海面水温の変動が日本の気候変化に及ぼす影響については、必ずしも十分に明らかになっているとはいえない。
しかし、太平洋側では、東北地方太平洋沿岸の気温の低下をもたらし、農作物の生育を左右する要因となるやませ(夏に東北地方の太平洋沿岸に吹く東寄りの低温の風)については研究が進んでおり、やませに伴う大気下層の寒気が三陸沖を通過する際に、海面水温からの加熱によって変質させられる過程が解明されつつある(例えば、太田と松井2006)。
また、日本海側についても、海面水温や対馬暖流の強弱と冬季の日本海側の降水量との間には有意な関係があることが指摘されており(広瀬ら,2007;Yamamoto and Hirose,2010)、海面水温の変動が局所的な気候変化に及ぼす影響に関する研究が進みつつある。
更に日本周辺よりも大きな空間スケールでみた場合には、黒潮続流域における海洋変動が低気圧等の気象擾乱の発達海域を特徴付け、偏西風の蛇行などの大気循環場に影響を与えているとの指摘もなされるようになり、大規模な気候変動に関連した研究が進められている(Tanimoto et al.,2003)。
また、気候変化に限らず、例えば30℃以上の海面水温が継続した場合にはサンゴの白化が拡大することもあり、また、冬の海面水温が十分下降しないことがオニヒトデの大量発生の一因と指摘される例もある。更に、海面水温上昇と共に水質が変化することが原因とされる磯焼け(海藻類の死滅)の発生、及び、それに伴う漁場の荒廃(藤田,2002)など、海面水温の変動は様々な形で社会経済活動に影響を及ぼすことが知られている。

2 海面水温の監視

(1)診断に用いるデータ

診断に用いる資料は、船舶等による現場観測に加え、1982年以降の人工衛星によるリモートセンシングデータを併せて解析した海面水温格子点データである。
平年値(1981年から2010年までの月別平均値)の計算にはCOBE-SST(1.1.1参照)のデータを併せて用いている。

(2)近年の状況 

日本周辺海域の海面水温の長期変化傾向(1.1.3)で示した海域区分を用いて、海面水温格子点データから海域別月平均値を算出して平年値からの差を取り時系列としたものを、図2.2.1-2に示す。以下では年々の海面水温変化の特徴について解説する。
最初に、日本周辺13海域の全海域平均の海面水温偏差の時系列(図2.2.1-2上)をみると、1986年と1993年は海面水温偏差が-1℃以下となるなど、日本周辺の海面水温が低かったことがわかる。

図2_2_1-2 日本周辺海域(①~⑬)の全海域平均海面水温偏差(月平均)の時系列(上)及び海域区分(下)

図2.2.1-2 日本周辺海域(①~⑬)の全海域平均海面水温偏差(月平均)の時系列(上)及び海域区分(下)

①~⑬の各海域別の海面水温偏差の時系列は次ページ以降に掲載。平年値は1981年~2010年の平均。青、赤の陰影は低温傾向、高温傾向の期間を示す。

このうち特に1986年の春には常磐沖⑩で-2℃以上、海面水温が低くなっており、これは親潮が顕著に南下して冷水が張り出したことにより局所的に低温傾向が強まった影響も含まれると考えられる。
また、1993年には日本周辺の北緯30度以北の広い海域において、夏の海面水温が低かったのが特徴となっており、日本海南部⑤、日本海中部⑥、釧路沖⑧、三陸沖⑨では、海面水温が平年より-2℃以上低かった。その一方で、先島諸島周辺①、東シナ海南部②や四国・東海沖南部⑬では低温傾向はみられない。
その翌年の1994年には、日本周辺の北緯30度以北の広い海域において、夏の海面水温が高くなっているのが特徴となっており、東シナ海北部③、日本海南部⑥、釧路沖⑧、三陸沖⑨で+2℃以上高くなっているが、この年も先島諸島周辺①や四国・東海沖南部⑬では特に高温傾向はみられない。
北緯30度以北の海域を中心とした、1993年の夏と1994年の夏の対照的な海面水温変化は、1993年夏は寡照のため冷夏(気象庁,1994)、1994年夏は多照による猛暑によってもたらされている。
海面水温が高かった期間に着目して日本周辺海域の全海域平均の海面水温偏差の時系列(図2.2.1-2上)をみると、1998年から2001年にかけては高温傾向が続いていることがわかる。
特に1998年は、春から夏を中心に先島諸島周辺①や東シナ海南部②で平年より1℃高くなっており、夏には海面水温が30℃を超える海域がみられ、サンゴの白化が問題となった。
日本周辺海域の海面水温は、翌1999年の夏頃までは高温傾向が続き、更にその翌年の2000年、翌々年の2001年も夏を中心に高温傾向で、2002年の前半までは繰り返し高温傾向がみられた。
この高温傾向は地上気温においても同様となっており、(2003年の冷夏を除き)要因としては、地球温暖化の影響の他、十年から数十年の周期の気候変動などの影響が指摘されている((気象庁,2006:異常気象レポート2005)。
このように海面水温は大気からの影響を受けて変動している場合も多いが、先述の1986年春の常磐沖⑩の事例以外にも、海流等の状態が背景となっている場合もみられる。例えば三陸沖⑨や常磐沖⑩に着目すると、2003年の春から2004年の春にかけて、平年より1℃以上、海面水温が低くなっている。この期間には東海沖では黒潮が非大蛇行接岸型流路であったため、房総沖の黒潮続流も東に向かって流れる傾向が強く、常磐沖に暖水が供給されにくい状況であったことが一因となっている。しかし2004年の夏になると、東海沖の黒潮が南偏して大蛇行(⑫の赤矢印)を始めると共に房総沖の黒潮続流は北偏して暖水が供給されるようになり、常磐沖⑩の低温傾向が解消されている。
日本周辺海域の全海域平均の海面水温偏差の時系列(図2.2.1-2上)をみると、2003年から2009年にかけては、おおむね±1℃に収まっているが、2010年には僅かに+1℃を越えて、夏を中心に高温傾向がみられる。
2010年の様子を海域別にみると、日本海⑤⑥⑦、釧路沖⑧などで+2℃程度の正偏差がみられる他、東シナ海②③や日本の南⑫⑬も+1℃前後となっており、2010年の夏に関しては海域による違いが少なく、日本周辺の海面水温が広い範囲で高かったことが特徴になっており、日本の地上気温も統計を開始した1898年以降の113年間で第1位となっていた。
 2012年は全海域平均海面水温偏差には特徴はみられないが、9月の北海道から東北周辺の海面水温が高く、特に釧路沖⑧、三陸沖⑨では+4℃程度の偏差となり、解析期間中最も高い記録となった。これは、太平洋高気圧の勢力が日本の東海上で非常に強く、北日本の気温が高かったためと考えられる。

日本周辺海域(①~⑬)の各海域平均海面水温偏差(月平均)の時系列(横軸は西暦年、縦軸は水温偏差(℃))

図2.2.1-3 日本周辺海域(①~⑬)の各海域平均海面水温偏差(月平均)の時系列(横軸は西暦年、縦軸は水温偏差(℃))

海域⑩、⑫の赤矢印は黒潮大蛇行発生期間を表す。
平年値は1981年~2010年の平均。
青、赤の陰影は低温傾向、高温傾向の期間を示す。

3 診断

日本近海の海面水温は、1993年夏の寡照、1994年夏の多照の影響を受け、日本海と北海道周辺・本州東方海域を中心に、1993年夏に低く、1994年夏に高かった。
また、日本近海の海面水温が夏を中心に平年より高くなる傾向が、1999年から2001年及び2010年にみられた。これらの特徴は、日本の地上の夏の気温が高かったことと対応している。2012年9月に北海道から東北周辺の海面水温が高くなったが、これも地上の気温に対応している。

参考文献

  • 朝岡 治,1987:「日本海」.海洋大事典.和達清夫監修,第18版,東京堂出版,383-384.
  • 朝岡 治,1987:「東シナ海」.海洋大事典.和達清夫監修,第18版,東京堂出版,404-405.
  • 太田琢磨,松井和雄,2006:2003年6月21~25日高風丸が観測したヤマセの大気構造について.東北技術だより,23,1-10.
  • 藤田大介,2002:「磯焼け」.「21世紀初頭の藻学の現況.堀輝三・大野正夫・堀口健雄編,日本藻類学会,山形,102-105.
  • 気象庁,1994:気象庁技術報告115号.平成5年冷夏・長雨調査報告.231pp.
  • 気象庁,2006:異常気象レポート2005,323pp. 長坂昂一,1987:「水温」.海洋大事典.和達清夫監修,第18版,東京堂出版,262-265.
  • Nakamura, T., T. Toyoda, Y. Ishikawa and T. Awaji, 2004 : Tidal mixing in the Kuril Straits and its impact on ventilation in the North Pacific Ocean. J. Oceanogr., 60, 411-423.
  • 柳哲雄,2002:4-1節「大気放射」.海の科学-海洋学入門.第2版,恒星社厚生閣,28-32.
  • 広瀬 直毅, 山本 勝, 西村 和也, 福留 研一,第16章 対馬暖流と冬季降水量の関係,気象研究ノート,216,167-173,2007.07.
  • Yamamoto, M., and N. Hirose,2010:Atmospheric Simu-lations Using OGCM-Assimilated SST: Influence of the wintertime Japan Sea on Monthly Precipitation, Terr. Atmos. Ocean. Sci. Vol.21,No.1,113-122,2010
  • Tanimoto,T, H.Nakamura, T.Kagimoto, S.Yamane, 2003:An active role of extratropical sea surface temperature anomalies in determining anomalous turbulent heat fluxes. J. Geophys. Res. 108(C10)


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