キーワードを入力し検索ボタンを押下ください。

2.1.2 表層水塊

第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化
2.1.2 表層水塊の要約はこちら
平成25年12月20日

診断概要

診断内容

 各大洋の表層には、海域に固有の水温・塩分をもった海水が広く分布しており、表層水塊と呼ばれている。表層水塊は、大気-海洋間の熱、淡水及び運動量の交換を伴って形成される。そして、形成時の水温・塩分の特徴を保持しつつ海洋表層循環の経路に沿って広範囲に分布するので、表層水塊の水温、塩分、及びその分布域の変動を継続的に監視することによって、気候変動の実態把握やそのメカニズムの理解に利用できる。ここでは、北太平洋にみられる表層水塊のうち、水温の鉛直変化が小さな等温層として特徴づけられる北太平洋亜熱帯モード水と、高塩分水として特徴づけられる北太平洋回帰線水についてその長期変動を診断する。

診断結果

 亜熱帯モード水のコア水温※1は、1970年代後半の約16℃から1980年代に約18℃に上昇後、約10年周期の変動をしている。断面積※2については約10年周期で変動し、1980年代後半以降は、断面積が減少(増加)する時期に、コア水温が上昇(低下)するという逆相関の関係があった。この約10年周期の変動は、主水温躍層が浅くなり、黒潮続流南側から本州南方にかけて低温(本州南方で形成される亜熱帯モード水に比べて)の北太平洋亜熱帯モード水の量が減少したためと考えられる。
 北太平洋回帰線水の断面積※3は、1990年頃までは約5年周期、それ以降は約10年周期の変動がみられる。1970年代後半のレジームシフトの後に拡大し、断面積の大きな状態で推移し、その後、1990年代後半に減少した。また、2000年代は、回帰線水分布域の南下傾向がみられる。断面積の変動は、黒潮続流の安定度の変動と形成域西部(黒潮続流南側となる)における淡水収支の変動が同期したことによって、起きている可能性が示唆される。

※1 コア水温:東経137度の北緯20~33度、水深100~400mの範囲でポテンシャル密度の鉛直変化が極小になる層における水温の平均
※2 亜熱帯モード水の断面積:東経137度の北緯20~33度、水深100~400mの範囲で渦位が2.0×10-10m-1s-1以下となる断面積
※3 東経137度の北緯7~25度、水深50~300mの範囲で塩分が34.9以上の領域の面積

1 表層水塊の基礎知識

(1)表層水塊の形成過程

太平洋や大西洋、インド洋の各大洋における、特定の海域の表層(海面から深さ500m程度まで)には、海域に固有の水温や塩分などで特徴づけられる海水が広く分布しており、表層水塊と呼ばれている。表層水塊は、海面を通じた熱、淡水(蒸発量と降水量の差)及び運動量の交換といった気候変動に関連して変動する大気の状態を反映して得た海水特性(水温、塩分等)を保持して、海洋表層循環の経路に沿って広範囲に分布する。したがって、表層水塊の指標となる水温、塩分、及びその分布状態を監視することは、表層循環のトレーサーとしてだけでなく、様々な時間的、空間的なスケールで存在する気候変動の実態把握や変動メカニズムの理解にも役立つ。
表層水塊の形成過程は、以下のとおりである。冬季には、海面からの活発な熱放出(熱交換過程)や水の蒸発(淡水収支の関係)により海面付近に低温・高塩分な密度の大きい海水ができることによる下層との混合と、海上を吹く風によるかき混ぜの効果とが合わさって、海面からある深さまで水温や塩分が鉛直方向に一様な層(表層混合層)が発達する。春季から夏季にかけて、表層混合層は浅く軽くなり、下層との間に季節密度躍層が形成され、その下には変質を免れた冬季混合層の水が取り残される。これが表層水塊である。(表層水塊のひとつである亜熱帯モード水の形成過程については、図2.1.2-4を参照のこと)表層水塊の一部は、海上風の効果により等密度面に沿って海洋内部(永年密度躍層)へ沈み込む。
代表的な表層水塊として、モード水と回帰線水と呼ばれる水塊がある。モード水は、各大洋の中緯度において冬季に混合層が発達する海域で形成される水塊で、代表的なものに、北半球の亜熱帯循環域の北西部に広く分布する北太平洋亜熱帯モード水と北大西洋亜熱帯モード水がある。なお、モード水という名前は、ある海域においてその水温と塩分で特徴づけられる海水の体積が多いことから、統計学で最頻値を表すモードになっている水塊という意味に由来する(Masuzawa,1969)。亜熱帯モード水は、等温・等密度層(海水の密度を決める水温と塩分が鉛直方向にほぼ一定の層)という特徴があり、形成過程には大気-海洋間の熱交換過程や亜熱帯循環の変動による海洋構造の変動が深く関わっている。
一方、各大洋の中央部の回帰線付近では、冬季に海面からの蒸発が活発なことから高塩分水が形成される。この高塩分水は、風の効果によって海洋内部に押し込まれた後、表層循環に沿って広がり、表層における塩分極大層として分布する回帰線水(北太平洋では、北太平洋回帰線水という)と呼ばれる(土屋,1970など;図2.1.2-1)。回帰線水の形成には、水循環に関連する淡水収支を反映しているが、モード水とは異なり、観測データの少ない塩分で定義されることから形成過程や長期変動に関する研究は少なく未解明の部分が多い。

図2.1.2-1 北太平洋亜熱帯モード水(青色)と北太平洋回帰線水(赤色)の分布  

図2.1.2-1 北太平洋亜熱帯モード水(青色)と北太平洋回帰線水(赤色)の分布  

Ishii and Kimoto(2009)に基づき解析した表層水温・塩分データセットによる北太平洋亜熱帯モード水及び北太平洋回帰線水の平均分布(1981-2010年)を表す。緑矢印は亜熱帯循環及び黒潮の再循環を表し、各水塊の形成域から分布域への広がりを示す。

(2)北太平洋亜熱帯モード水

図2.1.2-2 8月(1981年~2010年の平均)の北太平洋亜熱帯モード水の分布

図2.1.2-2 8月(1981年~2010年の平均)の北太平洋亜熱帯モード水の分布

Ishii and Kimoto(2009)に基づき解析した 水温・塩分のデータセットによる亜熱帯モード水の水温を等値線で、厚さをカラーで表す。

北太平洋亜熱帯モード水(以下「亜熱帯モード水」と記す)は、北太平洋の亜熱帯循環域北西部の深さ100~400mにおける、水温の鉛直勾配が1.5℃/100m以下、あるいは密度の鉛直勾配から求められる渦位1が2.0×10-10m-1s-1以下となる等温・等密度層(海水の密度を決める水温と塩分が鉛直方向にほぼ一定の層)として、広く分布している。亜熱帯モード水の代表的な値は、水温14~20℃、ポテンシャル密度24.5~25.9σθ(1024.5~1025.9kg/m3)、塩分34.6~35.0である(図2.1.2-1図2.1.2-2)(Suga et al, 1989 ; Hanawa and Talley, 2001 ; Oka and Suga., 2005など)。亜熱帯モード水の変動を監視する指標として等温層の水温や水温の鉛直勾配が極小となる深度の水温、あるいは等温・等深度層の厚さ(分布量)などが用いられる。

数式

亜熱帯モード水は以下の過程を経て形成される(図2.1.2-4)。黒潮・黒潮続流のすぐ南側の海域には、黒潮によって北太平洋の低緯度から大量の熱が運ばれており、冬季の寒冷な北西の強い季節風によって大気よりも温度の高い海面が冷却され、海面から大気へ大量の熱が放出される。冷却された海面付近の海水は重くなり、鉛直混合によって等温・等密度な200~300mの厚さとなる深い表層混合層が形成される(Suga and Hanawa, 1990)。春季以降に海面付近の水温が上昇することによって、この厚い表層混合層が蓋をされ、亜熱帯モード水が形成される(Bingham,1992)。黒潮続流域で形成された亜熱帯モード水は、黒潮続流によって東へ輸送されるとともに、再循環(黒潮・黒潮続流の南側の西向きの流れ)によって南西方向に輸送されて、亜熱帯循環域北西部に広がる。そのため亜熱帯モード水の厚さは、形成域である黒潮続流域の南側で最大となり、形成域から離れるほど薄くなる。また、東に行くにつれて、黒潮・黒潮続流によって運ばれる熱が少なくなるため、形成される亜熱帯モード水の水温は低下し、特に伊豆海嶺付近で急激に変化する。そのほか、主水温躍層が深く、混合層の発達しやすい暖水渦内部で厚い亜熱帯モード水が形成されやすいことも指摘されている(Uehara et al., 2003 ;Oka, 2009 ; Douglass et al., 2012 ; Kouketsu et al., 2012)。
1990年代頃までは、気候学的な亜熱帯モード水の形成・循環像を明らかにする研究がなされた。その後、亜熱帯モード水の形成には大気-海洋間の熱交換過程が深く関わっていると考えられ、その形成過程や変動の要因に関する研究が行われ、表2.1.2-1のようなことが示されている。
近年は、アルゴフロートの展開に伴う観測データの増大、衛星に搭載された海面高度計データの蓄積、中規模渦を表現することのできる高解像度の海洋大循環モデルの発展などにより、時空間的により細かなスケールでの形成・循環過程についての研究が積極的に行われている。更に、亜熱帯モード水の形成・輸送過程が、海洋における二酸化炭素の吸収や栄養塩サイクルにおける役割を解明する研究が始まっている(Bates et al., 2002 ; Sukigara et al., 2011)。

図2.1.2-3 東経137度線の水温・塩分鉛直断面における表層水塊の分布(破線丸内)

図2.1.2-3 東経137度線の水温・塩分鉛直断面における表層水塊の分布(破線丸内)

断面図は夏季の平年的な分布であり、水温(℃)を等値線で、塩分をカラーで示してある。

図2.1.2-4 黒潮続流南側での北太平洋亜熱帯モード水の形成過程の模式図

図2.1.2-4 黒潮続流南側での北太平洋亜熱帯モード水の形成過程の模式図

表2.1.2-1 北太平洋亜熱帯モード水の変動の要因とその影響について

表2.1.2-1 北太平洋亜熱帯モード水の変動の要因とその影響について

(3)北太平洋回帰線水

図2.1.2-5 北太平洋回帰線水の分布(1981年~2010年平均)

図2.1.2-5 北太平洋回帰線水の分布(1981年~2010年平均)

Ishii and Kimoto(2009)に基づき解析した 水温・塩分のデータセットによる北太平洋回帰線水の塩分極大値を等値線で、厚さをカラーで表す。図中の赤線は、東経137度線を表す。

北太平洋回帰線水(以下「回帰線水」と記す)は、北太平洋の亜熱帯循環域の南部海域の海面から深さ約200mの間における塩分34.9以上の水として広く分布している。回帰線水の中心となる塩分極大層(上下の層と比べて塩分が高い層)の密度は約24.0σθ(1024.0kg/m3)である(図2.1.2-1,図2.1.2-5)。この水塊は、冬季に蒸発が盛んで降水が少ない北太平洋中央部の北回帰線付近(北緯20度~30度付近)の海面で形成される。北回帰線付近における海上の風はその北側で東向き、南側で西向きとなっており、この風によって海面付近の海水が収束して下向きの流れが生じるため、海面付近の塩分の高い海水は海洋内部に押し込まれる。押し込まれた海水は、北赤道海流によって西へと輸送され、フィリピン海で高緯度に向かう黒潮と赤道方向へ向かうミンダナオ海流によって、それぞれ南北に運ばれる(土屋,1970など)。
回帰線水は、水温に比べ観測データが少ない塩分で特徴づけられることから、モード水と異なり、長期変動やそのメカニズムに関する研究は少ない。そのため、回帰線水の長期変動に関する解析には、気象庁の東経137度線の観測データは非常に有用である。
東経137度線においては、北緯10度~北緯25度付近に塩分34.9以上として広がっている。平均的には北緯15度付近で最も塩分が高く、北緯18度付近で最も厚い(図2.1.2-11)。また、回帰線水を代表する気候学的な塩分極大層の密度24.0σθ面上(深さ約150m)の流れの分布から、北緯15度よりも北側の回帰線水は日付変更線よりも西側の海域、南側の回帰線水は日付変更線よりも東側の海域が、それぞれ形成域であると考えられている(Suga et al.,2000)。
回帰線水の変動の要因として以下のようなことが考えられる(Suga et al.,2000)。
ア 淡水収支(蒸発量と降水量の差)
イ 風による押し込みの強さ
ウ 混合過程

つまり、回帰線水は、形成域での大気-海洋間の上向き淡水収支が多い(降水量に比べ蒸発量が多い)場合に、高塩分となり、その形成量も増える。また、風の場の変動によって形成域での海洋内部への押し込みが強くなると、その形成量は増加する。一方、形成域から西へ輸送されるときに、鉛直拡散・混合により低塩化するが、北赤道海流の流速が速いと、より西方まで高塩分が維持されるということになる。
回帰線水の変動メカニズムについて、Shuto(1996)は、東経137度線における塩分35.0以上の断面積変動が、北太平洋中央部における風の変動から1~2年遅れで変動していることを示している。このことは、東経137度線における回帰線水の変動が、大気場の変動に伴う亜熱帯循環の強さの変動と関係している可能性を示唆している。また、2000年代には、東経137度線の南部を含む西部熱帯太平洋では、海面水位が上昇し、この変化に伴い北赤道海流が南下していることが報告された(Qiu and Chen, 2012など)。Midorikawa et al. (2012)では、東経137度線の南部での海面におけるpCO2の増加速度が2000年代に減速したことを示し、その要因として上述の西部熱帯太平洋の変動に伴った亜熱帯循環の変化の影響を指摘している。このことは、回帰線水の変動が、地球温暖化と関連する炭素循環の変動に影響を及ぼしている可能性を示唆しているものである。

2 表層水塊の監視

(1)診断に用いるデータ

気象庁では本州南方からニューギニア島北岸に至る定線(東経137度線)における海洋観測を、冬季は1967年から、夏季は1972年から毎年実施している。この観測定線は、北太平洋亜熱帯モード水、北太平洋回帰線水の分布域を南北に横断している(図2.1.2-1)。これらの表層水塊の診断には、東経137度線の水温・塩分データをもとに、それぞれの水塊の変動の特徴を表す指標を定義して使用する。また、空間分布とその変動メカニズムを理解するため、Ishii and Kimoto(2009)に基づき、気象庁で現業的に作成している表層水温・塩分のデータセット、及びJRA-25/JCDAS再解析データ(Onogi et al.,2007)を使用する。

(2)表層水塊の変動状況

ア 北太平洋亜熱帯モード水

東経137度線における亜熱帯モード水は、北緯20~33度、深さ100~400mの範囲で、渦位1が2.0×10-10m-1s-1以下となる層と定義し、その層の断面積を求めた。またその層の中で、渦位が極小となる深度での水温を各観測点で求め、それらを平均した値を、東経137度線におけるコア水温(以下亜熱帯モード水のコア水温と記す)とした(曽我ほか,2005)。なお亜熱帯モード水は、冬季に形成され、春季から夏季にかけてその分布量が最大となることから、1年以上の時間スケールの変動を捉えることを目的に、ここでは夏季のデータのみを使用する。
亜熱帯モード水のコア水温と断面積の経年変動を図2.1.2-6に、厚さの分布を図2.1.2-7に示す。亜熱帯モード水のコア水温は、1970年代後半には約16℃と低かったが、1980年代に約18℃に上昇し、その後は約10年周期で変動している。一方断面積については、期間を通じて約10年周期の変動をしていた。1980年代後半以降は、断面積の極小(極大)期になり、分布域の南への広がりが弱かった(強かった)。またこの期間は、断面積が減少(増加)する時期に、コア水温が上昇(低下)するという逆相関の関係があった。
東経137度線における亜熱帯モード水のコア水温の変動については、黒潮続流域での1970年代前半から1990年代前半の亜熱帯モード水の水温変動(Hanawa and Kamada,2001)や、小笠原諸島付近での1984年から1995年における亜熱帯モード水の水温変動(Taneda et al.,2000)と変化傾向がほぼ一致していた。1980年代の亜熱帯モード水の水温が上昇について、形成時の水温に影響を与える、季節風の強弱、海面熱フラックスの変動からその原因を調べた。季節風の強弱を表す指標として、冬季(前年12月~1月平均)のモンスーンインデックス(Hanawa et al.,1988)を用いる(図2.1.2-7)。モンスーンインデックスは、イルクーツクと根室の気圧差で、モンスーンインデックスが大きい年は季節風が強いことを表す。1980年代は、冬季のモンスーンインデックスが減少傾向となっていることから、冬季の海面冷却弱く(上向きの海面熱フラックスが減少)亜熱帯モード水の水温が上昇したと考えられる(図2.1.2-7)。1990年頃以降の変動と冬季海面冷却の関係は不明瞭である。

図2.1.2-6 東経137度線における北太平洋亜熱帯モード水の夏季のコア水温(上図)、断面積(中図)、厚さの分布の3年移動平均(下図)

図2.1.2-6 東経137度線における北太平洋亜熱帯モード水の夏季のコア水温(上図)、断面積(中図)、厚さの分布の3年移動平均(下図)

太線は3年移動平均、赤太線の期間は黒潮続流の不安定期、青太線の期間は安定期、灰色の陰影は黒潮大蛇行期を示す。なお2009年(図中+)は、気象庁海洋気象観測船以外のデータも利用し、2001年(図中▲)は亜熱帯モード水の定義を満たす層がなかったため、23~29Nにおける渦位極小となる深度の水温を平均した。

図2.1.2-7 冬季(前年12月から2月の平均)のモンスーンインデックス (Hanawa et al., 1988) の経年変動と海面熱フラックスの経年変動

図2.1.2-7 冬季(前年12月から2月の平均)のモンスーンインデックス (Hanawa et al., 1988) の経年変動と海面熱フラックスの経年変動

上図はモンスーンインデックス、真ん中の図は海面熱フラックスの時系列である。海面熱フラックスは、下向きを正として下図の青枠内で平均した海面を通過する単位時間・単位面積あたりの熱量であり、太線は3年移動平均を示す。下図はモンスーンインデックスの模式図(図中の実線は等圧線、矢印は冬季の季節風に対応)を表す。

一方、亜熱帯モード水の厚さの変動要因について、Sugimoto and Hanawa (2010)では、その変動はアリューシャン低気圧の南北変動に伴った主水温躍層の深度の変動によるものであることを示した。そこで、主水温躍層深度の指標として、水温12℃となる深度を用い(Uehara et.,al, 2003)、北緯24~34度における主水温躍層深度の変動とアリューシャン低気圧の中心緯度の時系列を図2.1.2.8に示す。その結果、2000年・2010年頃の亜熱帯モード水の断面積の極小は、主水温躍層の深度が浅くなったことによるものと考えられ、1995年・2005年頃の断面積の極大は、主水温躍層の深度が深くなったことによるものと考えられる。この主水温躍層深度の変動は、アリューシャン低気圧の南北変動に伴う北太平洋中央部における主水温躍層深度の変動が、西方伝播したものである。また、黒潮続流南側で形成される亜熱帯モード水は、本州南方で形成されるものより低温である(図2.1.2-9)。このことから、1995年・2005年頃は、黒潮続流南側で形成された亜熱帯モード水の分布域が南へ広がり、黒潮続流南側から本州南方にかけて低温の亜熱帯モード水の量が増加したため、コア水温が低下したと考えられる。なお、黒潮大蛇行期や非大蛇行離岸流路となる時期には、四国沖の暖水渦が非大蛇接岸行流路となる時期に比べて西側に分布するため、東経137度線付近では亜熱帯モード水の形成量が少ない(図2.1.2-9)。そのため、黒潮大蛇行期には、黒潮続流南側から本州南方にかけて低温の亜熱帯モード水が主となり、コア水温は低温で、断面積は小さくなる。
また、1993年に観測を開始した衛星に搭載された海面高度計による海面高度のデータの解析によると、黒潮続流の流路の不安定期(1995~2001年、2006~2009年;安定期は1993~1994年、2002~2005年、2010年)には、中規模渦の活動が活発であることがわかった(Qiu and Chen, 2006、Oka and Qiu, 2012)。そして、この時期は本州東方の黒潮と親潮の間に挟まれた混合水域からポテンシャル密度の鉛直変化の大きな等温・等密度層が薄い水が黒潮続流南側に輸送されるため、亜熱帯モード水の厚みが減少することが報告されている。このことから、1990年代後半と2000年代後半の亜熱帯モード水の分布量の減少は、黒潮続流の流路が不安定だったことも関係していた可能性がある。

図2.1.2-8 北緯24度~北緯34度における主水温躍層深度(12℃となる深度)偏差とアリューシャン低気圧の中心緯度(冬季海面気圧の極小となる位置)の経年変動(1970~2011年)

図2.1.2-8 北緯24度~北緯34度における主水温躍層深度(12℃となる深度)偏差とアリューシャン低気圧の中心緯度(冬季海面気圧の極小となる位置)の経年変動(1970~2011年)

Ishii and Kimoto(2009)に基づき解析した水温・塩分のデータセット及びJRA-25/JCDAS 再解析データによる。右図の太線は3年移動平均を表す。

図2.1.2-9 黒潮大蛇行及び非大蛇行離岸流路となる時期と非大蛇行接岸流路となる時期における亜熱帯モード水の分布の模式図

図2.1.2-9 黒潮大蛇行及び非大蛇行離岸流路となる時期と非大蛇行接岸流路となる時期における亜熱帯モード水の分布の模式図

赤が高温、青が低温の亜熱帯モード水が分布していることを示す。

イ 北太平洋回帰線水

東経137度線における回帰線水は、北緯7~25度、深さ50~300mの範囲における、塩分が34.9以上の水と定義した。そして、各測点での塩分極大値と、塩分34.9以上の厚さを南北方向に積算することにより求めた回帰線水の断面積を、変動の指標とした。断面積の経年変動を図2.1.2-10に示す。回帰線水の断面積は、1990年頃までは約5年周期、それ以降は約10年周期の変動がみられる。1970年代後半のレジームシフトの後に拡大し、断面積の大きな状態で推移した。その後、1990年代後半に減少し、それ以降断面積が小さな状態となっている。そのほか、回帰線水分布域の南端の位置の変動は小さく、北端の位置は大きく変動しているという特徴がある(図2.1.2-11)。また、2000年代は、回帰線水分布域の南下傾向がみられる。

図2.1.2-10 東経137度線における北太平洋回帰線水の断面積の経年変動(1972冬季~2013年冬季、太線は2年移動平均)

図2.1.2-10 東経137度線における北太平洋回帰線水の断面積の経年変動(1972冬季~2013年冬季、太線は2年移動平均)

図2.1.2-11 東経137度線における北太平洋回帰線水に対応する高塩分域の厚み(上図、単位:m)と塩分極大値(下図)の時系列

図2.1.2-11 東経137度線における北太平洋回帰線水に対応する高塩分域の厚み(上図、単位:m)と塩分極大値(下図)の時系列

上図は塩分が34.9以上の層の厚みで、この厚みを南北方向に積算したものが断面積である。

1970年代後半の回帰線水の断面積が増加した時期は、北緯15度より北側で厚さが増加するとともに塩分も高くなっていた。一方、その南側では塩分は高くなっていたが、厚さはほとんど変化していなかった(図2.1.2-11)。この原因について、Suga et al.,(2000)では、北側の回帰線水の変化には、形成域における海面塩分の変化よりも、高塩分水の海洋内部への押し込みが強化されたことや、形成域から回帰線水を輸送する北赤道海流の西向きの流速が速くなっていたことによる寄与を、一方、南側の回帰線水の変化には、形成域の南東部における高塩分化が主に寄与を指摘している。
断面積に減少した1997/1998年頃は、北緯15度以北で、高塩分域の厚みが薄くなっており、そのため断面積が減少した。その後、2003年まで断面積の小さい状態が続いていることは、北緯15~25度を中心とした北部で1998~2003年頃に高塩分域の厚みが薄くなっていることによるものである。
この期間について回帰線水形成とその変動要因とされる、回帰線水の形成域である北太平洋中央部における大気-海洋間の上向き淡水収支(蒸発量と降水量の差)の変動について調べた。図2.1.2-12に経度ごとに北緯20~30度で平均した上向き淡水フラックスの経度-時間断面を示す。1997~2002年頃に東経150~西経165度付近で上向き淡水フラックスが少なかったことが影響していたと考えられる。つまり、形成域における淡水収支の変動から約1~2年遅れて東経137度線の回帰線水の断面積の変動として現れている。
また、東経137度線における回帰線水の断面積の変動は、回帰線水の北側の分布域の広がりと厚みの変動の影響が大きい。そこで、極小期(1998~2002年、2006~2011年)と、極大期(1993~1997年、2003~2005年)に分け、分布域の違いを調べた。図2.1.2-13に、東経137度線での回帰線水の断面積極大・極小期での回帰線水の厚さの分布と海面高度の分布を示す。東経137度線を含む亜熱帯循環西部では、北緯18度以北で極大期・極小期の厚さの差が大きく、分布域の変動が大きい。極大期には、ほぼ同じ南北の幅で西へ広がっているのに対し、極小期には西に行くにつれて南側に狭くなっている。一方、極大期(極小期)が、概ね黒潮続流の安定期(不安定期)に対応している。また、形成域での淡水収支とも対応している。これらのことから、回帰線水の断面積の変動は、黒潮続流の安定度の変動と形成域西部(黒潮続流南側となる)における淡水収支の変動が同期したことによって、起きている可能性が示唆される。

>図2.1.2-12 北緯20~30度平均の上向き淡水フラックス(蒸発量と降水量の差)平年差の経年変動(単位:10-5kg m-2 s-1)

図2.1.2-12 北緯20~30度平均の上向き淡水フラックス(蒸発量と降水量の差)平年差の経年変動(単位:10-5kg m-2 s-1

データはJRA-25/JCDAS再解析データ(Onogi et al., 2007)を使用。平年値は1981年1月~2010年12月の平均で、平年差には13か月移動平均を施してある。赤色が強いほど蒸発量が降水量に対して多い状態を表し、青色が強いほどその反対の状態を表す。

図2.1.2-13 東経137度線において断面積が極大(上図)・極小期(下図)の回帰線水の平均分布(1993~2011年)

図2.1.2-13 東経137度線において断面積が極大(上図)・極小期(下図)の回帰線水の平均分布(1993~2011年)

実線は海面力学高度、カラーは回帰線水の厚さ。

3 診断

(1)北太平洋亜熱帯モード水

亜熱帯モード水のコア水温は、1980年代に約18℃に上昇後、約10年周期で変動している。断面積については約10年周期の変動をし、1980年代後半以降は、断面積が減少(増加)する時期に、コア水温が上昇(低下)するという逆相関の関係があった。この約10年周期の変動は、主水温躍層が浅くなり、黒潮続流南側から本州南方にかけて低温(本州南方で形成される亜熱帯モード水に比べて)の北太平洋亜熱帯モード水の形成量が減少したためと考えられる。

(2)北太平洋回帰線水

回帰線水の断面積は、1990年頃までは約5年周期、それ以降は約10年周期の変動がみられる。1970年代後半のレジームシフトの後に拡大し、断面積の大きな状態で推移し、その後、1990年代後半に減少した。また、2000年代は、回帰線水分布域の南下傾向がみられる。断面積の変動は、黒潮続流の安定度の変動と形成域西部(黒潮続流南側となる)における淡水収支の変動が同期したことによって、起きている可能性が示唆される。

参考文献



本文 | 印刷用(PDF) | 更新履歴

印刷用(PDF)



本文 | 印刷用(PDF) | 更新履歴

更新履歴

内容更新

誤植訂正



2.1.1 北太平洋の海面水温・表層水温 <<前へ | 次へ>> 2.2.1 日本近海の海面水温


Adobe Reader

このサイトには、Adobe社Adobe Readerが必要なページがあります。
お持ちでない方は左のアイコンよりダウンロードをお願いいたします。

このページのトップへ