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1.4.3 海洋の二酸化炭素蓄積量

第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化
1.4.3 海洋の二酸化炭素蓄積量の要約はこちら
平成25年12月20日

診断概要

診断内容

 地球温暖化の進行により、海洋の二酸化炭素吸収能力が変化することが予測される。大気中の二酸化炭素濃度を左右する海洋の二酸化炭素吸収能力を監視するためには、二酸化炭素の交換量だけではなく、海洋に蓄積された二酸化炭素量を把握することも重要である。そこで、気象庁の東経137度線と東経165度線に沿った観測定線において取得したデータを用いて、2012年と1990年代の海洋中に蓄積された二酸化炭素量の差を見積もることにより、人間活動により排出された二酸化炭素の影響で変化した海洋中の二酸化炭素量について診断する。

診断結果

 東経137度の北緯10度から30度の海域では1994年と2012年の18年間の差が約120トン炭素/km2(面積1平方キロメートルの海域あたりに蓄積した炭素の重量に換算)、東経165度の北緯10度から32度の海域では1992年と2012年の20年間の差が約120トン炭素/km2だった。それぞれ1年あたりに換算すると東経137度では約7トン炭素/km2、東経165度では約6トン炭素/km2であった。東経137度及び東経165度の観測線ともに、海洋中の二酸化炭素蓄積量は増加しており、その増加速度は1990年代の全海洋の吸収速度の平均(1年あたり約6トン炭素/km2)とほぼ同程度であった。 

1 海洋の二酸化炭素蓄積量の知識

(1)海洋内部への二酸化炭素の蓄積

産業革命(1750年頃)以降、大気中の二酸化炭素濃度は年々増加している。大気と海洋が接している海面では、大気と海洋の間で二酸化炭素の交換が行われており、大気中の二酸化炭素の増加に伴って、海水に溶け込む量が増えるため海洋表面の二酸化炭素濃度も年々増加している(1.4.1参照)。海洋中に吸収された二酸化炭素は、海洋の循環や生物活動により深層に運ばれ蓄積されていく。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書(IPCC, 2007)によれば、現在、海洋は大気中に存在する量の約50倍もの炭素を蓄えている。また、大気中に排出された二酸化炭素の約1/4を海洋が吸収しており(1.4.1参照、IPCC, 2007、Canadell et al., 2007)、海洋は二酸化炭素の重要な吸収源となっている。
しかしながら、地球温暖化の進行等により海面水温が上昇すると、海洋が二酸化炭素を吸収しにくくなると考えられており、既に近年、二酸化炭素の排出量に対する海洋の吸収量の割合が少なくなった可能性が指摘されている(1.4.1参照、IPCC, 2007)。更にKhatiwala et al. (2009) は、最近の数十年では二酸化炭素濃度の増加の割合に比べて海洋内部の増加の割合が小さくなっていると報告している。それに対して、近年大気中の二酸化炭素濃度の増加速度が速くなっていることが報告されている(Canadell et al., 2007)。世界気象機関(WMO)温室効果ガス世界資料センター(WDCGG)の解析では、大気中の二酸化炭素濃度の増加速度は、1990年代における1年あたり約1.5 ppmと比較して2000年代では1年あたり約2.0 ppmと見積もっている(WDCGG, 2012)。
大気中の二酸化炭素濃度を左右する海洋の二酸化炭素吸収能力を監視するためには、二酸化炭素の交換量だけではなく、海洋に蓄積された二酸化炭素量を把握することも重要となる。

(2)海洋中の二酸化炭素蓄積量

海洋内部に存在する二酸化炭素量のうち、産業革命以降における大気中の二酸化炭素量の増加の影響による海洋内部の二酸化炭素の増加量を人為起源の二酸化炭素量として間接的に見積もる方法が提案されている。Sabine et al. (2004) は、1990年代に実施された世界海洋循環実験計画(WOCE)測線における観測データをもとに、1994年までに全海洋に蓄えられた人為起源の炭素量を1180±190億トン炭素であると見積もった。Waugh et al. (2006) は、1994年までに縁辺海を除いた海洋に蓄えられた人為起源の炭素量を940~1210億トン炭素であると報告している。また、Khatiwala et al. (2009) は、海洋内部の人為起源の二酸化炭素量を長期間にわたり見積もった結果、1994年では1140±220億トン炭素、2008年には1400±250億トン炭素であったと報告している。

(3)洋中の二酸化炭素蓄積量の分布

Sabine et al. (2004) で見積もられた、海洋中の人為起源炭素量の分布を図1.4.3-1及び図1.4.3-2に示す。海洋での分布は一様ではなく、北大西洋や南半球の中緯度域を中心とした海域で二酸化炭素蓄積量が多い。大洋別にみると太平洋で約440億トン炭素、大西洋では約400億トン炭素、インド洋では約220億トン炭素の人為起源の二酸化炭素を蓄積していると見積もられている。
太平洋は大西洋に比べて単位面積あたりの蓄積量としては少ないものの、面積が広いため総量としては大西洋とほぼ同量であり、海洋全体の約40%を蓄積している。北太平洋の分布の特徴として、東側より西側で多く、また赤道付近より高緯度側で多くなっている。大洋別の平均断面をみると、数百mからおおむね1,000mの深さで人為的な二酸化炭素量が増加しており、特に海面から深さ400m程度までに増加した量の約50%が存在している。北大西洋では深さ3,000m付近まで人為的な二酸化炭素量の増加がみられるが、これは大西洋の高緯度域では海洋表層の沈み込み(冬季の混合や深層水の形成等)により、表層で二酸化炭素を吸収した海水が海洋の深層まで運ばれることによる。

図1.4.3-1 海洋中の人為起源炭素量(IPCC, 2007)

図1.4.3-1 海洋中の人為起源炭素量(IPCC, 2007)

産業革命以降1994年まで間に蓄積した人為起源炭素の鉛直積算量(mol/m2)。 およそ12倍するとトン炭素/km2となる。海洋全体では1180±190億トン炭素を蓄積していると推定される。

図1.4.3-2 海洋ごとの人為起源炭素の平均濃度(IPCC, 2007)

図1.4.3-2 海洋ごとの人為起源炭素の平均濃度(IPCC, 2007)

1994年における緯度方向に平均した人為起源の炭素量の断面図(μmol/kg)。縦軸は深さ(m)、横軸は緯度。
(a) 太平洋とインド洋の平均、(b) 大西洋の平均

(4)太平洋の二酸化炭素蓄積量の最近の特徴

最近の二酸化炭素蓄積量の動向を詳細に把握するため、各国の研究機関等によるWOCE測線の再観測の結果から蓄積量の見積もりが行われている。太平洋においては、1990年代から2000年代にかけて北太平洋では1年あたり3~6トン炭素/km2、南太平洋では1年あたり5~12トン炭素/km2の二酸化炭素が蓄積していることが報告されている(表1.4.3-1)。1990年代の海洋全体の二酸化炭素の吸収量は1年あたり22億トン炭素と見積もられており(IPCC, 2007)、1平方キロメートルあたりに換算すると1年あたり約6トン炭素/km2である。北太平洋では、1990年代の全海洋の吸収速度の平均とほぼ同程度の速度で二酸化炭素を蓄積していると考えられる。

表 1.4.3-1 南北太平洋の二酸化炭素蓄積速度

表 1.4.3-1 南北太平洋の二酸化炭素蓄積速度

2 海洋の二酸化炭素蓄積量の監視

(1)診断に用いるデータ

図1.4.3-3 診断を行った観測線

図1.4.3-3 診断を行った観測線

海洋中に溶けている二酸化炭素量は大気との二酸化炭素のやり取りのほかに、海流などの海洋の循環や生物活動など自然変動の影響を受けて変動する。「海洋中の二酸化炭素蓄積量」の診断では、人間活動により排出された二酸化炭素の影響で変化した海洋中の二酸化炭素量を診断するため、Sabine et al. (2008) の手法を用いて、海洋の循環や生物活動による自然変動の影響を除いた2012年における1990年代からの二酸化炭素蓄積量の差を見積もった。
解析は、気象庁が北西太平洋域において長年継続して行っている観測定線(図1.4.3-3)のうち、137゚Eは10~30゚Nの範囲で1994年夏季と2012年夏季を対象に、165゚Eは10~32゚Nの範囲で1992年夏季と2012年夏季を対象に行った。
解析に使用したデータについて表 1.4.3-2に示す。1992年の165゚Eは米国海洋大気庁・太平洋海洋環境研究所(NOAA/PMEL)によって取得されたデータを使用した。1994年の137゚Eは気象庁の凌風丸によって、2012年の137゚E及び165゚Eは気象庁の啓風丸によって取得したデータを使用した。取得したデータのうち、解析には海洋中のポテンシャル水温・塩分・ポテンシャル密度・ケイ酸塩・リン酸塩・全炭酸・溶存酸素の値を使用した。

表 1.4.3-2 解析範囲、観測時期、観測した機関及び船名

表 1.4.3-2 解析範囲、観測時期、観測した機関及び船名

(2)北西太平洋の二酸化炭素蓄積量

137゚E 及び165゚Eの南北方向に沿った断面(図1.4.3-4)をみると、両測線ともに海面に近いほど差が大きく、海面から深さ数百m程度までの海洋表層に含まれる二酸化炭素量に増加がみられる。また、北側ほど深くまで二酸化炭素量が増加している。これは冬季の沈み込みの影響及び亜熱帯循環の構造を反映したものと考えられる。このため単位面積あたりの蓄積速度も北側ほど多くなっている(図1.4.3-5)。それぞれの海域における1年あたりの蓄積速度は、137゚Eで約7トン炭素/km2、165゚Eで約6トン炭素/km2であった。

図1.4.3-4 1990年代と2012年の二酸化炭素量の差の南北断面(mol/kg)

図1.4.3-4 1990年代と2012年の二酸化炭素量の差の南北断面(mol/kg)

縦軸は深さ(m)、横軸は緯度。
a) 東経137度線、b) 東経165度線

図1.4.3-5 緯度帯ごとの二酸化炭素蓄積速度(トン炭素/km2/yr)

図1.4.3-5 緯度帯ごとの二酸化炭素蓄積速度(トン炭素/km2/yr)

各緯度帯ごとの二酸化炭素蓄積速度。左から解析範囲全体、10゚Nから15゚N、15゚Nから20゚N、20゚Nから25゚N、25゚N以北。
a) 東経137度線、b) 東経165度線

3 診断

北西太平洋亜熱帯域において1990年代と2012年の観測データを比較して海洋中に新たに蓄積した二酸化炭素量を見積もった。137゚Eの10゚Nから30゚Nの海域では1994年と2012年の18年間の差が約120トン炭素/km2(面積1平方キロメートルの海域あたりに蓄積した炭素の重量に換算)、165゚Eの10゚Nから32゚Nの海域では1992年と2012年の20年間の差が約120トン炭素/km2だった。それぞれ1年あたりに換算すると、137゚Eでは約7トン炭素/km2、165゚Eでは約6トン炭素/km2であった(図1.4.3-5)。137゚E及び165゚Eの観測線ともに、海洋中の二酸化炭素蓄積量は増加しており、1990年代の全海洋の吸収速度の平均(1年あたり約6トン炭素/km2)とほぼ同程度の増加速度であった。また、この海域では冬季の冷却による鉛直混合及び亜熱帯循環の構造を反映し、南側よりも北側のほうが1年あたりの二酸化炭素蓄積量が多かった。

参考文献

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