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1.4.1 海洋の二酸化炭素濃度の長期変化

第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化
1.4.1 海洋の二酸化炭素濃度の長期変化の要約はこちら
平成25年12月20日

診断概要

診断内容

 二酸化炭素は、温室効果ガスのなかでも大量に存在するため、地球温暖化への影響が最も大きいと考えられている。地球の表面積の7割を占める海洋は、人間活動により大気中に放出された二酸化炭素を吸収する役割を担っている。ここでは、北西太平洋における表面海水中の二酸化炭素濃度の観測データを解析し、海洋の二酸化炭素濃度の長期変化について診断する。

診断結果

 北西太平洋(東経137度線上の北緯7~33度平均)における冬季の二酸化炭素濃度は、1984年以降表面海水中では約1.6ppm/年、大気中では約1.8ppm/年の割合で増加している。
 この海域における二酸化炭素濃度は、全般に表面海水中よりも大気中の方が高く、全ての海域で表面海水が大気中の二酸化炭素を吸収していることを表している。表面海水中の二酸化炭素濃度は、増減を繰り返しながら徐々に増加する傾向にある。
 海洋の二酸化炭素濃度は、水温の変化や海水の鉛直混合などの比較的短い期間の変化に影響されやすく、時間的・空間的に変動が大きいため、これからもその変化の様子を長期にわたって引き続き注意深く監視する必要がある。

1 海洋の二酸化炭素濃度の長期変化の基礎知識

(1)海洋の二酸化炭素

図1.4.1-1 表面海水中及び大気中の二酸化炭素濃度の測定

図1.4.1-1 表面海水中及び大気中の二酸化炭素濃度の測定

表面海水は観測船の船底から、大気は船首からポンプで測定装置へと導入している(上図)。表面海水中の二酸化炭素濃度は、表面海水をシャワー式平衡器内へ導入し、大量の海水と接触し平衡に達した後の空気中の二酸化炭素濃度として求める(下図)。

表面海水中の二酸化炭素濃度が大気中よりも低いと二酸化炭素が大気から海洋に吸収され、高いと海洋から大気に放出される。大気中の二酸化炭素濃度は人間活動により排出された二酸化炭素の影響により長期的に増加している。大気中の二酸化炭素濃度の増加に対し、表面海水中の二酸化炭素濃度がどのように応答して変化しているのか監視することが、将来の大気中の二酸化炭素濃度を予測するために重要である。このため、表面海水中の二酸化炭素濃度の観測が、気象庁を含め国内外の機関で実施されている。
表1.4.1-1に、表面海水中の二酸化炭素濃度の長期変化傾向に関する最近の研究成果をまとめたものを示す。表面海水中の二酸化炭素濃度は、エルニーニョ・南方振動(El Niño-Southern Oscillation:ENSO)や太平洋十年規模振動(Pacific Decadal Oscillation:PDO)、北大西洋振動(North Atlantic Oscillation:NAO)といった数年から十年の規模の海洋や大気の変動の影響を受けている。そのため、海域や期間によってその変化傾向が異なるが、1970年から2007年の期間で全海洋を平均すると年当たりおよそ1.7 ppmの割合で増加している(Takahashi et al., 2009)。一方、気象庁が運用する世界気象機関(WMO)温室効果ガス世界資料センター(WDCGG)の解析によると、大気中の二酸化炭素濃度は、1983年から2008年の期間で平均して、全ての緯度帯で年当たり1.6~1.7 ppmの割合で増加しており、今までのところ大気とほぼ同様の速度で表面海水中の二酸化炭素濃度は増加していると考えられる。
大気中の二酸化炭素の増加速度が近年速くなっていることが報告されている(Canadell et al., 2007)。WDCGGの解析では、1998年~2008年の過去10年間でみると世界の平均濃度の増加量は年当たり1.93 ppmであった。その原因の一つとして、人間活動による二酸化炭素の排出量の増加が指摘されている。今後、人間活動による二酸化炭素の排出などの影響を受けて、表面海水中の二酸化炭素濃度の増加速度がどのように変化するのかが、大気中の二酸化炭素濃度の変化を左右する。気象庁は北西太平洋域で表面海水中の二酸化炭素濃度の観測を継続的に実施し、その監視を行っている。

表1.4.1-1 海洋の二酸化炭素分圧の長期的な変化傾向

表1.4.1-1 海洋の二酸化炭素分圧の長期的な変化傾向

(2)海洋の二酸化炭素の観測方法と二酸化炭素濃度の単位

表面海水中の二酸化炭素濃度の測定には、シャワー式平衡器と呼ばれる機器を用いる。海面下約4mの船底からポンプで汲み上げた大量の表面海水と少量の空気との間で二酸化炭素分子の移動が見かけ上なくなる平衡状態を作り出し、この空気中の二酸化炭素濃度を測定することによって、表面海水中の二酸化炭素濃度を求めている(図1.4.1-1)。平衡器内の海水試料と現場海水との温度差による二酸化炭素濃度の補正は、Weiss et al. (1982)を用いた。表面海水と同時に、洋上大気の二酸化炭素濃度の測定も行っている。二酸化炭素濃度の測定には非分散型赤外線分析計を用い、濃度既知の二酸化炭素標準ガスと試料ガスとの出力を比較して濃度を決定する。この二酸化炭素標準ガスは、二酸化炭素標準ガス濃度較正装置を用い、気象庁が維持・管理する標準ガスとの比較測定が行われる。気象庁の標準ガスは米国海洋大気庁地球システム調査研究所地球監視部(NOAA/GMD)が維持する世界気象機関(WMO)の標準ガスによって較正されているため、観測された二酸化炭素濃度はWMO標準ガスを用いている各国の観測機関の二酸化炭素濃度と直接比較できる。
二酸化炭素濃度は、乾燥させた空気に対する二酸化炭素の存在比であり、ppm(100万分率)で表す。なお、大気と海洋の間での二酸化炭素の放出や吸収の量を扱う場合には、飽和水蒸気圧を考慮して濃度の単位を圧力の単位に変換する。これを二酸化炭素分圧と呼び、μatm(100万分の1気圧)で表す。二酸化炭素濃度χCO2(ppm)と二酸化炭素分圧pCO2(μatm)の関係は、気圧P(atm)と飽和水蒸気圧e(atm)を用いて次式で表される。
pCO2 (μatm) = ( P-e ) ×χCO2 (ppm)

図1.4.1-2 冬季の東経137度線の北緯7~33度(右図の赤線)で平均した二酸化炭素濃度の経年変化(1984~2013年)

図1.4.1-2 冬季の東経137度線の北緯7~33度(右図の赤線)で平均した二酸化炭素濃度の経年変化(1984~2013年)

細い直線は、表面海水中及び大気中の二酸化炭素濃度の回帰直線である。また、括弧内の数値は、回帰直線の傾きと95%信頼区間を示す。2010年冬季の二酸化炭素濃度は、観測装置の不具合によってデータが取得できなかった。

2 海洋の二酸化炭素濃度の監視

(1)診断に用いるデータ

気象庁では、大気中及び表面海水中の二酸化炭素濃度を正確に把握し、大気中の二酸化炭素濃度に及ぼす海洋の役割を定量的に明らかにするために、北西太平洋における二酸化炭素の観測を1981年に気象研究所の研究観測として開始した。1989年から気象庁海洋気象部(当時)所属の凌風丸による定期観測を開始し、2000年10月から神戸海洋気象台(現 神戸地方気象台)所属の啓風丸も加えて観測体制を強化した。
観測データは、大気・海洋環境観測報告及び大気・海洋環境観測年報(気象庁)として、年1回DVD-ROMで発行している。また、気象庁 や温室効果ガス世界資料センター の各ホームページからも入手可能である。
北西太平洋における二酸化炭素濃度の長期変化傾向の把握には、長期間にわたりほぼ同時期に観測を継続していることから、毎年冬季に東経137度に沿って観測したデータを用いる。大気中と表面海水中の二酸化炭素濃度それぞれについて、赤道付近と日本沿岸を除いた北緯7~33度の範囲で平均したのち、1984年からの増加率とその95%信頼区間を求める。

(2)北西太平洋における海洋の二酸化炭素濃度の長期的な増加傾向

1984~2013年の冬季の北西太平洋(東経137度の北緯7~33度)における表面海水中及び大気中の二酸化炭素濃度の長期変化傾向を図1.4.1-2に示す。表面海水中及び大気中の二酸化炭素濃度はいずれも増加しており、それらの年平均増加率は、それぞれ1.6±0.2及び1.8±0.1ppm/年であった。表面海水中の二酸化炭素濃度が長期的に増加している原因は、人為的に大気中へ放出された二酸化炭素を海洋が吸収したためと推定される。
表面海水中の二酸化炭素分圧(すなわち濃度を圧力の単位に換算したもの)は、海水温、塩分、海水に溶解している無機炭酸の総量(全炭酸)及び全アルカリ度の4つの要素と関係づけられる(Dickson and Goyet, 1994)。表面海水中の二酸化炭素分圧の長期変化の要因をより詳細に把握するには、これら4つの要素による寄与を海域ごとに見積もり、長期変動傾向を把握する必要がある。緑川・北村(2010)によれば、この海域における全アルカリ度、海水温及び塩分には有意な長期変化傾向はみられなかった。一方表面海水中二酸化炭素分圧及び全炭酸には明瞭な増加傾向がみられ、大気から海洋に吸収された人為起源の二酸化炭素が全炭酸として蓄積されていることが示された。
またMidorikawa et al. (2012)によれば、1984~2009年冬季の表面海水中二酸化炭素分圧の長期変化傾向について、解析期間前半の1984~1997年より後半の1999~2009年の平均年増加率が有意に低いことが示された。一方洋上大気中の二酸化炭素分圧は一定の増加傾向が継続していた。このことは近年表面海水中の二酸化炭素分圧の増加傾向が緩やかになってきていることを示している。この主な原因は、表面の海水温が上昇したことで、大気中の二酸化炭素が海洋へ溶け込む量が減少したこと、及び全炭酸濃度の高い深層水の影響が少なくなったことが考えられる。このような現象を引き起こすメカニズムはまだ正確には解明されていないが、気候変動に伴って海洋表面の海況が変化したことが考えられる。

(3)北西太平洋における海洋の二酸化炭素分圧の年々変動とその要因 

表面海水中の二酸化炭素分圧は大気中の二酸化炭素分圧と比較してより大きな年々変動を示す(図1.4.1-2)。またこの年々変動の大きさは緯度帯によって異なり、特に低緯度で変動幅が大きい。低緯度海域における年々変動は、エルニーニョ・南方振動(ENSO)による海況の変動が影響していると考えられ(Midorikawa et al., 2006)、エルニーニョ現象が発生した年(1983、1992、1998、及び2003年)に表面海水中の二酸化炭素分圧が高くなることが示された。特に北緯6度以南では全炭酸の変動と南方振動指数(SOI)との間に有意な相関がみられ、ENSOイベントと連動して海水温と全炭酸が変動する。これは、エルニーニョ現象発生時には海面を覆う暖水塊が薄くなることで、低温で全炭酸濃度の高い深層水の影響を受けやすくなり、一方ラニーニャ現象発生時には海面を覆う暖水塊が厚くなることで、暖水塊内で躍層が発達する過程において窒素固定菌の活動が活発化し、全炭酸濃度を減少させるメカニズムが働くことが分かってきた(Ishii et al., 2004)。
一方北緯20度以北の海域では、表面海水中の二酸化炭素分圧の変動に対する、全炭酸の変動の寄与と海水温の変動の寄与が高い逆相関を示し、その結果この海域における表面海水中の二酸化炭素分圧の年々変動は小さいことが分かった(Midorikawa et al., 2006)。これは、冬季の鉛直混合によって低温で全炭酸濃度の高い深層水と混合することで、海水温が低下して二酸化炭素の溶解度が増加し、その結果二酸化炭素分圧が低下する効果と、全炭酸濃度が高くなることで二酸化炭素分圧が増加する効果がほぼ等しくなっているためである。

(4)他の海域における海洋の二酸化炭素分圧の長期変化

北西太平洋と同様に、太平洋赤道域の西部でも表面海水中の二酸化炭素分圧の増加率が近年減少傾向にあることが観測されている(Ishii et al., 2009)。一方、太平洋赤道域の中央部(Feely et al., 2006)、大西洋の亜寒帯域(Metzl et al., 2010)及び南大洋(Metzl et al., 2009)では、表面海水中の二酸化炭素分圧の増加率が大気中の増加率を上回る結果が得られている(表1.4-1)。原因として海水温の上昇などが指摘されているが、自然の変動による海況の変化か、地球温暖化による海洋の変化に関係するものかは不明であり、今後の推移を注意深く監視していく必要がある。

3 診断

北西太平洋(東経137度線上の北緯7~33度平均)における冬季の二酸化炭素濃度は、1984~2013年の期間、大気中の濃度と比べて約40ppm低い。したがってこの海域では、表面海水が大気中の二酸化炭素を吸収していることを表している。また表面海水中の二酸化炭素濃度はこの期間増減を繰り返しながら徐々に増加する傾向にあり、平均年増加率は1.6±0.2ppm/年である。これは大気中の二酸化炭素濃度の平均年増加率(1.8±0.1ppm/年)とほぼ一致しており、この海域が大気中の二酸化炭素を吸収する能力には変化がないと推定される。ただし海洋の二酸化炭素濃度は、水温の変化や海水の鉛直混合などの比較的短い期間の変化に影響されやすく、時間的・空間的に変動が大きいため、これからもその変化の様子を長期にわたって引き続き注意深く監視する必要がある。

参考文献

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