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1.3.1 北極・南極域の海氷

第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化
1.3.1 北極・南極域の海氷の要約はこちら
平成25年12月20日

診断概要

診断内容

 地球温暖化の影響により海氷が減少すると、海面における太陽放射の吸収が増加し、地球温暖化の進行を加速すると考えられている。また、海氷生成時に排出される高塩分水が深層循環の駆動力の一つと考えられており、海氷の変動は地球規模の海洋の循環の変化を引き起こし、気候にも影響を及ぼす。ここでは、北極・南極域の海氷について、1978年以降約34年間の長期変化傾向を診断する。

診断結果

 海氷域面積は、北極域では明らかな減少傾向にある。南極域ではわずかな増加傾向がみられる。全球では北極域の減少の影響が卓越して減少傾向になっている。気候モデルでは、地球温暖化によって北極域の海氷は一貫して減少し、南極域の海氷は一時的に増加する地域もあるものの長期的には減少するという結果が得られている。しかし、観測データに現れた変化傾向のどこまでが、地球温暖化によるものか、数十年スケールの自然変動に対応するものかは、まだ明らかではない。

1 海氷の基礎知識

(1)海氷分布の季節変化

図1.3.1-1 海氷域面積の季節変化

図1.3.1-1 海氷域面積の季節変化

海氷域面積の季節変化を平年値(1981年から2010年の平均)で示したもの。全球の値は北極域と南極域の合計値。 

海氷とは海水が凍ってできた氷である。地上の降雪からできた氷河や南極の棚氷が崩落し、海上に流れ出したものは氷山と呼び、海氷とは区別されている。
海氷は、北極域及び南極域に分布する。北極域の海氷は、北極海を中心にその周辺のベーリング海、オホーツク海、ラブラドル海などに分布する。南極域の海氷は、南極海(南極大陸のまわりを囲む南緯60度以南の海域)に分布し、ときには、その周辺の大洋に及ぶこともある。
図1.3.1-1は人工衛星の観測に基づいて解析した海氷域面積の季節変動を、北極域、南極域及び全球(両者の合計)について示したものである。図1.3.1-2は同じデータによる2月20日と9月15日の平年の海氷分布である。北極域の海氷域面積は2月末に最大となり、9月半ばに最小となる。南極域では北極域とはおおむね逆の位相となっているが、変動幅は約1500万km2であり、北極域の約800万km2に対して約2倍の大きさである。中央に南極大陸がある南極域では、北極域に比べて海氷が全般に低緯度に存在し、冬季には風によって薄い氷が更に広く低緯度にまで広がり、夏季には短期間で融解する。一方、大陸に囲まれている北極域では冬季に海氷域があまり広がることができないため海氷が堆積し、春以降の融解に時間がかかる。このような違いから、南極域では北極域よりも変動幅が大きくなっている。全球の海氷域は変動幅の大きい南極域の変動とほぼ同じ位相で変動するが、南極域で海氷域の拡大が緩やかになる7~8月に北極域で融解が急激に進むために、7月初めと11月初めに極大が現れる。年平均の海氷域面積は両極域でほぼ同じ約1200万km2である。

図1.3.1-2 北極・南極域の平年の海氷分布

図1.3.1-2 北極・南極域の平年の海氷分布

赤色は海氷域面積がほぼ最小時(北極域は9月15日、南極域は2月20日)の平年の海氷分布。白色+赤色は海氷域面積がほぼ最大時(北極域は2月20日、南極域は9月15日)の平年の海氷分布。平年値は、1981年から2010年までの平均。灰色は、陸地を示す。なお、南極大陸は棚氷を含めて灰色で示す。  

(2)地球温暖化と海氷の変化

海氷域は、海水面に比べて太陽放射の反射率が大きいという特徴がある。このため、地球温暖化によって海氷域が縮小すると、地球全体としての太陽放射の吸収率が上がって温暖化が加速され、また、海洋から大気への熱輸送の遮断が少なくなる。その結果、海氷域の縮小も加速するという正のフィードバックが起こると考えられている。
また、海氷の変化は地球規模の海洋の循環の変化を引き起こし、そのことが気候に影響を与える可能性がある。これは、海水が凍結するときに生成される低温で高塩分の重い海水が深海に向かって沈み込むことが、深層循環の形成の要因の一つとなっているからである。
近年は、春季から夏季にかけて海氷が急激に減少することが多く、多年氷が減少したことにより北極域の海氷が全般に薄くなり、海氷が以前より融解し易くなっている可能性が指摘されている。
なお、海氷は海水が凍ったものであるから、海氷の融解が海面水位の上昇に直接つながるものではない。

2 北極・南極域の海氷の監視

(1)診断に用いるデータ

気象庁では、地球規模の気候変動を監視するために、人工衛星の観測データを用いて北極・南極域の海氷域を毎日解析している。解析に利用している観測データは、米国航空宇宙局(NASA)から提供されているNIMBUS衛星7号の多重チャネルマイクロ波走査放射計(SMMR;1978年10月~1987年7月)及びアメリカ雪氷データセンター(NSIDC : National Snow and Ice Data Center)から提供されているDMSP衛星のマイクロ波撮像装置(SSM/I;1987年7月~2009年4月、SSMIS;2009年4月~2012年12月)によるものである。これらのデータは、同一の特性をもったセンサーによって継続的に長期にわたって得られたもので、北極・南極域の海氷解析の標準データとなっている。
次項では、NASA Teamアルゴリズム(Cavalieri et al., 1984; Comiso et al., 1986; Gloersen et al., 1986, 1992; 長ほか, 1996)を用いて解析した海氷域データに基づいて、北極・南極域の海氷の長期変化傾向について述べる。なお、使用した資料は2012年12月までのもので、平年値は1981年から2010年までの平均値である。

(2)北極・南極域の海氷の長期変化傾向

図1.3.1-3は、北極域、南極域の海氷域面積の経年変動を、年平均値、年最大値、及び年最小値を示したものである。
北極域の海氷域面積は、1979年以降長期的に減少傾向がみられるが、減少速度は一様ではない。1990年代は比較的緩やかに減少しているが、近年は減少率が大きくなる傾向にある。年最小海氷域面積は2012年に、年最大海氷域面積は2006年に、それぞれ過去最小を記録している。海氷域面積の過去最小値はすべて2004年以降に記録されていることから、北極域では年間を通して海氷域の減少が2004年以降顕著であることがわかる。また、年最小海氷域面積の縮小する割合と年最大海氷域面積の縮小する割合を比較すると、前者の方が大きくなっている。これは、夏季に海氷域面積が減少しても、冬季にはある程度減少幅を回復していたことを表しているが、2004年以降は冬季の海氷も大きく減少しており、夏季に多年氷が融解して減少する分を冬季の海氷の生成で補いきれなくなっていることが指摘されている(NSIDC Press Room; 18 March 2005)。そのため、近年は北極域の全海氷のうち多年氷の占める割合が急速に減少し、逆に薄く融けやすい一年氷の割合が増えており、これが原因で春から夏にかけて広範囲で急速に海氷の融解が進んで多年氷が更に失われ、翌年夏季の海氷の減少を助長していることが指摘されている(NSIDC Press Room; 4 October 2011)。なお、北極海の氷厚の長期的な減少については、潜水艦による観測結果からも明らかにされている(Rothrock et al., 1999, Yu et al., 2004)。
南極域の海氷域面積は、1979年以降長期的に増加傾向であるが、その要因については未解明な部分が多く、現在も研究が進められている。 全球(北極域と南極域の合計)の海氷域面積は、北極域の減少傾向が卓越しているため、南極域と合わせた全体では減少傾向である。

図1.3.1-3 北極域及び南極域の海氷域面積の年最大値、年平均値及び年最小値の経年変化(1979~2012年)

図1.3.1-3 北極域及び南極域の海氷域面積の年最大値、年平均値及び年最小値の経年変化(1979~2012年)

破線は変化傾向を示す。 

3 診断

北極域の海氷域面積には明らかな減少傾向がみられ、特に最小海氷域面積の減少が顕著である。一方、南極域の海氷域面積には1990年代初頭からわずかな増加傾向がみられる。全球の海氷域面積は、北極域の減少の影響が卓越して減少傾向になっている。IPCC第4次評価報告書(2007)では、海氷域面積のこれらの変化傾向には、大気循環の変動と関連する数年から10年スケールの変動もかなり含まれると述べられている。
海氷域の変動は気温・水温・降水量・大気の流れなどの影響を受けるため、気温の上昇が海氷域の減少に単純に結びつくものではないが、地球温暖化予測情報第7巻(気象庁,2008)の気候モデルによる数値シミュレーション結果では、北極域の海氷密接度の減少の大きな地域は気温の上昇の大きな地域に対応しており、両者が相互に関係していることを示唆している。

参考文献

  • Cavalieri, D. J. and P. Gloersen, 1984: Determination of Sea Ice Parameters With the NIMBUS 7 SMMR, J. Geophys. Res., 89, 5355-5369.
  • 長 幸平,佐々木信夫,下田陽久,坂田俊文,西尾文彦,1996:オホーツク海におけるSSM/Iデータを用いた海氷密接度推定アルゴリズムの評価と改良,日本リモートセンシング学会誌,16,47-58.
  • Comiso, J. C., D.J. Cavalieri, C. Parkinson and P. Gloersen, 1986: Passive Microwave Algorithms for Sea Ice Concentration: A Comparison of Two Techniques, Remote Sens. Environ., 60, 357-384. Gloersen, P. and D. J. Cavalieri, 1986: Reduction of Weather Effects in the Calculation of Ice Concentration From Microwave Radiances, J. Geophys. Res., 91, 3913-3919.
  • Gloersen, P., W. J. Campbell, D. J. Cavalieri, J. C. Comiso, C. L. Parkinson and H. J. Zwally, 1992: Arctic and Antarctic sea ice, 1978 - 1987: Satellite Passive Microwave Observations. NASA SP-511.
  • IPCC, 2007: Climate Change 2007: Working Group I: The Physical Science Basis.
  • 気象庁, 2008: 地球温暖化予測情報,第7巻
  • NSIDC News, 18 March 2005, Arctic Ice Decline in Summer and Winter
  • NSIDC News, 4 October 2011, Arctic sea ice continues decline, reaches second-lowest level
  • Rothrock, D. A., Y. Yu, G. A. Maykut, 1999: Thinning of the Arctic sea-ice cover, Geophys. Res. Lett., 26(23), 3469-3472.
  • Yu, Y., Maykut, G. A., and Rothrock, D. A., 2004: Changes in the thickness distribution of Arctic sea ice between 1958-1970 and 1993-1997, J. Geophys. Res. 109(C08004).


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