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1.2 海面水位

第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化
1.2 海面水位の要約はこちら
平成25年12月20日

診断概要

診断内容

 IPCC第4次評価報告書(2007)によれば、世界平均の海面水位は、20世紀を通じて1年あたり1.7±0.5㎜(信頼度90%の範囲を±を付記した数値で示している)の割合で上昇した。このうち、1961年から2003年にかけては1年あたり1.8±0.5mmの割合で上昇しており、その原因は地球温暖化による海水の熱膨張及び山岳氷河や南極・グリーンランドの氷床の融解であると考えられている。ここでは、世界平均の海面水位と同様に日本沿岸の海面水位について、2012年までの約100年の長期変化傾向を診断する。

診断結果

 ここ約100年間の日本沿岸の海面水位は、世界平均の海面水位にみられるような明瞭な上昇傾向はみられない。1950年頃に極大がみられ、1990年代までは約20年周期の変動が顕著である。また1990年代以降は上昇傾向と共に約10年周期の変動が確認できる。
 約20年周期の変動については、主に北太平洋の偏西風の強弱や南北移動を原因としていることが数値モデルを用いた解析により明らかになった。また、海面水位の変化と表層水温の変化にはよい対応がみられ、特に東シナ海でよく一致している。

1 海面水位上昇の基礎知識

海面の高さをある基準面から測った値を「潮位」と呼ぶ。潮位はおおむね1日に2回の満干潮や1か月に2回の大潮・小潮等、様々な時間スケールで変動するため、長期変化傾向を知るためには、季節変動より短い時間スケールの潮位変動を除去する必要がある。ここでは、季節以上の時間スケールの変動を対象として考える場合の海面の高さとして年平均潮位を使用し、それを「海面水位」と呼ぶことにする。(求め方の詳細は、本項「2 日本沿岸の海面水位の監視」参照)

(1)海面水位上昇の社会への影響

地球温暖化は海面水位の上昇を引き起こす。海面水位が上昇する原因は、主に水温の上昇に伴う海水の膨張や、山岳氷河・南極・グリーンランドの氷床の融解に伴う海水の増加と考えられている。
海面水位の上昇によって、海岸侵食、高潮・高波・異常潮位などの沿岸災害の激化、沿岸湿地喪失などによる沿岸生態系・淡水生態系への影響などが予想される。海面水位上昇は、特に、海抜の低い珊瑚礁の島々からなる国などにとっては深刻な脅威となる。
環境省の地球環境研究総合推進費戦略的研究プロジェクト「温暖化影響総合予測プロジェクト」(2008)は、海面水位上昇の我が国への影響として下記に挙げる社会基盤施設と社会経済への影響を指摘している。

  • 温暖化による海面の上昇と高潮の増大で、高潮による浸水面積と浸水人口が増加する。それらの面積と人口は温暖化の進行に伴い徐々に増加する。
  • 西日本では、温暖化により高潮で浸水する面積や人口は、瀬戸内海などの閉鎖性海域や入り江などで大きい。
  • 温暖化が進んだとき、三大湾(東京湾、伊勢湾、大阪湾)奥部では、古くに開発された埋立地とその周辺で高潮による浸水の危険性が高い。
  • 温暖化による海面上昇によって河川汽水域が拡大し、堤防の強度が低下する。
  • 砂浜の経済価値は1m2あたり約12,000 円。30cm の海面上昇によって失われる砂浜の価値は1兆3千億円に達する。
  • 干潟の経済価値は1m2あたり約10,000 円。海面上昇によって全国の干潟に影響が及ぶとするとその経済的損害は最大約5兆円に達する。
  • 海面上昇と異常降雨が地下水位を上昇させ、地震時の液状化による地盤災害を受ける地域の面積を大きくする。

※汽水域:海水と淡水とが混じり合った低塩分の水域

(2)世界平均海面水位の長期変化

IPCC第4次評価報告書(2007)では、過去及び将来の海面水位変化について下記のとおり結論づけている(図1.2-1

  • 世界平均の海面水位は1961年から2003年にかけて年あたり1.8±0.5mmの割合で上昇した。
  • 1993年から2003年にかけての上昇率は更に大きく、年あたり3.1±0.7mmの割合であった。
  • 1993年から2003年にかけての海面水位上昇率の増加が10年規模の変動なのか、より長期的な上昇傾向の加速なのかは不明である。
  • 観測された海面水位上昇率が19世紀から20世紀にかけて増加したことの確信度は高い。
  • 20世紀を通じた海面水位の上昇量は0.17±0.05mと見積もられる。
  • 世界平均の海面水位は21世紀末(2090~2099年)には、1980~1999年の平均海面水位に対して0.18~0.59m上昇すると予測される。

図1.2-1 世界平均の海面水位の過去及び将来予測における時系列(1980-1999年平均を基準とする)

図1.2-1 世界平均の海面水位の過去及び将来予測における時系列(1980-1999年平均を基準とする)

IPCC(2007)より引用。
灰色の陰影:海面水位の長期的な推定上昇率の不確実性を示す。
赤色 :赤線は潮位計による世界平均の海面水位を再構成したもので、赤い陰影は変動範囲を示す。
緑色 :人工衛星の高度計によって観測された世界平均の海面水位を示す。
青色の陰影:SRES A1Bシナリオ(注)に対する21世紀の予測範囲を示す。
注)SRESは、IPCC「排出シナリオに関する特別報告書」(2000)を指す。今後の世界の社会・経済動向に関する想定から算出した温室効果ガス排出量の将来変化シナリオを規定したもので、A1Bシナリオは「すべてのエネルギー源のバランスを重視して高い経済成長を実現する社会」とされている。

(3)世界平均の海面水位の近年の変化

人工衛星に搭載された高度計による観測が行われるようになり、世界平均の海面水位は現場だけの観測データを用いていたときに比べ正確に見積もることができるようになった。気象庁で1993年から2010年までの衛星海面高度計による測定データを解析した結果、世界(北緯66度から南緯66度)の平均海面水位の上昇率は2.95±0.12mm/年となった(図1.2-2)。また、海面水位の変化率は海域によって異なり、西太平洋では低緯度を中心に大きく上昇しており、東太平洋では逆にほとんど上昇していない海域がみられる。大西洋では、湾流の周辺を除き、全般に海面水位が上昇している。

図1.2-2 人工衛星搭載の高度計から求めた世界平均海面水位偏差(北緯66度-南緯66度)の推移(上),人工衛星搭載の高度計から求めた1993~2010年の海面水位変化率(mm/年)(下)

図1.2-2 人工衛星搭載の高度計から求めた世界平均海面水位偏差(北緯66度-南緯66度)の推移(上)
人工衛星搭載の高度計から求めた1993~2010年の海面水位変化率(mm/年)(下)

上のグラフの赤線は半旬平均値、青線は年平均値を示す。1996年~2002年の半ばまではTOPEX/Poseidon、2002年半ば~2009年半ばまではJason1、2009年半ば以降はJason2搭載の高度計による観測データを基に解析している。1996年~2006年の平均値を0としている。

(4)日本沿岸の海面水位の長期変化

岩崎ほか(2002)は、日本沿岸の海面水位の長期変化傾向を検出するために、まず、国土地理院の水準測量データから、各検潮所の基準面がどの程度地盤変動の影響を受けていたのか見積もった。この結果を使って、地盤変動の影響を除去した30年間(1969~1998年)の各検潮所における年平均海面水位(各年の日本水準原点に相対的な値)を求め、東経137度を境に西日本では年あたり2.4mmで上昇、東日本では年あたり3.1mmで下降していることを示した。また、Senjyu et al.(1999)は、日本沿岸の海面水位変動の特性を調べ、日本の沿岸全体に20年程度の周期をもつ変動があることを見出した。

(5)海面水位変化の要因

図1.2-3 要因別の海面水位上昇率

図1.2-3 要因別の海面水位上昇率

上段の4項目:世界平均の海面水位の変化に影響を与える要因の評価
中段の2項目:その合計と観測から得られた海面水位上昇率
下段:観測から得られた海面水位上昇率と要因の評価の合計との差
青い棒は1961年から2003年の上昇率を示し、茶色の棒は1993年から2003年の上昇率を示している。それぞれ棒の長さは解析の誤差を評価している。IPCC(2007)より引用。


図1.2-3-2 世界平均(北緯66度から南緯66度)の海面水位偏差と熱膨張成分

図1.2-3-2 世界平均(北緯66度から南緯66度)の海面水位偏差と熱膨張成分

北緯66度から南緯66度までの海面水位を1993年の値からの変化量として表す。紫は衛星による観測値、オレンジは海面から深さ700mまでの水温から推定した熱膨張による変動成分。

IPCC第4次評価報告書では海面水位上昇に大きな影響を与える要因として

  • 海水の熱膨張
  • 氷河・氷帽の融解
  • グリーンランド氷床の融解
  • 南極氷床の融解
の4つを挙げ、それぞれの要因別に海面水位上昇率を評価している(図1.2-3)。

1961年から2003年の期間では海水の熱膨張と氷河・氷帽の融解が同じ程度海面水位上昇に寄与していると見積もられたが、4種類の要因の合計は観測によって得られた海面水位上昇より小さく、海面水位上昇の原因となっている様々な要因を十分に評価できていない。
1993年から2003年の期間ではいずれの要因も1961年から2003年の期間よりも海面水位上昇への寄与が大きくなり、特に海水の熱膨張の寄与が顕著に大きくなる。4種類の要因の合計は観測によって得られた海面水位上昇に近い値を示している。
これら4つの要因のうち海水の熱膨張による寄与を、気象庁が作成している海面から深さ700mまでの表層水温データ(「1.1.1世界の海面水温・表層水温」参照)を使って評価した。図1.2-3-2に、人工衛星に搭載された海面高度計のデータによる世界全体(北緯66度から南緯66度)の平均海面水位の1993年からの変化量(図1.2-2に同じ)と、海面から深さ700mまでの海水の熱膨張の寄与を示す。「(3)世界平均の海面水位の近年の変化」に示したとおり、海面高度計によって観測された世界の平均海面水位は、1993年から2010年の間に、2.95±0.12mm/年の割合で上昇している。同じ期間に、表層水温の上昇に伴う熱膨張によって0.88±0.19mm海面水位が上昇したと推定され、1993年から2010年の世界の平均海面水位の上昇量のおよそ3分の1が表層水温の上昇によるものだと考えられる。また、海面高度計によって観測された世界の平均海面水位は1993年以降上昇し続けているのに対し、表層水温の上昇による熱膨張の寄与は2003年以降上昇傾向がおさまっている。このため、2003年以降は深さ700mよりも深いところの海水の上昇や、陸氷の融解による寄与が大きくなっていると考えられる。ただし、1950年以降、表層水温は大きく上昇する期間と、あまり上昇しない期間を繰り返してきたため(「1.1.1世界の海面水温・表層水温」参照)、今後もこの傾向が続くか否か注意深く監視していく必要がある。
図1.2-3-3に海面から深さ700mまでの海水の熱膨張による海面水位の変化率を示す。1993年から2010年までの熱膨張による海面水位変化率(図1.2-3-3a)は人工衛星による観測(図1.2-2)とおおむね同じ分布をしており、両者が関連していることが示唆される。ただし、海域によって海洋の循環の変動など熱膨張以外の影響が示されている。この期間の海面水位上昇率はフィリピンの東で特に大きくなっており、その原因について、Qiu and Chen(2012)は、海上風が変化したことで、亜熱帯循環の位置や流量が変化したことを挙げている。1950年から2012年までの熱膨張による海面水位変化率(図1.2-3-3b)は北太平洋中央部を除くほぼ全世界で上昇傾向にあり、特に北大西洋で顕著である。これは、1993年から2010年までの変化率の分布と異なった様相を示している。すなわち、海面水位の変動には地球温暖化に伴う長期変動に、十年規模変動などの自然変動(「2.1.1北太平洋の海面水温・表層水温」)が重なっていると考えられる。


>図1.2-3-3 熱膨張による海面水位の変化率

図1.2-3-3 熱膨張による海面水位の変化率

海面から700m深までの表層水温の変化に伴う、海水の熱膨張による海面水位の変化率。衛星観測データのある1993~2010年について(a)と表層水温データのある1950~2012年について(b)。(a)と(b)で色の間隔が違うことに注意。

2 日本沿岸の海面水位の監視

(1)診断に用いるデータ

図1.2-4 診断に用いた海面水位観測地点

図1.2-4 診断に用いた海面水位観測地点

日本沿岸で地盤変動の影響が小さい検潮所を選択した。1906年から1959年までは4地点(左図)、1960年以降は16地点(右図)の検潮所を選択。1960年以降については、海面水位の長期変動パターンが類似している海域別に日本周辺をⅠ:北海道・東北地方の沿岸、Ⅱ:関東~東海地方沿岸、Ⅲ:近畿~九州地方の太平洋側沿岸、Ⅳ:北陸~九州地方東シナ海側沿岸の4海域に分類(右図)。
忍路、柏崎、輪島、細島は国土地理院の所管。東京は1968年以降のデータを使用している。
平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の影響を受けた可能性のある函館、深浦、柏崎、東京は、2011年と2012年のデータから除外している。八戸は、検潮所が流失したため欠測としている。

気象庁では、日本沿岸の74地点(平成25年1月1日現在)で潮位の観測を実施するとともに、他機関の検潮所の観測データも用いて海面水位を監視している。
日本沿岸の平均的な海面水位の長期傾向をつかむためには、できるだけ長期間にわたる地盤変動の少ない地点の潮位観測データが必要である。このような条件にある地点として、図1.2-4に示すとおり、1906年から1959年までは4地点を、1960年以降は16地点を選択した。前者については4地点ごとの年平均潮位平年差の平均値を日本沿岸の長期的な海面水位の評価に用いた。後者については、地域の偏りを受けないようにするため、まず16地点を長期変動パターンの類似している4海域に分け、海域ごとに年平均潮位平年差を求めた後、4海域を平均した値を日本沿岸の長期的な海面水位の評価に用いた(平年差は1981~2010年平均値からの差を表す)。

(2)海面水位の長期変化

(1)で求めた経年変動を図1.2-5に示す。 期間により地点数が異なるが、1960年以降の16地点における平年差の5年移動平均値(赤線)と4地点における平年差の5年移動平均値(青破線)は類似した変化傾向を示しており、この図は日本沿岸の海面水位の長期変化傾向をよく表しているとみることができる。
1950年頃に極大がみられ、1990年代までは約20年周期の変動が繰り返されている。また1990年代以降は上昇傾向と共に約10年周期の変動が確認できる。日本の気温が過去約100年間、比較的単調に上昇している(気象庁,2011)のとは異なり、ここ100年の日本沿岸の海面水位には、世界平均の海面水位にみられるような明瞭な上昇傾向はみられない。
IPCC第4次評価報告書と同じ期間で日本沿岸の海面水位の変化を求めると、20世紀を通した期間では有意な上昇を示さなかったが、1961年から2003年にかけては年あたり0.8[0.3~1.3]mmの割合で上昇し、1993年から2003年にかけては年あたり4.8[1.9~7.6]mmの割合で上昇した([]内は、信頼度水準95%の区間)。

図1.2-5 図1.2-4の地点・海域で平均した日本沿岸の海面水位の経年変動(1906~2012年)

図1.2-5 図1.2-4の地点・海域で平均した日本沿岸の海面水位の経年変動(1906~2012年)

1906年から1959年までは、地点ごとに求めた年平均海面水位の平年差を4地点で平均した値(白丸・黒破線)の推移、1960年以降については、4海域ごとに求めた年平均海面水位の平年差の平均値(白三角・黒線)の推移を示す。1981年から2010年までの期間で求めた平年値を0としている。青線は4地点平均の平年差の5年移動平均値(1960年以降の5年移動平均値を青破線で示す)、赤線は4海域平均の平年差の5年移動平均値を示す。

(3)海面水位の変動要因

地球温暖化に伴う海面水位の上昇を検出するためには、過去の海面水位変動の要因を明らかにし、自然変動と地球温暖化に伴う変化を可能な限り区別することが必要である。特に日本沿岸の海面水位に関しては、図1.2-5にみられる20世紀後半の約20年周期変動や1980年代半ば以降の大きな上昇の要因を明らかにすることが重要である。
気象研究所では、海洋大循環数値モデル(気象研究所供用海洋モデル:MRI.COM, Tsujino et al.2010)を用いて20世紀後半以降の海洋変動を再現する実験を実施し、日本沿岸海面水位変動の要因の解明に取り組んでいる。実験には、海洋モデルの水平解像度を従来の約100km(Yasuda and Sakurai, 2006: Tsujino et al. 2011)から約10kmに高解像度化したモデルを用いた(Tsujino et al. 2013)。これにより、日本近海の海流を詳細に表現することが可能となった。海洋モデルでは、海洋熱膨張などの海洋密度変化の効果は計算されるが、グリーンランドや南極大陸の氷床や山岳氷河の融解の効果は計算されない。図1.2-6に、モデル海面水位偏差の領域変化分(世界平均で0)に観測世界平均海面水位偏差(Church and White 2011)を加えたものをモデルの日本沿岸海面水位偏差として示し、観測海面水位偏差と比較する。


図1.2-6 日本沿岸の平均的な海面水位の観測値(赤線)と数値モデルによる再現値(青線)

図1.2-6 日本沿岸の平均的な海面水位の観測値(赤線)と数値モデルによる再現値(青線)

1960年~2007年の平均を0としている。

図1.2-7(上段)海洋大循環数値モデルで再現された1964~2007年の年平均日本沿岸海面水位変動(5年移動平均:mm)。,(中段)偏西風帯北部(東経160度から西経160度、北緯40度から北緯50度の領域)で平均した1960~2003年の冬季海面風応力東西成分変動(5年移動平均:Nm-2>)。,(下段)1960~2007年で平均した冬季海面風応力(矢印)とその東西成分(等値線:Nm-2)。

図1.2-7
(上段)海洋大循環数値モデルで再現された1964~2007年の年平均日本沿岸海面水位変動(5年移動平均:mm)。

1960-2007年の平均値を0とした。観測世界平均水位変動を除き、5年移動平均した。

(中段)偏西風帯北部(東経160度から西経160度、北緯40度から北緯50度の領域)で平均した1960~2003年の冬季海面風応力東西成分変動(5年移動平均:Nm-2)。

ただし、偏西風の強度変動の影響を取り除くため、各年の偏西風の最大値を引いた。1960-2003年の平均値を0とした。

(下段)1960~2007年で平均した冬季海面風応力(矢印)とその東西成分(等値線:Nm-2)。

海洋大循環モデルで再現された年平均日本沿岸海面水位変動と4年前の冬季海面風応力東西成分変動との回帰係数(カラー)。統計期間は1964~2007年。

海洋モデルで再現された日本沿岸海面水位変動は、図1.2-6に示されるように、約20年周期の変動や1980年代半ば以降の海面水位の上昇を再現する。海洋モデル実験や観測データの解析から、日本沿岸海面水位の20年周期の変動は主に北太平洋の冬季偏西風の南北移動や強度変動が原因であることが明らかとなった(Tsujino et al. 2013)。
図1.2-7上段は、観測世界平均海面水位偏差を含まない日本沿岸海面水位変動(モデル)、中段は偏西風帯の北部で平均した風応力東西成分の時間変動を示す(偏西風の強度変動の影響を取り除くため、各年の偏西風の最大値を引いてある)。両者を比較すると(時間軸が4年ずれていることに注意)、どちらも20年周期の変動が卓越しており、偏西風帯の北部で偏西風が強い年の約4年後は日本沿岸海面水位が高いことがわかる。一方、20世紀半ば以降偏西風は強くなる傾向にある。
図1.2-7下段の等値線は海面風応力東西成分の平年値、矢印は海面風応力の平年値を表す。北太平洋上の冬季偏西風は、北緯37度付近を中心として北緯25度~50度に存在する。陰影部は、日本沿岸海面水位が高い年から4年さかのぼった年の冬季海面風応力東西成分を示す。冬季偏西風の南北で正負の値、すなわち、偏西風が北部で強く、南部で弱くなることを意味する。
では、偏西風の変動はどのように日本沿岸海面水位の変動をもたらすのだろうか。北半球では、偏西風下の海洋表層で南向きの流れ(エクマン流)が生じる。エクマン流の強さは海上風の強さに比例するため、偏西風から南北に離れるほどエクマン流は弱くなる。このため、偏西風の南側の海洋表層では海水が収束し、海面を押し上げ、水温躍層を押し下げている。偏西風の北側では逆に海水が発散し、海面を引き下げ、水温躍層を引き上げる。もし何らかの理由により北部で偏西風が強化する場合、南側の海面の高い海域が北上することになる。これによって、北緯30度~45度の広い範囲で海面が上昇する。南部で偏西風が強化する場合は逆に海面が下降する。このように上昇(下降)した海面水位偏差は、地球自転の影響を受けて西向きに伝播(ロスビー波)し、4~5年かけて日本沿岸に到達して海面水位を上昇(下降)させる。
次に、偏西風が強くなる場合を考える。偏西風が南北に位置を変えずに強くなると、偏西風の南側の収束、北側の発散がそれぞれ強くなる。このため、偏西風の南側では海面が上昇、北側では海面が下降することになる。このような偏差はロスビー波によって日本沿岸に到達し、日本沿岸海面水位を変動させる。1980年代半ば以降(1985~2007年)の海面水位上昇は、年あたり約2.8mmである。図1.2-7では、1980年代半ば以降に日本沿岸海面水位が上昇していることがわかる。したがって、図1.2-6にみられた1980年代半ば以降の日本沿岸海面水位上昇の要因の一つとして冬季偏西風の変動が挙げられる。しかしながら、1980年代以降の冬季偏西風の変化による日本沿岸海面水位上昇率(年あたり1.0mm)は実際よりは小さく、残りの上昇は地球温暖化に伴う世界平均海面水位上昇が寄与していると考えられる。
上記は海洋モデルを用いた変動要因の考察であるが、海洋観測データを用いた考察も行われている。海面水位は海水の容積の変化によって変動するが、これは、水温と塩分の変化から算出できるので、海洋内部のこれらの観測データから海面水位の変動を知ることができる。

図1.2-8 東シナ海における海洋観測点(PN-1)と那覇検潮所の位置

図1.2-8 東シナ海における海洋観測点(PN-1)と那覇検潮所の位置

野崎ほか(2005)は、日本周辺海域における過去30年余りの観測データの解析から、日本の南方や父島周辺海域の海面水位の変動が、主に300m以深の海洋内部の水温変動によって引き起こされていることを示した。この水温変動は北太平洋中央部における水温躍層の深度変化が伝播して生じたものであり、上記海洋モデルの結果を観測データから支持する結果となっている。一方で、南西諸島周辺では次に示すように変動の要因が異なっている。
東シナ海の海洋観測点PN-1(図1.2-8)における海面水位の変動を図1.2-9に示す。これは海面から水深200m付近までの表層の水温と塩分の観測データから求めたものであるが、その変動は主に水温の変動によって生じている。那覇の海面水位の変動と比較すると、周期、振幅ともよく一致しており、南西諸島周辺の海面水位の変動が海洋表層の水温変動に起因することがわかる(金子ほか,2003)。これは、300m以深の海洋内部の水温変動によって引き起こされる海面水位の変動が卓越する日本南方海域の特徴とは異なっている。この表層水温の変動が、海面からの加熱によるものか、黒潮によって運ばれる熱量の変動によるものかについては調査中である。
図1.2-9 那覇の海面水位偏差(点線)とPN-1における海面から水深200m付近までの水温と塩分から計算した海面水位偏差(実線)の経年変動(ともに12か月移動平均)

図1.2-9 那覇の海面水位偏差(点線)とPN-1における海面から水深200m付近までの水温と塩分から計算した海面水位偏差(実線)の経年変動(ともに12か月移動平均)

1981年~2010年の平均を0としている。

3 診断

ここ100年の日本沿岸の海面水位には、世界全体を平均した海面水位にみられるような明瞭な上昇傾向はみられない。1950年頃に極大がみられ、1990年代までは約20年周期の変動が顕著である。また1990年代以降は上昇傾向と共に約10年周期の変動が確認できる。
数値モデルを用いて再現した1960年以降の日本沿岸の海面水位の変動は、20世紀後半において観測された日本沿岸の海面水位の約20年周期の変動をよく表現している。この変動の主要因は、北太平洋中央部における偏西風の南北分布や強度の変化に伴う海水の収束・発散によって生じた海面水位偏差が伝播してきたことによると考えられる。日本南方での海洋観測データもこの結論を支持している。
一方、南西諸島付近では、海洋観測データから求めた海面から水深200m付近までの海水の密度変化に伴う海水の厚みの変動と沿岸で観測された海面水位の変動がよく一致しており、表層水温の変動が海面水位の変動に影響を及ぼしていることが強く示唆される。
このように、日本沿岸の海面水位は様々な要因で変動しており、地球温暖化の影響がどの程度現れているかは明らかでない。地球温暖化に伴う海面水位の上昇を検出するためには、地盤変動の影響も含めて更なる調査が必要である。

参考文献



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