キーワードを入力し検索ボタンを押下ください。

1.1.1 世界の海面水温・表層水温

第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化
1.1.1 世界の海面水温・表層水温の要約はこちら
平成25年12月20日

診断概要

診断内容

 世界の年平均気温(陸域における地表付近の気温と海面水温の平均)は、1891年から2012年までの122年間で100年あたり約0.68℃の割合で上昇しており、二酸化炭素などの温室効果ガスの増加に伴う地球温暖化が大きく寄与していると考えられている。地球表面の7割の面積を占め大気の約1000倍もの熱容量をもつ海洋は、地球温暖化において大きな役割を果している。ここでは、世界の海面水温と表層水温について、2012年までの長期変化傾向を診断する。

診断結果

 世界の年平均海面水温は、1891年から2012年の122年間に100年あたり0.51℃上昇していた。これは世界の陸上気温(陸域における地表付近の気温)の上昇率(100年あたり0.83℃)より小さかった。また、半球別に海面水温の長期変化傾向をみると、北半球(100年あたり0.55℃)のほうが南半球(100年あたり0.48℃)より上昇率が大きかった。世界の年平均表層水温(海面から深さ700mまでの平均水温) は1950年から2012年の63年間に10年あたり0.021℃上昇していた。これらの事実は、地球温暖化予測実験で利用する気候モデルと呼ばれる数値モデルによる再現結果と符合している。海面水温や表層水温の長期的な上昇傾向には、地球温暖化の影響が現れている可能性が高い。

1 海面水温・表層水温の基礎知識

(1)海面水温の平均分布

海面水温とは、大気と海洋の境界(海面)の水温のことである。現実には海面そのものの温度を測定することは不可能であり、手法によって観測する深さが異なるが、通常深さ10m程度までの水温観測値を海面水温としている。
地球が球形であるために、海洋が太陽から受け取る熱量(日射量)は緯度によって異なる。図1.1.1-1(a)に年平均海面水温の平年値(1981~2010年の30年平均値)の分布を示す。全体としては、低緯度で高く、高緯度で低いという水温分布になっている。また、地球の自転軸が公転面に対して傾いているため、海面が受ける日射量は季節によって異なり、海面水温の分布は季節変化する。図1.1.1-1(b)、(c)に1月、7月の海面水温の分布を示す。中高緯度においては、年平均と比較して、1月の水温は北半球側で低く、南半球側で高い。一方、7月の水温は北半球側で高く、南半球側で低くなっている。
また、海面水温は、大気の運動の影響も受けている。例えば、太平洋赤道域の海面付近では、貿易風と呼ばれる東風が吹いている。この東風によって海面付近の暖かい水が太平洋の西部に吹き寄せられ、それを補償するように東部の南米沖では、深いところから冷たい水が海面近くに湧き上っている。図1.1.1-1(a)をみると、太平洋赤道域の海面水温は西部で高く、東部で低くなっていることがわかる。また、北半球(南半球)の大陸の西岸付近では、岸に沿って南向き(北向き)の風が吹くと、海面付近の暖かい海水は風の方向に力を受けるとともに、地球自転によるみかけの力であるコリオリ力を受け、沖側へ流される。それを補償するように、深いところから冷たい水が海面近くに湧き上ってくることがある。例えば、7月の北米西岸付近 の海面水温が周囲より低い原因の一つもこの湧き上がりだと考えられる。(図1.1.1-1(c))
このように、海面水温は、日射、大気の運動、海水の運動、地形といった様々な要因によって、複雑な分布をしている。

図1_1_1-1 海面水温の平年値の分布(単位:℃)

図1.1.1-1 海面水温の平年値の分布(単位:℃)

(a)年平均、(b)1月、(c)7月、平均値は1981~2010年の30年平均値。

(2)気候変動と海面水温の変動

気温や降水量などの平均状態とその変動に直接影響を及ぼすのは大気であるが、大気や水の循環の変動には海洋・陸面・雪氷の変動が深くかかわっている。そこで、大気・海洋・陸面・雪氷を相互に関連する一つのシステムとして捉えて「気候システム」と呼ぶ。気候システムを十分長い時間平均した平均的な状態を気候状態と呼ぶ。
海面水温の分布は、気候状態の決定に重要な役割を果たしている。海面水温が与えられると、熱帯では積乱雲の分布(大気を駆動する熱源の分布)が大体決まり、中緯度では低気圧の急速な発達などに影響を与えることになる。
しかしながら、(1)で述べたように、海面水温は日射や大気の運動などの影響を受けるので、気候状態は、実際には、大気と海洋の相互作用の結果として決まる。大気-海洋相互作用は気候状態を形成するのみならず、気候変動(気候状態からのずれで、時間スケールの長いもの)も引き起こしている。
大気-海洋相互作用によって引き起こされると考えられる気候変動には、数年規模で変動するエルニーニョ/ラニーニャ現象、十年から数十年規模で変動する太平洋十年規模振動などがある。これらは海面水温の変動を伴い、大気と海洋が連動した自然変動である。。図1.1.1-2図1.1.1-3にそれぞれの現象時の典型的な海面水温の変動パターンを示す。エルニーニョ/ラニーニャ現象、太平洋十年規模振動の詳細は2.32.1.1をそれぞれ参照されたい。

図1.1.1-2 エルニーニョ現象時の典型的な海面水温平年差の空間分布(単位:℃)

図1.1.1-2 エルニーニョ現象時の典型的な海面水温平年差の空間分布(単位:℃)

図1.1.1-3 太平洋十年規模振動の指数が正のときの典型的な海面水温平年差の空間分布(単位:℃)

図1.1.1-3 太平洋十年規模振動の指数が正のときの典型的な海面水温平年差の空間分布(単位:℃)

(3)地球温暖化と海面水温・表層水温の変化

図1.1.1-4 気候システムの各構成要素別の貯エネルギー変化量

図1.1.1-4 気候システムの各構成要素別の貯エネルギー変化量

青色は1961~2003年、紫色は1993~2003年の期間における変化量を示す。IPCC(2007)より。

世界各地の陸上の観測所で観測された地上気温から求めた世界の平均気温には、年々から数十年規模の自然変動と、期間全体を通した上昇の傾向が現れている(図1-1参照)。この上昇傾向は地球温暖化の現れであり、IPCCは第4次評価報告書で、20世紀半ば以降に観測された世界の平均気温の上昇のほとんどは、人間活動に伴う温室効果ガスの増加によってもたらされた可能性が非常に高いと結論づけている(IPCC, 2007)。過去約50年間に地球温暖化によって気候システムに貯えられた熱量の大部分は海洋の貯熱量の増加となっていると見積もられており(図1.1.1-4参照)、その約3分の2が海面から深さ700mまでに蓄えられているとされている。地球の表面の7割を占め、大気のおよそ1000倍もの熱容量をもつ海洋は、大気の温暖化に大きな影響を及ぼしていると考えられる。
気候モデルと呼ばれる数値モデルで地球温暖化について計算した予測結果では、海上の気温より陸上の気温の上昇が大きくなっている。この理由には、①陸面は海面より蒸発による冷却効果が小さいこと、②大陸は海洋より熱容量が小さいこと、が指摘されている(真鍋,2001)。また、南半球より北半球の気温の上昇が大きくなっている。これは、北半球のほうが大陸の占める割合が大きいからである。
気候モデルの予測結果は、大気の温暖化に海洋の存在が影響を及ぼすこととともに、地球温暖化によって海面水温に現れる変化※1が陸上気温のそれとは異なることを示している。以下では、100年以上の期間にわたる歴史的な観測データをもとに作成した時間的・空間的に均質な海面水温データベースや50年以上にわたる表層水温データベースを用いて、世界の海面水温と表層水温の長期変化傾向を示す。

※1 海面水温の長期変動が船舶などで観測された海上の気温の長期変動と同様な振る舞いをすることが示されている(浅井,1988など)。

2 海面水温の監視

(1)100年以上の期間にわたる海面水温の客観解析

気候の長期変動や地球温暖化の監視のためには、長期にわたる観測データが不可欠である。また、観測のない領域の値を適切に推定するには、時間的・空間的に不規則に分布する観測データを合理的に内挿する必要がある。
船舶が観測・通報する海面水温をはじめとする海洋気象データが、長年にわたって蓄積されてきたが、近年、それらが電子媒体化され、容易に多量のデータを扱えるようになってきた。こうしたデータとして、米国海洋大気庁(NOAA)作成のICOADS(International Comprehensive Ocean-Atmosphere Data Set)や、神戸コレクション(神戸海洋気象台(現 神戸地方気象台)が収集した過去の海洋気象データ)を気象庁と日本気象協会がデジタル化したものがある。
気象庁では、この二つのデータや現業的に収集している近年のデータなどを合わせた100年以上にわたる歴史的な観測データを用いて、客観解析(観測データから規則的に配列された格子点上の値を合理的に推定する作業)を行い、1891年から現在までの100年以上にわたる1度格子の海面水温と海上気象要素の格子点データを整備した(COBE :Centennial in-situ Observation-Based Estimates of the variability of sea surface temperatures and marine meteorological variables)。このうち、海面水温のデータセットをCOBE-SST(Sea Surface Temperature)と呼ぶ。COBE-SSTは、19世紀末から現在までの世界全体を対象にした客観解析値で、空間の分解能は、経度、緯度とも1度となっている。
客観解析の前に観測データには品質管理が施されるが、その際、1950年以前のデータには観測方法の違いによる観測誤差が比較的大きいため、それらを補正している。また、客観解析には、最適内挿法と呼ばれる方法を用いている。詳しくは、Ishii et al.(2005)や石井ほか(2003)を参照されたい。
ここでは、1891~2012年のCOBE-SSTを用いて海面水温の長期変化傾向を診断する。

(2)海面水温の長期変化傾向

図1.1.1-5に世界の年平均海面水温平年差の時系列を示す。5年移動平均値(図の青い曲線)では、1910年頃に極小、1940年代初頭に極大となっている。それ以降、しばらく横ばい傾向であったが、1970年代半ば以降、再び上昇傾向となった。2000年代に入ってからは上昇傾向は鈍っている。このように、世界の年平均海面水温は、十年~数十年の時間スケールで変動しつつ上昇している。

>図1.1.1-5 世界の年平均海面水温平年差の経年変化(1891~2012年)

図1.1.1-5 世界の年平均海面水温平年差の経年変化(1891~2012年)

各年の値を黒い実線、5年移動平均値を青い実線、長期変化傾向を赤い実線で示す。平年値は1981~2010年の30年平均値。

こうした海面水温の長期変動は陸上気温(陸域における地表付近の気温)とおおまかには同じパターンとなっている(図1.1.1-6)。また、1891年から2012年までの海面水温の長期変化傾向(図1.1.1-5の赤の直線)は100年あたり0.51±0.05℃の上昇で、上昇率は陸上気温(同じ期間に100年あたり0.83℃上昇)より小さな値となっている(上昇率は線形回帰から求めたもので、95%の信頼限界を±を付記した数値で示している)。これら陸上気温と海面水温を平均した世界全体の年平均地上気温の上昇率は、100年あたり0.68℃となっている。

図1.1.1-6 世界の年平均陸上気温の平年差の経年変化(1880~2012年)

図1.1.1-6 世界の年平均陸上気温の平年差の経年変化(1880~2012年)

各年の平均気温の基準値からの偏差を黒い実線、偏差の5年移動平均を青い実線、長期的な変化傾向を赤い実線で示す。基準値は1981~2010年の30年平均値。

半球別に海面水温の長期変化傾向をみてみると、北半球では100年あたり0.55℃の上昇、南半球では100年あたり0.48℃の上昇であった。
海面水温の長期変化傾向の分布を図1.1.1-7に示す。相対的に大西洋とインド洋での上昇が大きく、南太平洋での上昇が小さい。時間的な変化を海域ごとに見るために、図1.1.1-8のように、南北太平洋、南北大西洋、インド洋の5海域に区分して、図1.1.1-9に、それぞれの海域の海面水温平年差の時系列を示す。5年移動平均値(図の青い曲線)では、1910年頃に極小、1940年代初頭に極大、1970年代半ば以降再び上昇傾向、といった特徴が、ほぼ全ての海域に共通してみられる。北大西洋の海面水温の変動については、大西洋数十年周期振動(Atlantic Multi-decadal Oscillation)と呼ばれる、海面水温の温暖な時期と寒冷な時期が数十年規模で交互に発生するような数十年規模の自然変動が存在しており、1990年代半ば以降の海面水温の急激な上昇については、長期的な海面水温の上昇に加え、この自然変動の影響によるものと考えられる(IPCC,2007)。5海域の海面水温の長期変化傾向(図の赤の直線)は100年あたり0.4~0.7℃の上昇であった。

図1.1.1-7 年平均海面水温の長期変化傾向(1891~2012年)

図1.1.1-7 年平均海面水温の長期変化傾向(1891~2012年)

1891~2012年における100年当たりの変化傾向。変化が90%以上の信頼度で統計的に有意な領域に+を付けた。

図1.1.1-8 海域区分

図1.1.1-8 海域区分

1:北太平洋、2:南太平洋、3:北大西洋、4:南大西洋、5:インド洋

図1.1.1-9 各海域の年平均海面水温平年差の経年変化(1891~2012年)

図1.1.1-9 各海域の年平均海面水温平年差の経年変化(1891~2012年)

各年の値を黒い実線、5年移動平均値を青い実線、長期変化傾向を赤い実線で示す。平年値は1981~2010年の30年平均値。

3 表層水温の監視

(1)50年以上の期間にわたる表層水温の客観解析

海洋表層は海面を通じて大気と直接熱をやり取りし、海洋に蓄えられた熱量の3分の2が海面から深さ700mまでに吸収されていると見積もられている。このため、海洋表層は気候変動において重要な役割を果たしている。
表層水温についても、海面水温と同様に観測データを客観解析して格子点上の解析値を作成し、長期変化傾向を診断する。海洋内部の観測は海面水温に比べて観測数が少なく、時代をさかのぼるにつれて、あるいは観測深度が深くなるにつれて観測数が少なくなる。これらの事情を考慮して、ここでは海面から深さ700mまでの海洋表層について、1950年から2012年までの63年間を対象に客観解析を行った。
客観解析は、Ishii and Kimoto(2009)の手法に従い、世界全体の緯度経度それぞれ1度ごと、海面から深さ700mまでに16層の格子を対象に、1950年1月から1か月ごとに行っている。また、観測方法の違いによる誤差も補正している。この客観解析値を用いて、表層水温の長期変化傾向を診断する。

(2)表層水温の長期変化傾向

図1.1.1-10に世界の年平均表層水温平年差の時系列を示す。世界全体で平均した表層水温は年ごとに上昇下降を繰り返しつつも1950年以降長期的に上昇傾向にあり、1950年から2012年の63年間に10年あたり0.021±0.003℃(±は95%の信頼区間)の割合で上昇していた。近年では1990年代半ばから2000年代初めにかけて特に大きな昇温がみられ、その後も水温が高い状態が続いている。2000年代に入ってから、上昇傾向が鈍っている様子が見られるが、引き続き有意に上昇している 。700mよりも深い層では2000年代以降も水温の上昇が続いているという研究があり(Levitus et al., 2012;Balmaseda et al., 2013)、地球温暖化の監視において海洋内部の水温の把握が重要であることを示している。1950年から2012年の間に、海面水温は10年あたり0.072℃の割合で上昇しており、上昇率は表層水温のほうが小さくなっている。
海面水温と同じく図1.1.1-8の5海域に区分した表層水温平年差の時系列を図1.1.1-11に示す。上昇率は海域によって異なり、北大西洋の上昇率が10年あたり0.051±0.007℃で、5海域中最も大きい値となった。

図1.1.1-10 世界の年平均表層水温平年差の経年変化(1950~2012年)

図1.1.1-10 世界の年平均表層水温平年差の経年変化(1950~2012年)

丸付きの実線は年々の値、陰影は各年の解析値の95%信頼区間を表す。
平年値は1981~2010年の30年平均値。

図1.1.1-11 各海域の年平均表層水温平年差の経年変化(1950~2012年)

図1.1.1-11 各海域の年平均表層水温平年差の経年変化(1950~2012年)

(a) 北太平洋、(b) 南太平洋、(c) 北大西洋、(d) 南大西洋、(e)インド洋。
実線は年々の値、陰影は各年の値の95%信頼区間を表す。
平年値は1981~2010年の30年平均値。

4 診断

世界の年平均海面水温は、年々から数十年規模の自然変動を伴いつつ、1891年から2012年までの122年間で100年あたり0.51℃の割合で上昇していた。これは、陸上気温の上昇率(100年あたり0.83℃)より小さかった。また、北半球の海面水温の上昇率のほうが南半球より大きかった。
世界の表層水温(海面から深さ700mまでの平均水温)も、海面水温と同様に様々な時間スケールの自然変動を伴いつつも、1950年から2012年までの63年間で10年あたり0.021℃の割合で上昇していた。この上昇率は同じ期間の海面水温の上昇率(10年あたり0.072℃の上昇)よりも小さかった。
これらの事実は、地球温暖化予測実験で利用する気候モデルと呼ばれる数値モデルによる再現結果と符合しており、陸面は海面より蒸発による冷却効果が小さいことや、大陸は海洋より熱容量が小さいことに起因していると考えられる。海面水温と表層水温の長期的な上昇傾向には、地球温暖化の影響が現れている可能性が高い。

参考文献



本文 | 印刷用(PDF) | 更新履歴

印刷用(PDF)



本文 | 印刷用(PDF) | 更新履歴

更新履歴

内容更新

誤植訂正



第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化 <<前へ | 次へ>> 1.1.2 北西太平洋の底層の水温変化


Adobe Reader

このサイトには、Adobe社Adobe Readerが必要なページがあります。
お持ちでない方は左のアイコンよりダウンロードをお願いいたします。

このページのトップへ