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表面海水中のpHの長期変化傾向(太平洋)

平成28年5月31日発表(次回発表予定 平成29年5月31日)

気象庁地球環境・海洋部

診断(2015年)

  • 太平洋の10年あたりのpHの低下速度は0.016となっており、1990年以降、約0.04低下しています。
  • 太平洋の広い海域で表面海水中の水素イオン濃度指数(pH)が低下し、海洋酸性化が進行しています。
表面海水中のpHの長期変化 表面海水中のpHの長期変化

太平洋全域における表面海水中の水素イオン濃度指数偏差の長期変化(左図)と2015年における太平洋のpH分布図(右図)

左図は太平洋における表面海水中のpHの平年偏差時系列を示します。平年値は1990年から2010年までの平均としています。
黒太線は偏差の平均値、塗りつぶしは標準偏差の範囲(±1σ)を示しています。破線は長期変化傾向を示しています。
左図中の数字は10年あたりの変化率(減少率)を示し、"±"以降の数値は変化率に対する95%信頼区間を示しています。
解析手法の詳細は、表面海水中のpHの分布及び長期変化傾向の見積もり方法をご覧ください。
右図は、pHの分布を示し、色が暖色系であるほどpHの数値が低いことを示しています。
なお、掲載しているデータは、解析に使用しているデータの一部に暫定値を含むため、後日確定値に修正する場合があります。

解説

太平洋の表面海水中の水素イオン濃度指数(pH)は、1990年から2015年までの期間で、10年あたり0.016の割合で低下しています。

海域ごとにみると、北太平洋から南太平洋にかけてのほとんどの海域でpHが低下しており、海洋酸性化が太平洋の広い範囲で進行しています。海域別の10年あたりのpHの低下速度は、北太平洋亜熱帯域で0.019、太平洋赤道域で0.015、南太平洋亜熱帯域で0.014、南太平洋亜寒帯域で0.021となっています(下図参照)。


pHの低下傾向と海洋酸性化

海水のpHが長期間にわたり低下する傾向を『海洋酸性化』といい、おもに海水が大気中の二酸化炭素を吸収することによって起きています。現在の海水は弱アルカリ性(海面においてはpH約8.1)を示しています。二酸化炭素は水に溶けると酸としての性質を示し、海水のpHを低下させます。

現在、大気中の二酸化炭素濃度は増加し続けており、海洋はさらに多くの二酸化炭素を吸収することになるため、より酸性側になることが懸念されています。 (『海洋酸性化』とは海洋が酸性(pHが7以下)になることではなく、より酸性側に近づいて(pHが低下して)きていることを指しています。)

表面海水におけるpHの低下と海面水温の上昇が進行すると、将来、海洋が大気から二酸化炭素を吸収する能力が低下する可能性があると指摘されています(IPCC, 2013)。海洋の二酸化炭素を吸収する能力が低下すると、大気中に残る二酸化炭素の割合が増えるため地球温暖化が加速される可能性があります(Raven et al., 2005)。また、海洋酸性化の進行によってプランクトンやサンゴなど海洋生物の成長に影響が及ぶため(IPCC, 2013)、水産業や観光業などへの影響も懸念されています。

太平洋におけるpH分布の変動

表面海水中のpHは、海水の循環や生物活動の違いにより、海域ごとに示す値は大きく異なります。また、季節的な変動や、エルニーニョ/ラニーニャ現象などの影響による時間変動もみられます。

赤道域では二酸化炭素を多く含んだ海水が下層から湧昇していることにより、高緯度の海域よりもpHが低い値を示します。また、季節変動は小さいものの、エルニーニョ/ラニーニャ現象の影響が大きく現れています。エルニーニョ時には、二酸化炭素を多く含んだ海水の湧昇が弱まるため、pHが高くなる傾向があります (海洋による二酸化炭素の吸収・放出の分布 -年々から十年規模の変動 参照)。

亜熱帯域や亜寒帯域は赤道域よりも高いpHの値を示し、季節変動が大きいという特徴があります。水温の変化によってpHは変化するため、亜熱帯域では、水温の低い冬季にpHが高く、水温の高い夏季にpHが低くなります。亜寒帯域では、冬季に海水がかき混ぜられ二酸化炭素が豊富な下層の水と混ざることでpHが低下したり、夏季に植物プランクトンによる光合成によって二酸化炭素が消費されるためpHが上昇する、などの変動がみられます。

表面海水中のpHの長期変化傾向(太平洋)の診断について

表面海水中のpHの長期変化傾向(太平洋)の診断では、飯田ほか(2014)の方法に基づく表面海水中の二酸化炭素濃度分布と、Takatani et al. (2014)の方法に基づく全アルカリ度分布から、pHを計算して求めています。同じ水でも水温によってpHの値は少し変化します。ここでは、現場水温におけるpHの値を示しています。

参考文献

  • 飯田洋介・小嶋惇・中野俊也・石井雅男,2014:全球における大気-海洋間二酸化炭素交換量推定手法の開発.測候時報,特別号,81,S1-25.
  • IPCC (2013), Climate Change 2013: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Fifth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change [Stocker, T.F., D. Qin, G.-K. Plattner, M. Tignor, S.K. Allen, J. Boschung, A. Nauels, Y. Xia, V. Bex and P.M. Midgley (eds.)]. Cambridge University Press, Cambridge, United Kingdom and New York, NY, USA, 1535 pp.
  • Raven, J. et al. (2005), Ocean acidification due to increasing atmospheric carbon dioxide, Policy document 12/05, The Royal Society, London, UK, 60pp.
  • Takatani, Y., K. Enyo, Y. Iida, A. Kojima, T. Nakano, D. Sasano, N. Kosugi, T. Midorikawa, T. Suzuki, and M. Ishii (2014), Relationships between total alkalinity in surface water and sea surface dynamic height in the Pacific Ocean, J. Geophys. Res. Oceans, 119, 2806-2814, doi:10.1002/2013JC009739.
表面海水中のpHの長期変化 表面海水中のpHの長期変化 表面海水中のpHの長期変化
表面海水中のpHの長期変化 表面海水中のpHの長期変化

(a)北太平洋亜熱帯域、(b)太平洋赤道域、(c)南太平洋亜熱帯域、(d)南太平洋亜寒帯域における表面海水中の水素イオン濃度指数の長期変化と2015年における太平洋のpH分布図(中央)

中央の図は、pHの分布を示し、色が暖色系であるほどpHの数値が低いことを示しています。
(a)から(d)の図は各海域における表面海水中のpHの時系列を示します。太線は平均値、塗りつぶしは±1σの範囲、破線は長期変化傾向を示しています。 (a)から(d)の図中の数字は10年あたりのpHの変化率(減少率)を示し、"±"以降の数値は変化率に対する95%信頼区間を示しています。
なお、掲載しているデータは、解析に使用するデータの変更などにより修正する場合があります。


2月 5月
pH分布(02月) pH分布(05月)
8月 11月
pH分布(08月) pH分布(11月)
color

各季節における平均的なpHの分布図

2月、5月、8月及び11月の平均的なpHの分布図を示しています。平均期間は1990年から2010年までです。

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