海洋の二酸化炭素の観測

海洋二酸化炭素観測の重要性と国際協力

海洋は、大気に存在する約50倍の二酸化炭素を蓄積しており、人間活動により大気に放出された二酸化炭素の約30%を吸収しています。 このように、海洋は、地球温暖化の主な要因である二酸化炭素を吸収し、海洋の中に蓄えることで、温暖化の進行を抑制していると言われています。 しかし海洋の吸収能力が弱くなれば、二酸化炭素が大気中により多く残ることとなり、地球温暖化はさらに加速することになります。 そのため、海洋の二酸化炭素の監視が重要な課題となっています。

広大な全世界の海洋の二酸化炭素の分布や変動を監視するためには国際的な協力が不可欠です。 このため、ユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)内に設置された国際海洋炭素調整計画(IOCCP)の下、世界の多くの国々が協力して、海洋における二酸化炭素の観測を行っています。 気象庁は、2隻の海洋気象観測船「凌風丸」と「啓風丸」により北西太平洋域の二酸化炭素観測を実施しています。

気象庁における海洋の二酸化炭素観測は、1981年に気象研究所の研究観測として始まり、 1989年から凌風丸で、2000年から啓風丸で定期的な観測を開始しました。2010年からは、両船の観測機能の強化を図り、 海水中の二酸化炭素関連要素の高精度な観測を行っています。

海洋の二酸化炭素の観測項目と方法

気象庁では、表面海水中および大気中の二酸化炭素濃度と海水中の二酸化炭素に関連する3つの要素(全炭酸濃度、pH、全アルカリ度)を観測しています。 これらのうち、表面海水中および大気中の二酸化炭素濃度の観測は、観測船の航行中に連続して行っています。 そのほかの3つの要素については、観測船を停めて多筒採水器と呼ばれる観測機器を4000mを超す深海まで降ろして海水を採取し、船内の実験室で分析しています。

海水を瓶に採取している様子 瓶に採取された海水
海水を瓶に採取している様子 瓶に採取された海水

(1)表面海水中および大気中の二酸化炭素

表面海水中の二酸化炭素濃度の測定には船底からポンプで連続的に汲み上げられる海水を用います。また、大気は船首からポンプで引き込みます。

海水中の二酸化炭素濃度の分析は、シャワー式平衡器を用いて、大量の海水と少量の空気の間で、 二酸化炭素分子の移動が見かけ上なくなった平衡状態を作り出し、この空気中の二酸化炭素濃度を測定することによって表面海水中の二酸化炭素濃度を求めています。 空気中の二酸化炭素濃度の測定には非分散型赤外線分析計を用い、二酸化炭素濃度がわかっている標準ガスと比較して値を決めています。

表面海水中の二酸化炭素濃度がそれと接している大気中の二酸化炭素濃度に比べて低ければ、 海水は大気中の二酸化炭素を吸収し、その逆であれば大気に二酸化炭素を放出することになります。

二酸化炭素濃度は、乾燥させた空気に対する二酸化炭素の存在比であり、体積の100万分率の単位であるppmで表わしています。 また、大気と海洋の間でのやり取りされる二酸化炭素の量を定量的に扱う場合には、二酸化炭素濃度の単位を圧力の単位で示します。 これを二酸化炭素分圧と呼び、µatm(100万分の1気圧)で表わしています。

二酸化炭素分圧pCO2(µatm)は、二酸化炭素濃度χCO2(ppm)気圧 P(atm)と飽和水蒸気圧e(atm)を用いて次の式で求めることができます。

pCO2(µatm)=(PeχCO2 (ppm)
表面海水中および大気中の二酸化炭素濃度観測の概略図
表面海水中および大気中の二酸化炭素観測の概略図

(2)全炭酸濃度

二酸化炭素は海水に溶けるとすぐにそのほとんどが炭酸水素イオン(HCO3-)や 炭酸イオン(CO32-)といった陰イオンの状態になります。二酸化炭素そのままの状態で存在するものと、これらのイオンの総濃度を全炭酸濃度と呼びます。 全炭酸濃度の観測により大気から吸収した二酸化炭素がどの海域にどの程度蓄積しているかを知ることができます。

海水中の炭酸水素イオンや炭酸イオンは、海水を強酸性にすることで気体の二酸化炭素の状態になります。 このため、採取した海水にリン酸を加えて強酸性とし、さらに純窒素ガスを通すことで、海水からすべての二酸化炭素を追い出すことができます。 海水から追い出された二酸化炭素の量を、「電量滴定」と呼ばれる方法で測定することで、海水中の全炭酸濃度を求めています。

全炭酸濃度は、1kgの海水中に溶けている化学物質の物質量(µmol/kg)で表わしています。µ(マイクロ)は百万分の1です。

採水瓶を装置にセット 海水から二酸化炭素を追い出す様子
採水瓶を装置にセット 海水から二酸化炭素を追い出す様子

(3)pH(水素イオン濃度指数)

pHは酸性・アルカリ性の度合いを表す指標で、通常の海水のpHはおよそ8で弱アルカリ性です。 海水が二酸化炭素を吸収するとpHは低下(酸性化)し、二酸化炭素を吸収しにくくなります。また、海水が酸性化することで、海洋生物への影響が危惧されています。

海水のpH測定は、pH指示薬(メタクレゾールパープル)を加えた海水を分光光度計で測ることで行います。 メタクレゾールパープルは、海水のpHの範囲である7.3~8.3で鋭敏に色が変わるので、これを利用することでpHを高精度に測定できます。

pH測定中
pH測定中

(4)全アルカリ度

海水は酸である二酸化炭素が多く溶けているにもかかわらず弱アルカリ性です。 これは、二酸化炭素を含む酸性成分よりもさらに多くのアルカリ成分が溶けていることによります。 全アルカリ度は、その海水が持つ二酸化炭素などの酸を中和する能力を表します。 海水中にアルカリ成分が存在することで、二酸化炭素の吸収などによる海水の急激な酸性化が抑制されています。

気象庁では、海水を中和するのに要した塩酸の量から、全アルカリ度を求めています。

アルカリ度も、全炭酸濃度同様、1kgの海水中の物質量(µmol/kg)で表わします。

その他二酸化炭素に関連する観測項目

気象庁では、上記以外にも海洋の二酸化炭素の状態やその変動の要因を調べるために、水温や塩分、栄養塩や溶存酸素などの観測を行っています。

海水の基礎的データである水温や塩分は、全炭酸に占める二酸化炭素、炭酸水素イオンおよび炭酸イオンの比率を算出するのに必要な要素です。 溶存酸素、栄養塩類(硝酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩)や植物色素(クロロフィルa)は、二酸化炭素の量を変化させる海洋の生物活動を調べることに利用されます。 さらに、二酸化炭素の海洋内での分布に影響を与える海水の循環や混合に関する情報を得るため、クロロフルオロカーボン類(フロン類)の観測も行っています。

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