海洋への熱の蓄積について

地球表面の7割を占める海洋は、大気に比べて熱容量が大きいため大量の熱を蓄積しており、大気との熱のやり取りを通して様々な時間・空間スケールで気候に大きな影響を与えます。このため、気候変動の監視、解析を行うためには、海面だけでなく海洋内部が蓄えた熱量(海洋貯熱量)の変化を詳細かつ正確に捉えることが重要です。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書(IPCC, 2013)は、1971年から2010年の40年間で気温の上昇や氷の融解などを含む地球上のエネルギー増加量の60%以上が海洋の表層(ここでは海面から深さ700mまでを指します)に、およそ30%は海洋の700mよりも深いところに蓄えられたと見積もっています(図1)。IPCC海洋・雪氷圏特別報告書(2019)では、海洋の温暖化は人間活動の直接的な結果であると指摘しています。

海洋の貯熱量は、数十年にわたる観測結果をもとに複数の見積もりがなされており(Dominguess et al., 2008; Levitus et al., 2012; Cheng and Zhu, 2018など)、海洋の健康診断表の「海洋貯熱量の長期変化傾向(全球)」ではIshii et al. (2017)の手法を用いて解析しています。解析手法ごとに、観測データの品質チェックや観測の少ない海域の水温推定方法に違いがあるため各年の値や長期変化傾向の大きさに違いはありますが、いずれの手法によっても海洋貯熱量が過去およそ60年にわたって増加していると解析されています。また、2000年前後から2010年代前半にかけては地上気温の上昇率が小さい時期がありましたが、その間も海洋貯熱量は増加し続けており、絶えず地球システムが熱量を蓄えてきたことも判明しました(図2)。

海洋貯熱量の増加は海水温の上昇を意味し、結果、海水が熱膨張して海面水位が上昇します(海面水位の変動要因)。海水温の上昇が海面水位上昇に寄与する割合を推定するため、Kuragano et al. (2015)の手法で解析した人工衛星観測による海面水位とIshii et al. (2017)の手法で解析した海水温の変化から見積もった熱膨張量を比較しました(図3)。人工衛星の観測によると、南緯66度から北緯66度までの平均海面水位は1993年から2018年までの間に1年あたり3.18±0.13mmの割合で上昇していました。一方、海水温の変化に伴う熱膨張によって、海面水位は同じ期間に1年あたり1.17±0.10mmの割合で上昇したと見積もられました。つまり、1993年から2018年までの海面水位の上昇量のうち約4割が、海水温の上昇に伴う熱膨張によるものと考えられます。

地球システムにおけるエネルギー変化量

図1 地球システムにおけるエネルギー変化量

地球の気候システムの各構成要素が蓄積したエネルギー量。(IPCC, 2013のBox3.1のFigure 1を引用)


全球平均地上気温と海洋貯熱量の比較

図2 全球平均地上気温と海洋貯熱量の比較

全球平均の地上気温の平年差(上段)と海洋貯熱量の平年差(下段)を示す(1955~2019年)。平年値は1981-2010年の30年平均値


平均海面水位の推移

図3 平均海面水位の推移

南緯66度から北緯66度までの海面水位を1993年の値からの変化量として表す。紫は衛星による観測値、オレンジは海面から水深2000mまでの水温から推定した熱膨張による変動成分。衛星による観測値はコペルニクス海洋環境監視サービス (CMEMS) より入手した海面高度データを基に解析している。

参考文献

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